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家族模様

 

 由紀と一緒に食器洗いなどの始末を終え、リビングへ顔を出すと春華と魅姫が二人で手遊び歌で遊んでいた。

 

「グーチョキパーで〜グーチョキパーで〜なにつくろう〜なにつくろう〜」

 

「なにつくろう〜♪」

 

「みぎてがチョキで〜」

 

「チョキで〜♪」

 

「ひだりてもチョキで〜」

 

「チョキで〜♪」

 

「か〜に〜さん」

 

「か〜に〜さん♪」

 

 二人とも両手をチョキにして体を揺らしカニの真似をしている。

 その光景は幼稚園の先生と園児のようにも、母親と娘のようにも、姉と妹のようにも見れる。

 

「楽しそうですね。」

 

「仲がよろしくて結構、結構。」

 

「あら、風樹たち洗い物終わったのかしら?」

 

「かしら〜♪」

 

 こっちに気づいた春華がカニの真似をやめて顔を向けると、魅姫もニコッと笑って春華の真似する。

 

 

「あぁ、出掛ける準備して駅前まで行こうぜ。」

 

「そうね、ヒメ。お出かけするからもうお終いね。」

 

「は〜い。」

 

「風樹、ちょっと着替えてくるわ。」

 

「ん、なら外で待ってから早めにな。」

 

「えぇ、すぐ行くわ。」

 

 そう言い残し、春華はリビングを出て二階に上って行った。

 

「由紀と魅姫も靴履いて外で待ってようか。」

 

 俺が二人にそう言うと由紀は魅姫のもとへ駆け寄り、手を差し出す。

 

「魅姫、行こ。」

 

「うん!」

 

 二人が仲良く手を繋いでリビングを出て行くのを見届け、俺も財布と携帯を持って玄関に向かう。

 

 †

 

「えへへへ〜♪」

 

 春華と魅姫は仲良く手を繋いで前を歩き、その後ろを由紀と俺がついて行く。

 

「駅前に行って何をするんですか?」

 

「お前たちのベッドとか机なんかの家具と生活用品を買いにな。」

 

「…良いんですか? それに…さっき一千ま…わぁっ!?」

 

 由紀が不安そうにこちらを見上げ、あの春華があの野郎に渡したカードに触れようしたのでその頭をクシャクシャに撫で回す。

 

「子どもがそんなこと気にすんな…今日は無礼講だ。好きなモン買っていいんだぞ?」

 

「えっと…はい。」

 

 デコピンを喰らわす。

 

「イタッ!?」

 

「あんまり敬語ばっか使ってると疲れんだろ? 俺らには子どもらしく“うん”で良いんだよ。」

 

「は…うん。」

 

 頬を緩ませた由紀の顔は本当に子どもそのものだった。

 

「さて、春華たちに追いつくぞ!」

 

「うん!」

 

『春華、魅姫、みんなで手繋いで行こうぜ!   国崎風樹』

 

 †

 

 まァ必要なのは、こんなとこか…

 

「買いも買ったり…って、とこかしら?」

 

 発送の手続きを終え、春華はレシートに目を通す。

 現在、国崎家には個室が六部屋あり、その内一部屋が俺の部屋、もう一部屋が父さんの書斎兼寝室、後は母さんと妹と弟たちが来たとき用の部屋となっている。

 一部屋は物置として潰しているが、部屋がちょうど二つ空いているので、それぞれ由紀と魅姫に分け与えることになった。

 まァ、魅姫にはまだ一人部屋は早いので小学校に上がるまでは俺たちと同じ部屋で寝かすことにした。

 そのことを決めた時の春華の引きつった顔が印象的だったことをここに追記しておく。

 普通に考えればそうなるってわかりそうなものだけど…案外抜けてるんだよな、コイツも。

 

「次は服買いに行くか。」

 

「そうね…」

 

 背中に“ズーン”って効果音を背負っているかのような足取りで、とぼとぼと子ども服売り場へ一人で歩いて行く。

 

「春華さん、どうしたんですか?」

 

「ママ、げんきないね…かわいそう…」

 

「いや…あれは…」

 

 自分の欲望を果たせないからこれからどうしよう…って沈んでるだけだし。

 

「由紀に魅姫。服買いに行こうぜ。」

 

「「はーい。」」

 

 

 

『・・・ブツブツ   四月一日春華』

 

 †

 

 服を大量に買い込み、他にも二人専用のコップやお茶碗、箸にスプーン、フォークなどの食器類などと生活雑貨などを買い漁る。

 そして、最後に俺たちはオモチャコーナーに来た。

 

「えへへへ〜♪」

 

「本当に良いんですか?」

 

 魅姫はクマのぬいぐるみを抱きしめて笑みを零し、由紀はDSとソフトが入った袋を持って不安そうにこちらを見上げてくる。

 

「あぁ、良いから買ったんだよ。小学校じゃそのソフトが流行ってんだろ? それで友達と遊べば俺たちも嬉しいからさ。」

 

「…ありがとうございます!」

 

「パパ〜ありがと〜♪」

 

「どういたしまして。」

 

 由紀はこれでもかってほど破顔し、魅姫は足に抱きついてくる。

 

「さて、家に帰るかね。二人とも春華を呼んで来てもらえるか?」

 

「はい、じゃなくて…うん。」

 

「ママ〜」

 

 休憩コーナーのベンチでボーっとしてる春華に迎えを送り、その間に携帯を開いてメールを作成する。

 っうか…いつまで引きずってんだよ…別に風呂場でするなり四月一日家に預けるなりいくらでも方法あるじゃねぇか…


「パパ〜、ママよんできたよ!」

 

「ん、ご苦労さま。魅姫はエライな。」

 

「えへへへ、ミキえらいの〜」

 

「由紀もありがとな。」

 

「いえ、あの…春華さんまだ元気無いみたいなんですけど…」

 

「ん〜、二人ともちょっとここで待っててくれ。」

 

 二人の返事を背に春華に駆け寄り、先ほど考えた案を伝える。

 すると、その手があったか! と顔に書き、みるみると元気を取り戻していく。

 

「お前もゲンキンだよな…」

 

「ふんっ、私には死活問題なの。」

 

 この女にとってセックスは死ぬか生きるかの問題らしい…

 

「まァでも、今日はおあずけだけどな。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仕方ないわね。」

 

 仕方ないって言うまでの間が長ぇ…

 

「そろそろ家帰るぞ。」

 

「そうね…風樹。荷物持つわ。」

 

「悪ィ…流石に辛い。」

 

「帰りはタクシー使いましょうか。」

 

「そうだな。」

 

 由紀と魅姫が待つ場所へと向かい、店から出てタクシーを拾う。

 

 

 

『ユキ、ヒメ。心配かけてごめんね。もう大丈夫だから安心して。   四月一日春華』

 

 †

 

「…円になります。」

 

「お! ちょうどあります。」

 

「…確かに。ご利用ありがとうございました。」

 

 バタッ、ブロロロ〜

 

「ただいま。」

 

「お帰りなさい。」

 

「荷物片付けたらお前ん家行くぞ。深冬みふゆさんが由紀と魅姫に会いたいだとさ。千秋ちあきさんにも伝えてあるけど、ちゃんと紹介しないとな。」

 

「そうね。夏樹なんか驚くんじゃないかしら?」

 

 春華はその光景を思い浮かべたのか、クスっと笑う。

 俺も大声で叫ぶ夏樹の姿を想像して笑う。

 

「ハハッ、違いない。父さんは都合つけて四月一日の家に顔出すってさ。」

 

風香ふうかさんたちにはいつ顔合わせするの?」

 

「ゴールデンウイークにでも由紀と魅姫連れて会いに行こうと思ってるけど。」

 

「了解。私も行って良いわよね?」

 

「あぁ、ばあちゃんの家なら泊まれるだろうからな。」

 

「おばあさんには二人のこと伝えたの?」

 

「ん? とりあえず俺が連絡先が分かる範囲で伝えた。」

 

「ふ〜ん…ご苦労さま。私も後で電話しなきゃ。」

 

「ところで二人は?」

 

「ヒメはぬいぐるみで遊んでて、ユキはさっそくゲームの説明書開いてるわ。」

 

「子どもらしくていいけど、お帰りなさいぐらい言って欲しかったな。」

 

 と俺が苦笑しながら言うと春華も苦笑しながらリビングの方を見る。

 リビングからは二人の楽しそうな声が聞こえてくる。

 この若さで会社帰りの父親の気分を味わうとは…

 

「二人呼んで行くか…」

 

「私は制服と鞄取ってくるわ。」

 

「おう。」

 

 春華が二階に上がって行くのを横目にリビングへ向かう。

 ちなみに我が家には春華専用の洋服タンスや食器、歯ブラシ、タオルなど生活に必要なものが完備されている。

 

「由紀〜、魅姫〜、帰ってきて早々だけど出掛けるぞ。」

 

「どこへ行くんですか?」

 

「いくの〜?」

 

「春華の家。」

 

「ママのおうちってここじゃないの?」

 

 そっか…魅姫は春華がこの家に住んでると思ってるのか…確かに一週間の内4、5泊してくからあながち間違いじゃないけど…

 

「あぁ〜と…ママのお母さんのお家に行くんだ。」

 

「ママのお母さん?」

 

「そうだ。魅姫からはおばあちゃんになるかな。」

 

「おばあちゃん…」

 

「何してんの?」

 

 後ろから制服姿の春華が声をかけてきた。

 

「ん? 魅姫に春華の家行くって言ったら、ここがママの家じゃないの? って言われたからママのお母さんの家に行くって説明してたんだ。」

 

「なるほどね。」

 

「なんだ、服着替えたのか?」

 

「えぇ、その方が荷物少ないしね。」

 

「よし、行くか。」

 

 †

 

 国崎家から徒歩8分で四月一日家へ行ける。

 ピンポーン

 

 インターホンを押すと中からパタパタっと廊下を走る音が聞こえてくる。

 

 ガチャ

 

「あら〜、いらっしゃい♪ きゃー可愛い〜」

 

「わふっ!?」

 

 ドアを開けた深冬さんが魅姫を視界に入れると電光石火の速さで抱きつく。

 

「あなたが魅姫ちゃん? 私は春華のお母さんの深冬って言うの。よろしくね♪」

 

 抱きしめるのをやめ、魅姫の肩に手を置き、深冬さんが自己紹介をする。

 

「うん、おばあちゃん♪」

 

 ピシッ

 

 時が止まった…いや凍った。

 

「お・ば・あ・ちゃ・ん…?」

 

 魅姫の口から飛び出た単語が信じられないっといった感じで一文字一文字区切って確かめるように呟く。

 

「あれ? パパがミキのおばあちゃんだって…」

 

 魅姫が違ったかな? と首を傾げて、振り返り俺を見上げる。

 やべー、可愛い…

 

「魅姫ちゃん。私のこと、深冬ちゃんって呼んでくれると嬉しいな〜」

 

 深冬さんが自分のことをちゃん付けで呼んで欲しいと頼むが、その声は有無を言わせない響きを持っていた。

 

「わかった。みふゆちゃん。」

 

「ありがとう、魅姫ちゃん。さて、風樹くん…おばあちゃんってナニカシラ?」

 

 ぎゃー、こっち睨んでるよ!? 深冬さんの眼が猛禽類のようになってる。

 由紀なんかガタガタ震えてるし、春華さん! タスケテー

 

「お母さん。ユキが震えてるから。」

 

 俺の心の声が伝わったようで春華が助け舟を出してくれる。

 そして、由紀を後ろから優しく抱きしめる。

 春華の声に一瞬で変わり身を行い、由紀に挨拶を始めた。

 

「あら〜、由紀くん。そんなに震えてどうしたの? 私は深冬。よろしくね♪」

 

「由紀って言います。どうかよろしくお願いします。」

 

「あら、丁寧な挨拶で由紀くんはお利口さんね♪」

 

「いえ…」

 

 由紀が深冬さんから目を逸らし続ける。

 どうやら、深冬さんの迫力に恐怖心を植え付けられたみたいだ。

 まァすぐにそれも払拭されるだろうが…

 

「御夕飯ももう少しで出来るからお家に入りなさい。」

 

「は〜い!」

 

「お邪魔します。」

 

「ただいま。」

 

 三者三様に四月一日家に入って行く。

 春華の憐れみを含んだ視線が俺に待っているだろう未来を確信させる…というか助けてください。

 そして、家の前に深冬さんと二人っきりになる。


「風樹くん。」

 

「ハイ、ナンデショウカ?」

 

 深冬さんの底冷えする声にまだ肌寒い春の夜だというのに、汗がダラダラと流れる。

 冷や汗と脂汗って一緒に出るんだな、知らなかった…

 

「ウフフ…」

 

「ハハハ…」

 

 深冬さんの笑い声につられて乾いた笑い声が出る。

 

 ドスッ バタッ

 

 そこで俺の意識は暗転した。

 

 

 

『あれ、風樹君!? こんなところで一体どうしたんだっ!?   四月一日千秋』

登場人物も更新しました。

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