表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

蜘蛛之糸

 

「お前らはなんだっ!? 勝手に人様の家に入ってるんじゃねぇよ!」

 

「あら、これ家だったの? てっきり犬小屋かなんかかと思ったわ…それにしても朝っぱらから酒? ハンッ、良い歳した大人がみっともない。あんたに人様の様なんてつけるを資格なんか無いわよ。このゴミ屑。」

 

「何も知らないガキがっ!」

 

「フンッ、どうせ不景気で仕事無くして、妻に逃げられて朝から自棄酒、さらに子どもに当たるっていう負け犬人生でしょ…」

 

 と、春華は見下しモード全開で男の神経を逆撫でる。

 本当に飛ばしてなぁー、さっきのリモコンで相当頭にキてんな、コレ。

 

「ぐっ…」

 

 そして、見事図星だったらしい。まさに絵に描いたような典型的な転落人生を現在まっしぐらのようだ。

 俺たちは奥で縮こまっている二人の子どもに視線を送る。

 

「・・・」

 

「…うぐっ…えぅ……ふぇぇ…」

 

「ふぅ…児童相談所に電話すっかね…」

 

「っ!?」

 

 ん? どうやら何度かお世話になっているようだ…どうせ次あたりに何か問題を起こしたら法的手段にでるとか言われているんだろう。

 

「ねぇ…あなたたち、ここから抜け出したい?」

 

 春華は男を一瞥すると奥で静かに成り行きを見ていた男の子に優しく声をかける。

 

「ンァ? お前なにいっ「アンタは黙ってて!」」

 

「なっ、このクソ…アタタタッ」

 

 春華に言葉わ遮られ、顔を真っ赤にした男が春華に殴りかかろうとしたので、腕を捻りあげる。

 

「どう?」

 

 男の子はコクンと首を振る。

 それを見ると春華は俺の方に体を向け、男は怒りを表す。

 

「このアマッ! イタタタッ」

 

 が、腕に力を込めて男を戒める。

 

「風樹、放していいわ。」

 

「ん」

 

 握り絞めていた腕を放すと男は俺たちから距離を取る。

 俺たちはその行動を一瞥し、視線を合わせる。

 

「“アレ”使うけど良いわよね?」

 

 “アレ”ね…

 

「別にいいぞ…むしろお前は良いのか? あと半年後じゃないのか?」

 

「そんなのまた貯めればいいわ。別に私たちまだ若いんだから式は少し遅れても、ね。」

 

「ンじゃ、俺が言うことはないさ。春華の好きなようにしな。全力でサポートするからよ。」

 

「ありがとう。…そこのアンタ。」

 

 俺から男に視線を移し

 

「な、何だよ?」

 

 春華は鞄の奥から一枚の“キャッシュカード”を取り出す。

 

「このカードに一千万入ってるわ。」

 

「はぁ?」

 

「この一千万の入ったカードくれてやるから私たちの前から消えて。」

 

「なっ…」

 

「ほらっ」

 

 ピンッ

 

春華は男にカードを投げ渡すと二人の子どもたちの方へ向かう。

 

「番号は1807…出来たら今すぐ消えて頂戴。」

 

「・・・」

 

 タッ

 

 男は子どもたち何の未練も無いのか、すぐに部屋から飛び出していった。

 

「自分からけしかけといてなんだけど、あの男に良心やモラルはないのかしら…まぁいいわ。」

 

 春華は男が逃げ出して行くのを見届けると子どもたちの目線を合わせるためにしゃがみ込む。

 

「お姉ちゃんは誰?」

 

 男の子がビクビクと怯えた目で春華の顔色を窺う姿に悔しさを覚える。

 遊び盛りの元気な男の子が人の顔色を窺っていかなければいけないことに…


 

「私は春華、彼は風樹。あなたたちの名前は?」

 

 春華が慈愛に満ちた聖母のように男の子に接する。

 

由紀よしのり。この子は魅姫(みき)。」

 

「由紀くんに魅姫ちゃんね…あら、由紀くん怪我だらけじゃない!?」

 

「えっ、うん…」

 

 由紀の体をよく見るといたるところに痣や煙草を押し付けられたような痕がある。

 

「春華、とりあえず二人を俺の家に連れて行ってくれ。で、傷の手当てとか今後のこと考えよう。」

 

「そうね…でも、風樹は?」

 

「事後処理と各方面に連絡。」

 

「そっか…そうね。なら、そっちは頼んだわ。」

 

「あぁ」

 

「由紀くん、魅姫ちゃんは私が抱っこするからあなたは必要なものを持って。」

 

「ハイ…」

 

 由紀はボロボロのランドセルと手提げを持って準備をする。

 

「じゃあ、私たちは先に行ってるから。」

 

「あぁ、気をつけてな。」

 

 春華は右手で魅姫を抱き、左手で由紀の右手を握り、この部屋を後にする。

 俺も携帯をポケットから取り出してアドレス帳を開いた。

 

 †

 

「ふぅ…」

 

 パタッ

 

 一通りの連絡や根回しを終え、八畳程の部屋を見回す。

 

「とりあえず、由紀と魅姫の身の回りの私物だけでも持ってくか…」

 

 五分後

 

 何にも無ぇ…数着の服と保険証とか母子手帳ぐらいしか見当たらん…

 

「あとはさっき由紀が持って行ったランドセルと教科書とかの学校関連の物だけか…」

 

 後でみんなで買い物行くか…

 

「それにしても…」

 

 いろいろと漁ってたらアイツ等について分かったけど…

 

「異父兄妹か…これが家庭が荒れた理由の大きな要因かもな…」

 

 父親の血液型がO型で母親がB型、由紀がB型で魅姫がAB型…ね

 俺は見つけた改めて保険証を眺める。

 

「ヨシノリって『由紀』って書くのか…普通はユキって読むぞ? …ミキは『美姫』かと思ったけど…」

 

 まァいいや…人の名前にケチつけてもしゃあないし…今はこれからのこと考えるとして…

 

「帰るか…」

 

 数着しかない服と保険証などを持って、俺はこのアパートの一室を後にした。

 

 †

 

「へぇ…なら由紀くんはユキで魅姫ちゃんは…ヒメね。」

 

「なにが?」

 

「愛称よ、愛称。」

 

 そのまんまだった。

 

「それにしても可愛い寝顔だな…」

 

「そうね…」

 

 春華は二人を慈しむように頭を優しく撫でるその姿は絵画のようだった。

 俺が帰ってきたらソファーに座る春華の膝元で二人がスヤスヤと寝ていた。

 なので俺たちは二人を起こさないように静かに分かったことを報告しあった。

 

「さて、今は十時前、か…二人が起きるの待ってから必要なモノ買いに行くか…」

 

「そうね、服やら食器、家具…必要なモノはたくさんあるわね…」

 

「だな。でも、この様子だと昼まで起きなさそうだな…」

 

「えぇ…本当にぐっすり眠ってるわね。」

 

 ん〜、部屋があんな感じだったし…昼まで時間ある、と。

 

「なら留守番頼んだ。」

 

「はい?」

 

 まァいきなりじゃ意味分からないよな…

 

「買い物行ってくる。冷蔵庫の中ほとんど空だろ? それに米も無いんだろ?」

 

「確かに空っぽだけど…」

 

「あの男、この子らにロクに食べさせてなかったみたいだし、起きた時に美味い飯を腹一杯食わせてやりたいからさ。」

 

「そう言うことね…わかったわ。いってらっしゃい。」

 

「あぁ、いってきます。」

 

 とりあえず制服から着替えよ…

 

 

 

 『ムニャムニャ…スゥ、スゥ…    月島由紀&月島魅姫』

 

 †

 

「さて、何にするかな…」

 

 スーパーマーケットについたは良いけど…昼食を何にするか迷うな…

 

「ん〜、昼どうすっかなァ…」

 

「カレー♪」

 

「おっ、いいな。それ…ん?」

 

「やっほ〜! 国崎くん。こんな時間にこんな場所でどうしたの〜?」

 

 振り向くとそこにはクラスメートが私服姿で立っていた。

 

御巫みかんなぎ、お前こそ学校はどうしたんだよ?」

 

「ブッブー、減点1だよ。質問に質問で返すのはダメでしょ。それに私のことは可愛くしずかちゃんって呼んでよ〜」

 

 出会って一週間も経ってないのにそんな馴れ馴れしく出来るか。

 

「で、御巫。学校はどうしたんだ? サボタージュか?」

 

「むぅ〜無視した〜」

 

「学校は諸事情により休んだ。こんなとこってスーパーにいる理由なんて買い物が目的に決まってんだろ。」

 

「まァ何となくそうだろうなぁ、って思ってたけど〜」

 

「なら聞くな。で、お前は?」

 

「妹が風邪引いちゃってさ〜」

 

 ・・・学生が平日に妹の面倒を見ないといけないってことは…

 

「そっか、ご苦労様…」

 

「ありがと〜」

 

 けど、御巫はそんなことを少しも匂わせずに笑顔で応える。

 

「んじゃ俺はカレーの食材買いに回るかな。」

 

「私も桃缶買いにきたんだ〜、あれ美味しいよね〜」

 

「そ、そうだな…あ、俺もなんかデザート買ってくかな。」

 

「オススメは桃だよ〜」

 

「わかったからボリューム下げろ。ただでさえ平日のこの時間帯で注目集めるってのに…」

 

「は〜い」

 

 そして俺たちはお互いに必要なモノを買うために別れた。

 

 

 

 『おっ? 国崎くん、いっぱい買ったね〜   御巫静』

 

 †

 

「ただいま。」

 

 玄関で靴を脱ぎ、ビニール袋を両手で持ってリビングへ向かう。

 

「おかえりなさい。」

 

「ただいま。二人はまだ…寝てるみたいだな。」

 

 出かけた時と変わらず、由紀と魅姫は春華の膝元で安らかに眠っている。

 

「えぇ…お昼は何にするの?」

 

「カレーにした。カレーならキライな奴もいないだろうしな…」

 

「いいんじゃないかしら。」

 

「さて、いっちょ張り切って作りますか!」

 

「静かにね。」

 

「ハイ…」

 

 †

 

「ムニャムニャ…ん? ふぁ〜」

 

 匂いに誘われたのか由紀が目を覚まして、むくりと起き上がり、体をほぐす。

 

「おはよう。」

 

「っ!?」

 

 春華の挨拶に驚いたのか、由紀は体を硬直させる。

 

「そんなに怖がらなくて大丈夫だぞ。ここにはお前に暴力を振るう奴はいないんだから。」

 

「・・・」

 

 俺を窺う眼差し…春華と違ってまだ全然話してないしな…

 

「ふむ…改めて自己紹介するか…俺の名前は国崎風樹、17才。で、ここは俺の家。」

 

「私の名前は四月一日春華、17才。風樹の恋人よ。」

 

 間違ってないけどさ…

 

「ボクの名前は月島由紀です。8才です。」

 

「よろしくな、由紀。」

 

「よろしくね、ユキ。」

 

「…ユキ?」

 

 由紀はキョトンとした顔を見せ、首を傾げる。

 

「由紀って漢字で書くと“ユキ”って読めるでしょ? 愛称よ、愛称。これから家族になるんだからね。」

 

「家族…?」

 

「まァなんて言うか…うん、とりあえず俺たちが成人するまでは俺の親父の養子扱いだから俺の兄弟になるけど、俺たちが成人したら親子になるのかな。」

 

「それもあと半年でしょ。結婚したら成人扱いなんだから。」

 

「ま、な…」

 

「ん〜、ふぁ〜〜〜、あれ?」

 

 ここで魅姫も目覚める。

 

「おはよう。魅姫。」

 

「? おはよー?」

 

「おはよう。ヒメちゃん。」

 

「おはよー。」

 

 魅姫には分からいとは思うがとりあえず簡単に説明する。

 

 †

 

 四人が食卓につき手を合わせる。

 

「いっただきまーす!」

 

 前掛けをつけた魅姫が元気よく…

 

「いただきます…」

 

 由紀がおとなしく…

 

「いただきます。」

 

 春華がいつも通りに…

 

「召し上がれ。」

 

 パクッ

 

「わぁ〜おいしい〜♪」

 

「美味しい…」

 

「甘い…」

 

「小さい子がいるんだから当たり前だろ…」

 

リンゴやら蜂蜜らヨーグルトを入れて超子ども仕様の甘口だ…

 

「パパ、ママ! すごくおいしい!」

 

「風樹さん、美味しいけど…すごく甘いですね…」

 

「そうだな…」

 

 二つ作れば良かった…

 

「二つ作れば良かったのに…」

 

「うるせー」

 

「いいわ。ヒメちゃんも喜んでるし。」

 

「そうですね。春華さんの言う通りです。魅姫の笑顔を久しぶりに見ました。」

 

 由紀も笑顔でカレーを食べてくれるのを見て、これでいっか…と思う。


 俺たちを魅姫はパパママと呼び、由紀はさんづけで…こうして俺たちは家族になった。




『ごちそーさまでした!   魅姫&由紀』

 魅姫はどうしても名前に鬼を入れたくてこの名前になりました。

 あと月も名字に入れたかったんでこの名前です。

 由紀の名前には特に深い理由はありません。

 登場人物も更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ