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第16話 寝顔

「朝だよー。早く起きてー」


 そんな咲茉えまの声を聞いて、俺は無理やり眠りから覚めさせられた。

 目を開けてみるともうすでに外は真昼ぐらい明るく、時計は午前10時を知らせている。


「……え?」


 こんなに長く寝ていたのは久しぶりなので、俺は驚きを隠せなくなった。

 彼女をこんな時間まで一人にしてしまった申し訳なさが溢れ出てくる。


「あ、起きた? おはよ」

「あぁ、うん。おはよ……」


 いつもなら勝手に早い時間に目が覚めるのに、咲茉えまが家に来てからどうしても起きれなくなってきた。

 普段やらないような、慣れていない事をして疲れているからだろうか。


「お腹すいたぁー。朝ごはん食べたいー」

「あー、ごめん。ちょっと待ってて」

「おっけぇー」


 咲茉えまはそんな今にも寝てしまいそうな表情をしながら、返事をしてベッドに寝転んだ。


 結局二度寝するみたい。


 なんで俺を起こしたのか謎だが、あのまま寝たままでいるのもマズかったのでありがたいと言えばありがたい。


 心の中で感謝して、朝ごはんの準備をするために自分の部屋を出た。






◇ ◇ ◇






 朝ごはんの準備が出来たので咲茉えまを呼びに行ったのだが。


 俺のベッドでよだれを垂らしながら全力で爆睡中だった。

 まぁ、二度寝って気持ちいいからな。


 めちゃくちゃ幸せそうに寝てるのに起こすのはさすがに可哀想かなと思い、俺は静かにその部屋をあとにした。


「あの顔めっちゃ写真撮りたいなー……」


 思わずそれを口にしてしまうほど、天使みたいな寝顔で寝てたのだ。

 俺はリビングまでの廊下を歩きながら、スマホの電源をつける。


「あれ、咲茉えまからだ」


 寝ていて気付かなかったのだろうが、咲茉えまから写真が送られて来ていたことを今更ながら知った。


 なんだろうと少しワクワクしながら写真を確認して驚いた。


「俺の寝顔……」


 なんと彼女は寝顔を撮るのを実行していたようで。

 それを本人に送るという意味不明な行動をしている。


 つまりこれは咲茉えまの寝顔も撮っていいということなのだろうか。


「……いや、ダメな事ないか。一応彼氏なんだしな」


 都合のいい時だけ彼氏を使って、俺は自分の部屋まで駆け足で戻っていった。

 相変わらずクソみたいな言い訳を考えるのはプロ並に早い。


「じゃあ咲茉えま、写真撮るね」


 何も言わずに撮るのはちょっと抵抗を感じたので、そう言ってから俺はスマホの撮影ボタンをタップした。


 そしてすぐにその写真を確認して、ため息を吐く。


「……起きてたのかよ」


 撮れた写真には、ピースをしている咲茉えまが一人映っている。


「いや今ちょうど起きて、目の前にカメラがあったから」


 どうやら彼女はすげぇ反射神経をお持ちのようで。

 寝顔を撮れなくて少し残念がる俺だった。

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