第10話 小さい子供みたい
ある程度落ち着いてから周囲に視線をやると、俺と咲茉のやり取りをじーっと見ていた人がいることに俺はようやく気が付いた。
「…………」
思ったことはたった一つ。
早くこの場から逃げ出したいということだけ。
どうやら咲茉も同じようなことを思っているようで、顔を真っ赤にしながら目を泳がせている。
俺は急いで彼女の分の切符も合わせて購入し、二人で一緒に全力疾走でその場を離れた。
◇ ◇ ◇
「うわぁ……。恥ずかしい……」
駅のホームまで着くと、咲茉は肩で息をしながら頬に手を当てて、呟くように言った。
「まさかあんなにガッツリ見られてるとはな……」
普通なら、周りに人がたくさんいるような状況で頭を撫でるなんてバカな事しようなんて思わないだろう。
けど、今回は我慢できなかったのだ。
仕方ない。
「まぁ、過ぎたことだから気にしないようにするけどさぁ……」
彼女はそう言って切り替えて、すぐに表情の曇りを消し去った。
「普段されてた事に比べたら、どうってことないし」
「あぁー……。ごめん……」
咲茉の発言を聞いて、俺は非常に申し訳なくなった。
できるなら過去に戻って、直接ではなくてももっと早くから助けておけばよかった。
そう思わせるほど後悔させられる。
「いいよ別に。今は全然気にしてないから」
「……うん」
なんて答えるのが正解なのかすら分からなくなって、俺は無意識のうちに下を向く。
すると、その姿を見た咲茉が焦ったように口を開いた。
「えぇ!? いや、本当に気にしなくていいんだよ!? そんな顔されると逆にこっちが辛くなってくるんだけど……」
「そっか。ごめん」
顔を上げて、ぎこちない笑顔を作りながらそう答えると同時に、電車がもうすぐ到着することを知らせるアナウンスが流れてきた。
このままだと気まずくなりそうだったので、このタイミングで来てくれるのはありがたい。
「あ、電車来た!」
咲茉は小さい子供のようにはしゃぎながら、電車を指差してとびきり明るい表情を見せる。
「……そうだな」
「……なんかテンション低い」
「だって2日に一回ぐらい乗ってるもん」
電車に乗るのは、俺にとって塾に行くための手段なので、今まで嫌というほど乗らされている。
だから、正直初めて乗った時のワクワク感とかは忘れてしまった。
「私は久しぶりだから楽しみなのに。つまんないの」
「なんでだよ」
「だって蒼空がはしゃいでるの見るの楽しみにしてたのに」
「俺は咲茉がはしゃいでるの見れたから満足かな」
「あー! ずるいー!」
彼女は怒ったように頬を膨らませて、可愛らしい表情を見せる。
写真撮りたい。
「あー、分かったから。あとではしゃいでやるから早く乗れ。置いていかれるぞ」
「それは困る……」
「じゃあ早く」
「はーい」
咲茉はちょっと残念そうに返事を返しながら、俺に催促されて大人しく電車に乗り込んだ。
マジでなんでこんな子がいじめられてるんだ。