第17話 また映画
「今日の映画は何見るの?」
昼ご飯を食べながら、純粋無垢のキラキラとした期待の眼差しをこちらに向けている咲茉にそう質問された。
どうやら今日も出かけると思っているよう。
昨日使いすぎて金欠なんどけど。
「……え、今日も、?」
「え、ダメなの……?」
まだハッキリとは言えていないが、無理っぽい雰囲気を出しながら質問を質問で返すと、彼女はあからさまにショックを受けたような顔をする。
よほど楽しみにしていたのだろうか。マジで泣き出しそうなんだが。
「……はぁ」
財布の中身を確認して、俺は思わずため息を吐く。
もしかしたら5000円ぐらい挟まってるかもしれない、なんて思って見たけどやっぱり無い。
寂しくなった財布には、500円玉一枚と他小銭が数枚しか入っていない。
もちろん、こんな金額で映画なんて行けるわけがない。
それどころか、電車にすら乗れないと思う。
「……ごめん、お金無いから行けないんだよね」
「私、一万円あるけど」
「……え?」
咲茉は、リビングに放置されていたカバンから財布を取り出して、日本一モテている男、福沢諭吉をこちらにドヤ顔で見せつけてくる。
「なんでかわかんないんだけど、お金だけは取られないから念の為に普段持ち歩くようにしてたの」
「……それを使うと?」
「ほんとは昨日使うつもりだったんだけど、蒼空が強引に全部一人で払おうとしたから言い出しにくかったんだよ」
「あぁー……」
そう言えば、何度か支払いをする時に彼女に止められそうになったような気がする。
咲茉は助けてくれた事も含め、お礼をしたいからもう一度映画館へ誘おうとしたのだそう。
「いや、大丈夫。そのお金は大事に持っときなよ」
「使いどころ無いし」
「だけど他人のお金を使いまくるのはちょっと抵抗があると言うか……」
「私だって昨日おんなじような気持ちになったし」
咲茉はちょっと照れくさそうに、視線は合わせようとしないままパスタ(もちろん冷凍)を食べている。
「そうだよねぇー……。でもさ、俺は今までいじめられてるのとかも見てみぬフリしてたし……」
「助けてもらったときの気持ちは一生忘れられないよ。お礼をするべきだと私は思うの」
「いや、でも……」
「じゃあ私と一緒に映画館に行け。命令形ね」
上手く言ってやったぞと言いたげな表情で、咲茉はこちらをチラリと見て来た。
「……俺は行かんぞ」
「だーめ」
この後10分ほど言い争いを続けたが、結局行くことになった。
彼女の押しに負けてしまったのだ。
まぁ、咲茉が良いって言ってるんだから、と自分に言い訳をしたせいで。