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一番悪いのは誰  作者:
8/8

渡良瀬ほのか 2


 急に足元が崩れる時ってこんな気分なのかもしれない。


 愛菜の五歳の誕生日に、一通の内容証明が届いた。そこには健司が既婚女性と不倫をしていること、そしてその女性の夫から慰謝料を請求されていることが記されていた。


「ごめん、ほのか……」

 

 愛菜の誕生日パーティーは必死に笑顔を取り繕って明るくこなし、眠ったのを確かめてからリビングで健司と話し合いをした。


「……じゃあ、里帰り出産の時から続いてるの?」

「続いてるというか……誘いは全部向こうから」

「それでも、今年を入れて六年も続けて会ってるのよね?」

「年に一回だけ、それもホテルで一時間くらい……」

「回数や時間の問題じゃないの。向こうから誘われたとしても、乗ったのは健司でしょ? 間違いなく不倫じゃない」


 健司は見るからに萎れてうなだれている。そして、急にリビングの床に土下座した。


「本当にごめん! 決して相手を好きだとかじゃないんだ。それに、他にこういうことは一切してない。もう自分から浮気しようとか風俗行こうとかそういう気持ちも無くなってたんだ。ただ、毎年向こうからお膳立てされて連絡が来てたからつい……でも、もうしない。もうしないから許してくれ!」


 相変わらず子煩悩で家事もできて優しい健司。愛菜が幼稚園に入ってからは私も働き始め、学費やマイホームのための貯金を頑張ろうって思ってた。それなのに、浮気の慰謝料なんかで貯金が飛んでいくのは許せない。


「私も訴えるわ」

「え」

「相手の女よ。向こうから誘ってきてるなら、私には訴える権利がある。絶対に痛い目見せてやるわ」


 向こうの夫は医者だ。優秀な弁護士も雇えるだろうし、裁判まではしたくないけれど、慰謝料の相殺くらいはできるかもしれない。


「俺……まだ一緒にいてもいいの?」


 不安そうな顔で健司が私を見る。


「正直、腹が立つしぶん殴りたいし、離婚したい気持ちもある」


 それは当たり前だろう。こんな目に合って平気な嫁がどこにいるというの。


「でも、健司は元々誘惑に弱かったし、いつかこうなることを私も予測しておくべきだった。もっと手綱を握っておくべきだったわね。

 とりあえず、明日からお小遣いは無しです。慰謝料を家計から出したくない。あなたのお小遣いで払ってもらいます」

「はい……」

「飲みに行くのも禁止。まあ、お小遣いが無いから無理でしょうけど。それでいいなら、今回は離婚はしません」


 健司はパァっと顔を輝かせ、私に抱きついてこようとしたが押しとどめた。


「離婚しないってだけで、まだ許したわけじゃないのよ? これからのあなたの頑張り次第です。ダメだ、と思ったら愛菜を連れてすぐ出て行きますから」


 神妙な顔つきで健司は頷いた。


「わかった。もう一度ほのかの信用を取り戻すために頑張るよ。もう二度とこんなことしないし、ほのかと愛菜のことだけを考えて生活する。

 ほのか、離婚しないでくれてありがとう」


 健司はもう一度深々と頭を下げた。




 そしてその後、相手との話し合いの末、健司から女の夫へ100万払い、女から私へ120万が支払われた。

 100万は我が家の貯金から出したので、健司の小遣いから家計に返していってもらう。私の口座に振り込まれた120万は、愛菜の教育資金として取っておこうと思う。嫌な思いをして得たからといってもお金に罪はないからね。


 相手の夫婦はどうやら離婚したみたいだ。女は親権も取れず無一文で放り出されたらしい。元夫からも慰謝料を請求されていて、無職なのにこれからどうするんだろうか。ま、知ったことではないけれど。


 私は、まだ許せない気持ちはあるけれど、健司がちゃんと夫して父親としての務めを果たしてくれるならこのまま一緒に暮らしていくつもりだ。


 それに、何より……私は健司が好きなのだ。いつのまにか『パパ』と『ママ』になってしまっていたこと、それは反省している。

 これからは夫婦としての暮らしも大事にしていこう。子供が巣立った後の長い長い時間を、共に過ごしていくパートナーなのだから。


 もちろん、手綱はちゃんと握っておくけれど。


 


(完)





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