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一番悪いのは誰  作者:
5/8

貝原凪沙 2


(うそ……! 渡良瀬さん、来てくれるの?)

 

 ダメ元で送ったLIMEがまさか成功するとは。嬉しくて、顔がニヤけるのを抑えきれない。

 

 今日、同窓会があるというのは本当だ。卒業してから毎年、東京在住の子たちが中心となって開催されていた。

 私はというと卒業後すぐ結婚、妊娠、出産で、二番目もすぐに産んだから今まで一回も出席できていない。


 だけど、もう下の子も六歳になった。夫と姑に同窓会に行かせて欲しいと頼んだら、実家に美波を預けるなら行って良しと許可が出た。秀人だけは姑が面倒見るらしい。私に邪魔されず思い切り可愛がるつもりなんだろう。別にいいけど。

 

(初めて夫とも姑とも子供とも離れて、一人きりの東京! しかも一泊! 嬉しすぎる)

 

 大きな駅も、長い車両も人混みも。何もかもが懐かしい。一人で見る高層ビルに心が躍る。


(ああ、やっぱり都会はいいな。田舎は何もなくて息苦しいんだもの。東京の人と結婚したかったなあ)


 新宿のホテルで行われた同窓会は、とても楽しかった。一緒に合コンに繰り出していた麗奈も来ていて、あの頃の話で盛り上がって。


「そうそう、あの時凪沙がお熱だった渡良瀬さん。結局、エッチしなかったんでしょ?」

「当たり前でしょー? でも、それが出来たらもっと違う人生だったかもね」

「何言ってんのよ。ちゃんとお医者様の妻に収まってるくせに文句言わないの」

 

 そう言う麗奈は、自分でエステ店を立ち上げて、今では都内三店舗を経営するやり手だ。親の資金で始めた事業だから本人の力だけとはいえないけど。


「どうせなら、一回だけ抱かれたら良かったな」

 

 ポツリと呟くと、今からでも遅くないから連絡してみれば? と、麗奈がニヤリと笑う。今だったら処女じゃないんだから平気でしょ、と。

 馬鹿なこと言わないでよ、とその場では返したけれど、それから私の頭の中は渡良瀬さんでいっぱいになった。

 

(どうせ連絡することなんてもうない。旅の恥はかき捨てだし、思い切って……)


 そして、会えないかと連絡してみたらなんと、OKと返事が来たのである。


 アリバイ作りのためにいろんな人と写真を撮ってから、そっと同窓会を抜け出した。待ち合わせは渋谷。ハチ公前なんてベタな場所が、懐かしくてまた嬉しい。

 

 しばらく待っていると、渡良瀬さんがやってきた。あの頃より少し太ったみたい。でも、うちの旦那に比べたら若いしシュッとしてる。

 

「渡良瀬さん! 久しぶり。来てくれてありがとうございます」

「やあ、凪沙ちゃん。お久しぶりだね。変わらないねー」


 そんなことを言われて、お世辞でも嬉しい。あの頃はイケイケの女子大生だったし、今よりだいぶスリムだった。それでもジムに通ってるし同年代に比べたらまだまだ綺麗にしていると自負している。


「渡良瀬さんこそ、相変わらず素敵です」

「いや、だいぶオッサンになったよ。ま、とにかく積もる話は飯でも食いながらしようか」


 それからスペイン坂のお洒落なイタリアンに入り、ワインで乾杯した。


「うちの旦那はお酒も飲めないし、こんな店は苦手だと言って連れてってくれないんですよ」


 なんて愚痴を言いながら、楽しく食事をした。お酒もついつい進んで、店を出る頃にはすっかり出来上がってしまった私。


「危なっかしいからホテルまで送っていくよ」

「ありがとうございます、渡良瀬さん……」


 渡良瀬さんが肩を抱いて歩いてくれる。それだけで胸がキュンとして、甘酸っぱいあの頃の気持ちが甦ってきた。


「渡良瀬さん、私、あなたのこと好きだったんです」


 送り届けられたホテルの部屋で、私は彼に抱きついて告白した。


「もう来年は来られないかもしれない。最後だと思って私を抱いてくれませんか……?」


 何て大胆なことを言ってるんだろう、私。お酒の力を借りなければ絶対に言えなかった。


「いいの? 俺、結婚してるよ?」

「いいんです。決して迷惑はかけません。私も、今の生活を壊すつもりはないんです」


 そう言うと、渡良瀬さんはしばらく考えていた。それから優しく微笑んで私を抱きしめキスをした。夫と違う、若い逞しい匂いがする。


 そうして私は十年越しの思いを遂げることが出来た。




「もう帰るんですか? 奥さん、里帰りしてるんですよね……泊まっていってもいいんですよ」


 ダブルの部屋を取っていたから、二人で眠ることも出来るのだ。身体の関係を持った私は少し欲張りになっていた。


「いや、夜は嫁とビデオ通話すると思うし。帰るよ」


 さっさと服を着る彼の姿に寂しさを感じた。


 だけど、これで終わりにするつもりなんかない。私の心は決まっていた。絶対に来年も同窓会に参加する。そして、また渡良瀬さんに会いたい。


「もし、来年もチャンスがあったら……また会ってもらえますか?」

「約束はできないけど。連絡、待ってるよ」


 渡良瀬さんは私の額にチュッとキスをすると、部屋を出て行った。


 その夜、私は彼とのデート、そしてベッドの中でのことを思い出しては楽しんでいた。








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