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第12話 めっちゃ下手

「あー、くっそ。やっぱり取れないんだけど……」


 そう言いながら、俺は思わずため息を漏らす。

 もうすでに2000円ぐらい同じ台で使っているのに、取れる気配すらしないからだ。


 クレーンゲームの台の中にいる、こちらを覗くクマのぬいぐるみからは、俺の事をバカにしているような視線を送られている気がする。

 気のせいなのだろうか。


蒼空そら下手っぴだね」


 笑いを堪えるのに必死なのか、表情を少し歪ませながら咲茉えまはこちらを見つめてきた。


「あと一回ぐらいやれば……」

「いや何回やったって無理でしょっ」


 ついに耐えきれなくなった彼女は、お腹を抱えながら思いっきり吹き出した。


 ちょっとイラッとした俺は、咲茉えまに煽るような口調で質問をする。


「……そんなにバカにしてるあなたは取ることができるのでしょうか?」

「最近やってなかったからわかんない」


 そう呟くように言いながら、彼女は100円玉を機械の中に躊躇なく入れた。

 そして、久しぶりのクレーンゲームに挑戦。


 結果はもちろん。


「あぁぁぁ! ちょっ、アームの力弱すぎでしょ! おかしいって……!」


 あんなに煽っといて、結局自分も取れない様子。

 ムキになって繰り返してるうちに、遊んだ回数が俺と並ぶぐらいにまで伸びていった。


「ほら、難しいだろ?」

「……機械が悪い」


 頬を膨らませて不機嫌そうにうつむいて、咲茉えまは答えた。


「じゃあ他の台でやってみる?」

「やる」

「じゃあどっちが先に取れるか勝負な」

「おっけー!」


 勝負事となると燃えるタイプなのか、彼女は再び元気を取り戻し、良さそうな台を探すために歩き始めた。





◇ ◇ ◇





 今、俺と咲茉えまは肩が触れそうになるぐらい近い距離で、並んで座っている。

 場所は映画館。


 もうすぐ上映される時間なので、少し早かったが行こうということになったのだ。


 ちなみに、クレーンゲームで取れた景品はゼロ。

 完全に予想通りである。


 正直、数千円も使ったんだから一個ぐらい取れても良かったんじゃないかとは思うが。


 なんて思いながら、俺はちらりと咲茉えまの方を横目で見る。


「…………」


 彼女は幸せそうな顔をして、映画が始まるのを待っている。


「ん、なんか付いてる?」


 思ったよりも長い時間見つめていたようで、気付けば咲茉えまは少し頬を赤く染めていた。


「……いや、なんでもない」


 数千円で彼女が笑ってくれるならそれでいいか。

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