学園生活
登場人物を更新しました。
「おはよう、更紗。」
「おはよう、ふうくん。昨日は大変だったね。」
教室に入り窓際後ろから二番目という学生なら大抵は憧れる席に行くと前に座る幼馴染みの国枝 更紗に声をかける。
席から立ち上がっても150cmちょっとしかない身長に染められていない綺麗な栗色、ほんわかした雰囲気は男の庇護欲を掻き立てる。
実際に東雲学園守ってあげたい女子No.1に輝き、その上目使いに心を奪われる男子が後を絶たない。
「まァ…な。なぁ、更紗は今日暇か? 大丈夫なら二人に会って欲しいンだけど…」
「うん、私は大丈夫だけど…さっくんは?」
「皐月は春華が誘うってさ。」
俺たちのもう一人の幼馴染みである、六条 皐月は春華と同じC組に在籍している。
まァ、サボり癖があるから話せるかどうかは知らんが…
「はるちゃんが誘うなら確実だね…」
と、更紗は少し複雑そうな顔で小さく言う。
「まァ、俺が言うのもなんだけど…更紗の想いがちゃんと届くといいな。」
「うん…ふうくん。ありがとう。」
更紗は儚げな笑顔でお礼を言う。
「アイツ等ももう少し周りが見えると良いんだけどな…」
春華は皐月が自分のことを好きってことに気付いてないし、皐月も更紗が自分のことを好きって知らないしな。
さらに皐月は春華にずっと片思いしてるのに、彼女は常にいる(大体一、二ヶ月で別れるけど)ときてるから更紗が不憫だ。
「おっはよぉ〜! 更紗ちゃんも国崎くんも朝から辛気くさい顔してどうした〜? 静ちゃんに話してみなよ〜。」
「…サキはどこだ? ストッパーはいないのか?」
「ふうくん…あ、千葉くんと黒川さん来たよ。」
俺の言葉に、呆れたと言う風に名前を呼ぶ更紗。
その後すぐに教室の開きっぱなしの後ろの扉から俺が探す人物が現れた。
「みんなが無視する〜咲良ちゃ〜ん。」
御巫が誰でも分かる嘘泣きをしながら教室に入ってきたばかりの千葉 海斗と黒川 咲良の方へと走って行く。
「朝から鬱陶しいわ! ちょっと国崎! 何なのよ、コレ。」
「コレ扱い!?」
今にも飛びつかんとばかりの御巫を一刀両断し、ツカツカと窓際の一番後ろ…俺の後ろの席へと鞄を置く。
「助かった、俺もコレの扱いに困ってて…朝から迷惑してたんだ。」
俺も便乗して御巫を楽しく弄る。
「二人とも酷いよ! 言葉の暴力だ〜」
「なら言葉の警察を呼びなさいよ。」
「うぐっ!? 静ちゃんに優しい人はいないの…?」
よよよ…とリノリウムの床に崩れ落ちてまたハンカチで目元を拭う真似を始める。
そんなやり取りをスルーしてサキの隣りの席に鞄を置いたチバカが更紗に朝の挨拶をする。
「おはよう! 更紗ちゃん♪」
「おはようございます、千葉くん。今日も朝から元気ですね。」
「元気はオレのモットーだからね!」
「朝から五月蠅ぇよ、チバカ。」
「ダメだよ。友達にそんな言葉使ったら! 大体、ふうくんはつきあ…むぅ〜」
このお嬢さんは何を口走ろうとしてるやら…目の前の馬鹿はお前のこと好いてンだから不用意な言葉は発するなっての。
「オイッ! 更紗ちゃんの口から手を離せよ!」
さっきからチバカの感嘆符がウザったい…
「ぷはぁ〜、ふ・う・く・ん?」
「今回はお前が悪い。」
目に涙を溜めて俺を睨む更紗だが全く怖くない…が、この幼馴染みに全く頭が上がらない…
チバカも何か言っているが面倒くさいので無視を決め込む。
「朝からうっさいクラスね…」
「あ、おはようございます。黒川さん。」
「ん、はよ。アンタたちも大概にしときなさいよ。」
椅子に座りながら気だるそうにサキは挨拶を返して文句を言う。
今朝はなんだか機嫌が悪いみたいだが、元々低血圧な上に朝から鬱陶しいのが来たらそうなるか…
「善処するよ。」
「ウソくさい役人言葉を信用出来ると思う?」
「思わないな。」
「もういいわ…あたしのことはほっといて。」
その言葉を最後にサキは机に突っ伏した。
「もうホームルーム始まりますよ。」
ガラッ
「席に着け〜、ホームルーム始めるぞ。」
更紗がサキに声をかけた直後に担任が教室の扉を開けて声をかける。
『えぇ〜私に優しく声かけてくれる人はいないの? 御巫静』
†
「今日の授業はここまで。次回は12ページからやるから予習しとけよ。」
ガラッ ピシャッ
午前最後の授業である数学の科目担任がそう言い残して教室を後にした。
そのすぐ後に「学食行くぞー!!」と大声で叫ぶ集団が教室を飛び出して行った。
先頭で特に叫ぶ馬鹿はチバカだった。
「ふうくん、お昼だね。」
「あぁ、更紗は今日弁当か?」
「うん。サンドイッチだよ。」
と、パカー!! と女の子らしい小さなお弁当箱を開いて中身を見せてくれた。
「相変わらず美味しそうな弁当だな。」
「またまた〜、ふうくんは今日お弁当?」
「いや、今日は作ってきてないから学食で食うか、購買で買うよ。」
「なら、今日はお天気も良いからお外で食べない?」
更紗の視線を追って、窓から空を見上げれば終わりを見たこともない眩暈を覚えるような蒼だった。
「そうだな、中庭か屋上辺りで食べるか…どっちが良い?」
春らしくポカポカとしていて、外で食べる昼はさぞ気持ち良いだろう。
「ん〜、屋上はどうかな。」
「ん、屋上な。なら俺は購買でパン買ってくるかな。」
「あ、私も飲み物買うから一緒に行こ?」
「あぁ。」
俺たちは昼休みで騒がしくなった教室を後にした。
†
購買へ行くとそこは戦場と言っても過言ではないほどの混雑だった。
「ちょっくら買ってくるから自販機の前で待ってろ。」
「うん。ふうくんも頑張ってね。」
更紗に見送られ、俺は餓えた学生で埋まっている戦場へと赴く。
†
「ん?」
「あ、おかえりなさい。ふうくん。」
「ただいま。なんだ…お前らも昼購買だったのか。」
適当に惣菜パンと菓子パンを見繕って更紗の待つ自販機の前に戻ってみると、そこには見慣れた顔があった。
「なんだとはご挨拶ね。そっちこそ珍しく購買じゃない。」
「朝ゴタゴタしてな…カコも購買みたいだな。」
パンが入った袋片手に腕を組む如月 香子と春華、皐月の三人がいた。
「そ。学食でも良かったんだけど春華も皐月も購買で買うってからあたしもね。」
「ふ〜ん、それにしても…相変わらずのド金髪だな。親が嘆くぞ?」
「親は何も言わない。ただセンコーがウザったいけど…でも、アイツ等は成績さえ良ければそんなンでもないしね。」
「確かにな。」
「それに引き換え、アンタは良いわよね? 学年首位でセンコーからの信頼も厚い。の癖して、ことある事に騒ぎを起こす愉快犯のリーダーってバレてすらいないんだから。」
世の中不公平だわ、とカコが嘆く。
「リーダーなんて人聞きの悪い。俺はただみんなの学園生活に潤いを提供しているだけだ。」
「うっさい! アンタのせいで去年の学園祭の時、那由多がセンコーに捕まって危うくウチらのバンド欠場するトコだったの忘れてない?」
去年の学園祭の時に祭りが大好きなチバカと九重 那由多や他数名を誑かして打ち上げ花火をしたのは記憶に新しい。
勿論、教師陣にバレて生徒指導室に送られたが…俺以外。
「あん時は悪かったって…でも、ちゃんと教師達を説得してゼロを助けたからいいだろ?」
「アンタが蒔いた種なんだから当たり前よ!」
「まあまあ、香子もそのぐらいにして…」
「コイツに言ってものらりくらりってかわされるだけだろ。」
「うっ…それもそうね。もう過ぎた事だし。今更掘り返して誰かが得するわけでもないし。国枝さんも騒いでゴメン。」
「そんな誤らなくて良いですよ。あ、そういえば、如月さんとさっくん達のバンドってそろそろ結成一周年じゃありませんでしたか?」
少しトーンの下がったカコをフォローするために更紗が話題を変える。
「あ〜そうそう。アンタ達も誘おうと思ってたんだった。春華には断られたんだけど…今度の日曜日にあるライブにアンタ達来ない?」
と、元の調子に戻ったカコはチケットを二枚取り出して俺たちに見せる。
俺も更紗も皐月が入っているバンドというのもあって、初期からずっとファンをしている。
まァ春華は人混みが嫌いだからチケットに書いてあるライブハウスに行きたくないのだろう…学園祭は結構楽しんでいたし。
「俺は行くけど更紗はどうする?」
「私も行こうかな。久しぶりだから楽しみだよ。」
「じゃあ、俺たちは行くからチケットくれ。」
財布から五千円札を取り出してカコに渡す。
「毎度あり〜♪ お釣りはちょっと待って。今出すから。」
カコは五千円札を受け取って財布を取り出そうとする。
「いや、釣りは要らない。」
「は? 何? そのブルジョア発言。」
「とりあえずそれは俺と更紗の分+一周年のお祝いとコイツらのレンタル料金。ちょっと春華と皐月に大事な話があるから昼休みの間借りるぞ。」
そんなの悪いよ…と言う更紗の言葉は黙殺する。
「それは別に良いけど…」
「サンキュ。じゃあ三人とも屋上行くぞ。カコ、またな。」
俺たちはカコと別れ、屋上へと向かった。
『あ〜あ、二人とも行っちゃったし、那由多達んトコ行ってみるかな… 如月香子』
†
屋上に出ると何組かのグループが各々の場所で昼食を取っている。
俺達は周りに話が聞こえないような場所で昼食を取ることにした。
「で、話って何だ?」
「あぁ、春華から聞いてると思うけど、昨日引き取った子たちの詳しい説明をな。」
「大まかにはハルから聞いたけど…確かに詳しい話は聞きたいな…長い付き合いになるだろうし。」
「私もちゃんと教えてもらいたいしね。」
「そうね。とりあえずお昼食べながら話ましょうか。」
†
昨日あったことを一通り説明し終える。
「わざわざご苦労なこって…でも、お前ららしいっちゃらしいけどな。」
「そうだね。ふうくんもはるちゃんも優しいから。」
「恥ずいこと言うなよ。」
「というか私は当たり前のことをしたまでよ。あの時に何もしなかったら私は私じゃないわ。」
その発言に幼馴染み全員が苦笑する。
俺たちの幼馴染みの春華はいつでも春華だったから…
キーンコーン カーンコーン
「あ、予鈴だ…」
「ヤバっ!? 次の授業って前田じゃない!」
数学の教師である前田 茂雄先生は時間には厳しく、授業開始時に席に着いていなければ問答無用で欠席をつける鬼教師で有名だ。
「ダルいからサボるか。」
「何言ってんの? アンタ去年も目をつけられて進級ギリだったじゃない。三年もおんなじ目に遭いたいの?」
「それは今更だろ。」
周りがどんどんと屋上から出て行くのを尻目に二人の問答はまだ続く。
「ふうくん、私たちもそろそろ行かないと…」
「そうだな…あ、決着ついたみたいだな。」
始めから分かっていたが、春華の勝ちのようだった。
「さぁ、急ぐわよ。」
「あぁ…」
二人は勢いよく校舎への扉を開け走って行った。
授業開始まであと二分…俺たちは教室まで一分ちょいで行けるがアイツらの在籍する三年C組は隣りの校舎だから走って二分ちょいオーバーするぐらいだ。
『さて、俺たちも急いで教室に戻ろうぜ。 国崎風樹』