第7話 変装
玲奈からの誘いは断った。
特別仲が良いとかいうわけでもなかったからだ。
一番の理由は、咲茉が家にいるからだけど。
◇ ◇ ◇
「なぁ、俺見たい映画あるんだけどさ」
お昼ご飯の焼きそばを口に詰めながら、そう言って俺は話を始める。
「お金は払うから一緒に行かない?」
そう尋ねてみたがしばらく待っても返事は返って来ず、咲茉はうつむいてしまった。
「あ、別に嫌だったらいいんだけどね?」
いじめを受けていた女の子なのだ。
多少、トラウマなどがあってもおかしくはない。
彼女の思っている事を聞きたいと思い、しばらく静かにして待っていると、俺の焼きそばが無くなったのとほぼ同時に咲茉が口を開いた。
「行きたい、けど……」
「けど?」
「……もし、クラスメイトとかに会ったりしたら、蒼空も危ないんじゃないの……?」
どうやら彼女は、俺の心配をしてくれていたようだった。
涙目になって、本気で悩んでいる様子。
なんでこんな子がいじめられるんだよ。
「どうしよう……」
咲茉は、見ているこっちが辛くなるほどの表情で唸っている。
そこで、俺はある提案をした。
「咲茉が、《《同じクラスの咲茉だ》》ってバレなきゃいいんでしょ? なら、変装すればいいじゃん」
「でも、そんなのしても分かっちゃうよ……?」
不安そうに俺を見つめて、彼女は言う。
「……ちょっと待ってて」
そう呟くように言って、少し悩んでから俺はリビングを出て行った。
◇ ◇ ◇
ほんの一分程度で帰ってきた俺に、驚いた顔を見せる咲茉。
可愛らしい顔をしている。
そんな天然っぽい表情をしている咲茉に、取ってきた紺色のツバのある帽子を被せる。
「ん、」
「おぉ、やっぱり帽子があるだけでだいぶ印象変わるな」
思わずそう言葉を漏らした通り、普段帽子を被らなさそうな顔をしている咲茉は、パッと見誰かわからない。
全然美少女なのはバレるけど。
「髪の毛も括ってメガネかけたら絶対バレないよ」
「ほんと?」
「鏡見てきたら? 自分でも誰かわからないかもよ?」
彼女の変装している姿を思い浮かべると何故か面白くて、笑いをこらえながら俺は言う。
「笑ってる。そんなに帽子似合わない?」
ちょっと気にしているのか、帽子のツバを持って角度を何度か変えるような仕草をする。
「に、似合ってるよ」
「嘘。今にも吹き出しそうじゃん」
「でも目的は変装だから……ふふ。似合ってなくても、いいよ思うよ」
笑うのを必死にこらえて、立てた親指を咲茉に向ける。
「……そうだけど、」
「だろ」
俺が一言返事を返してから数秒開けて、彼女は何か呟いた。
「……なるべく可愛い格好して、蒼空にもっと見てもらいたいんだもん……」
小声だったが、部屋が静かなのもあって俺は聞き逃さなかった。
……いや、似合ってないとしても、元が良いから十分可愛いんですよね。