第13話:契約しよう
いきなり現れた魔法陣と黒い光に驚いて呆然としていたが、少し経つと、スライムを包んでいた黒い光が、だんだんと消えていった。
光が消えると、そこには、特に変わった様子のない、さっきまでと同じスライムが鎮座していた。
なにが起きたのか分からず、スライムを見つめていると、スライムもこっちを見ているような気がした。
スライムは水色透明の真ん丸の体で、目なんて無いが、なのに、まるで、つぶらな瞳でこちらを見上げているように見えた。
そして、なんとなくではあるけれど、目の前のスライムの言いたいことが分かるような気がしてきた。
「・・・・・・・・・あなた。私に、名前を付けて欲しいの?」
と思わず問いかけると、
ぷるっん!と体を揺らした。
・・・それはまるで、「はい!」と返事をしているように、思えた。
♢ ♢ ♢
スライムを包んだ黒い光や、その後、スライムから伝わってくる念のようなものを感じながら、考える。
・・・よく、わかんないけど、私に懐いてくれてるの?
とりあえず、名前を考えようか。状況に流されている気はするけど、ペットにしたいと思ったのも事実だから・・・
けど、名前かぁー
カイト達の時にも悩んだんだよなぁ。
・・・ここは、同様に直感で、・・・・・・・・・
「・・・リン。リンなんてどうかな?」
そう、目の前のスライムに提案してみる。
するとスライムは再び、ぷるっん!と体を揺らした。
了承してくれたみたいだ。
「私はコトハ。よろしくね、リン!」
その時再び、リンの体を黒い光が包んだ。
そして今度は、その光が一点に集まり、放物線を描きながら私に向かって、流れ込んできた。
・・・光自体は、数秒でまた消えてなくなった。
しかし、なんだか、こう、先程までと違う感覚があった。
目の前にいるスライム —リンとの繋がりが、さっきまでの曖昧な感じではなくて、もっと強固な、深いものになったような気がした。
ふと、思いついて、リンにもう一度『鑑定』を使ってみた
♢ ♢ ♢
名前:リン
種族:オリジンスライム
スキル:吸収1
固有スキル:形態変化、自動回復小
ユニークスキル:マジックボックス小
耐性:魔法攻撃耐性1
称号:コトハ・ミズハラの従魔
♢ ♢ ♢
・・・・・・えーっと、とりあえずステータスが見られるようになってる。
種族は『オリジンスライム』ね。オリジンってことは、起源ってこと?
起源のスライム? なんじゃそりゃ。
スキルの『吸収』は、スライムって感じだよね。さっきも葉っぱとか吸い込んでたし。
『形態変化』はなんだろう。別の形になったりするんだろうか・・・
『自動回復』は私と同じ。
でもって、『マジックボックス』。
これって、名前は思ってたのと違うけど、あれだよね!?
さっきまで何回も試していた、あれ。
スライムのリンに使えて、私は使えないのかー
ちょっと落ち込む。
そして称号。『コトハ・ミズハラの従魔』か。
コトハ・ミズハラ、つまり私だ。私の従魔ってことか。
従魔ってことは、私はリンと、いわゆる従魔契約みたいなものを結んだってことだよね。
・・・恐らくさっきの、2回目の黒い光だ。リンを出た黒い光が、私に流れ込んできてから、リンとの繋がりのようなものを強く感じるようになったから。
・・・そうすると、1回目のあれは?
なんか魔法陣まで出てきてたけど。
あれの後で、リンが言いたいことが分かるようになった気もするし、何らかの意味はあったのだろう。
・・・・・・今は、リンが私の従魔になったことを、素直に喜ぶべきかな。
「リン。これからよろしくね!」
リンは、ぷるっん!と体を揺らして答えた。
♢ ♢ ♢
〜リン視点〜
・・・膨大な力を感じる。
今まで感じたことが無いような、力の塊。
ソレを避けようと、反対方向に進もうとしたとき、ソレが急に方向を転換した。
驚いて、動いてしまった。
すぐ近くに、ソレの膨大な力を感じる。
自分を狙う、食べようとするやつとは全く異なる、強大な力。
怖くて動けないでいると、ソレは何か音を出した。声を発したのかもしれない。
すると、ソレからもの凄い魔力が流れ込んできた。
少し経つと、魔力の流れが収まった。
すると、先程まで恐怖しか感じなかったソレを、妙に温かく感じるようになった。
それに、なんだか力が沸いてくるような気がする。
さらにソレの感情が分かるようになった。
どうやら、自分のことを、気に入ったようだ。
自分も、ソレのことを、気に入っている。
今まで感じたことのないような、心地のいい感じ。
この繋がりを、失いたくないと思った。
ずっと、この心地のよいソレの近くにいたいと思った。
ソレは自分の思いを受け取ってくれたようだ。
ソレは自分に、「リン」という名前をくれた。
それと同時に、再びソレとの間で魔力の繋がりが形成された。
今度は、さっきのより、ずっと強い、深い、繋がりだ。
ソレは、「コトハ」と名乗った。
自分、リンのご主人様だ。
自分はずっと、コトハの側にいる。そう誓った。