第5話 ドキッ
「起きろー。遅刻するぞ」
そう言って、俺は隣で気持ちよさそうに眠っている咲茉に声をかける。
「……っ!」
すると彼女はすぐに目を開けて立ち上がり、何故か防御態勢に入った。
なるべく壁際に逃げて。
「え?」
「……あ、ごめん……。朝はお父さんに殴られる事が多いからつい……」
咲茉は顔を赤らめて、頭をかきながら言う。
反射的に動いてしまったのだろうが、変なポーズを取ってしまった事を恥ずかしく思っているようだ。
「……全然いいけど」
彼女がこんな反応をしてしまうほど大変な毎日を過ごしている事を考えると、俺がどれだけ幸せに過ごせているかが実感できる。
「……ありがとう」
そう言いながら咲茉がベッドに座り込んだのと同時に、俺は立ち上がって朝ご飯の用意の為に部屋を出ようとする。
「どこ行くの?」
不思議そうな顔をして彼女は尋ねてきた。
「朝ご飯の準備のために下に降りるだけ」
そう言って、俺はドアの向こうに見える階段を指差した。
「ふぅん。いつもこれぐらいの時間に起きてるの?」
「学校ある日はな」
「え、今日ないけど」
「……知って――――、えぇ!?」
咲茉は特に表情一つ変えずに、当たり前のことを言うように教えてくれた。
慌ててスマホの電源を付けて、曜日を確認する。
時間の隣に、土曜日と表示されていた。
「……マジじゃん」
「そうだよ」
俺のバタバタしていた様子を見てクスクス笑っていた彼女は、今も必死に笑いを堪えるような顔をしながら言葉を返してくる。
「なんで誰かがいる時に限って勘違いするだよ……」
恥ずかしくなって、顔が少し熱くなる。
それを知られたくなくて、咲茉に背を向ける。
「私がいるから緊張してるんでしょ」
「……まぁ、そうかもしれないな」
「認めるんだ」
「異性と二人きりの状況が続いてるのに、なにも感じない猛者はほとんどいないでしょ」
「そっかぁ。私でドキドキしてるんだぁ~」
いつのまにか俺のすぐ後ろまで近づいて来ていた咲茉は、からかうような口調でそう耳元で囁く。
驚きでピクリと体が震える。
「……そういうの辞めて」
「なんで?」
「……その、まだ慣れてないというか……」
あえて言葉を濁しながら、恥ずかしいということを伝える。
誰だって初めてされたならこうなるだろう。
逆にどうして彼女は何も感じずにこんな事を出来ているのか、聞きたくなる。
もしかすると、男慣れしているのかもしれない。
なんて考えながら、俺は後ろを振り向く。
「…………そっちもかよ」
咲茉は自分からやっておいて、照れて顔を真っ赤にしている。
「見ないで」
「……はーい」
じゃあ余計な事するなよ、とは言わず、俺は素直に彼女から視線を移動させることにした。
別に、男慣れしているわけではなかったよう。