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一番悪いのは誰  作者:
4/8

渡良瀬健司


 俺の人生はかなり楽しい。


 まず、可愛い嫁と子供がいる。嫁のほのかは、バイト先で一緒に働いていた。真面目によく働く子で、でもちょっと人見知り。俺以外にはあまり懐いてないところもなんか可愛かった。


 だけど長い間、恋愛対象にはならなかった。いつも地味な装いをしていたし、その頃の俺ときたら人生一番のモテ期だったから、ほのかに手を出すなんて考えもしなかった。


 だけど、そろそろ大学も卒業しようという頃。ふと、モテ期が終わった気がした。俺自身も、もう落ち着こうという思いがあったのかもしれない。


 そんな時に、俺と話していたほのかの頬が赤く染まるのを見て……俺が探していたのはこいつだ、と思ったんだ。


 その直感は間違いではなかった。ほのかはとてもいい子で、今まで遊んでいたチャラチャラした女たちとは全然違った。付き合い始めた当初から、俺の頭には『結婚』が視野に入っていたくらいだ。


 まあ実際は、年収がある程度上がるまでと思っていて三年かかってしまったが、二十五で結婚した。


 子供は大好きだからすぐに欲しかったが、なかなかできなかった。こればっかりは、どうしようもないことだ。病院も行ったがお互い問題はなく、不妊治療に進むか考えていた時にほのかの妊娠がわかった。


「良かったな! おめでとう!」


 ほのかは涙ぐんでいた。俺も、その顔を見ていると涙が出そうだった。


「うん、ありがと、健司……私、元気な赤ちゃんを産むね」


 妊婦教室も毎回付き添った。勉強もちゃんとした。完璧な準備を整え、ほのかの里帰りの日を迎えた。


「ほのか、転んだりするなよ」

「うん。わかってる」

「でも適度に体を動かせよ」

「うん。わかってるって。それより、里帰り出産の間、羽伸ばして遊び歩かないでね」


 その言葉にちょっとドキッとした。もちろん浮気なんてするつもりはないけど……その場になってみないとわからないよな?


 そんなことは顔には出さず、俺はにこやかにほのかを見送った。


 実は、結婚してからも何回か浮気をしているが、絶対にバレていない自信はある。それに、どれもただの火遊び。後腐れのない、その場限りの身体の関係だ。


 ほのかのことは愛してる。だけど、出来るなら他の女とも遊びたいのが男ってもんだろう。


 そうは言っても、最近はそんなこともしなくなった。もう三十四のオッサンになった俺が、いったい誰と浮気すりゃいいんだ。


(やっぱ、風俗にでも行ってくるか)


 その時、まさにベストタイミングで俺のスマホが鳴った。


(『凪沙』? 誰だ、それ……)


 凪沙というアカウントからのLIMEだ。全く記憶にないが、友達登録はしていたらしい。とにかく、開いてみる。


『お久しぶりです。渡良瀬さん、お元気ですか?』


 トークを遡ってみて思い出した。確か、『時遊』に何度も通って来てた女子大生だ。鬱陶しいLIMEを送ってきてた覚えがある。


『私、結婚して地方に住んでいるのですが、今日は同窓会で久しぶりに東京へ来ました。もし良かったら、お会いできませんか? 今日は渋谷のセルリアンタワー西急ホテルに泊まっていますからいつでも声掛けてください』


(なんだこれ。絶対、誘ってるだろ)


 そういえばこの子の友達とは一回寝たことがある。

 だけどこの子は、エッチはできないけどデートだけして下さいって言ってきたんだ。もちろん、丁重にお断りした。なんでそんなこと、ボランティアじゃあるまいし。

 ま、ほのかと付き合い始めたばかりだったってのもあったけど。

 

 あれから何年経ったっけ。もう十年か。顔も覚えてないが、会うだけ会ってみてもいいな。どうせ一人だし、飯食うだけでも良しとしよう。

 

 LIMEに返信した俺はとりあえずシャワーを浴びて、渋谷へ向けて出発した。





 

 

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