第19話 しつこい玲奈
電車内で玲奈を見つけて、緊張で鼓動がものすごく早くなる。
咲茉本人も言っていたが、彼女は咲茉に直接手を出す方法でイジメているのだ。
もちろんそんなヤツに咲茉を連れている時に会いたくないし、咲茉自身も会いたくないだろう。
玲奈は車両を移動するためのドアの一番近くの、青色の優先座席に座っているせいで、車両の移動も出来ない。
「……なるべく静かにな」
「……うん」
一応変装のようなものをしているとはいえ、絶対にバレないという保証は出来ない。
なるべく面倒事は避けたいし。
玲奈が座っている席から一番距離があるところの席に座り、息を殺すようにして俺と咲茉はうつむいて電車の中を過ごした。
――――が、周りをよく見る陽キャの彼女は、すぐに俺のことを見つけた。
「あ、蒼空じゃん。やっほー」
なんて言いながら、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
今すぐにこの場から逃げ出したい。
「……やっほ」
「あれ、? 隣にいるのって彼女……?」
玲奈が俺の事を睨みながら尋ねたのに反応するように、咲茉は帽子をさらに深く被る。
「……そうだけど」
嘘をついて後々面倒なことになっても困るので、ここはちゃんと本当の事を言う。
すると、玲奈の表情が暗くなったような気がした。
が、すぐにいつもの明るい笑顔に戻り、質問を続けてくる。
「誰なの?」
そう言う玲奈は、本心では笑っていないのだろう。
貼り付けただけのような、不気味な顔をしている。
「えっと……、ゆいか……、です」
パッと思い浮かんだいとこの名前を告げ、俺は玲奈から視線を逸らす。
「……蒼空に聞いてない。ねぇ、誰なの? 彼女さん」
圧をかけるように、彼女は帽子を押さえて咲茉に尋ねる。
どうしてそこまでして知りたいのかはわからないが、とにかく玲奈はしつこい。
出来ることなら次の駅で玲奈だけ突き飛ばして無理やり電車から降ろさせたい。
やらないけど。
「……わ、」
「おい、どうしたんだよ。早く答えろよ」
玲奈は語勢を強くして、再び訊き直す。
話し方的に、俺の彼女は咲茉なのだと感づいたのだろう。
最悪だ。
「……玲奈」
「……なに?」
「なんで初対面の相手にそんな事出来るの?」
「え、いや……」
彼女のことを100%咲茉だとは思い切れていない玲奈は、俺の言葉を聞いて慌てて手を離した。
今更ながら、本当に初対面だったら失礼な事をしたと思い返したのだろう。
こいつアホなのか。
「……じゃ、俺らはこの駅で降りるから」
目的地の駅はまだ先にあるが、今は玲奈の離れることを優先する。
ちょうど駅に着いたので、俺は咲茉の手を引っ張って電車を降りようとした。
「ちょっ! 待ちなさいよ!」
玲奈はそう言いながら、俺と咲茉について降りようとしてきた。
「……付いて来んな」
しつこすぎる玲奈に苛立ちを隠せなくなった俺は、彼女に向かってそんな棘のような言葉を向けた。
「……え、」
よほどショックだったのか、そのまま動かなくなり、電車のドアが閉まった。