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頭上注意


 あたたかいベッドは幸せだな…

 寝返りを打ち、化学繊維と綿の塊の中で温もりを全身に感じながらしみじみ思う。

 眠っているのか覚醒しているのか、曖昧な境界でのまどろみの中。

 夢かうつつかはっきりとしない意識で、俺は至福の一時を感じていた。

 

 †

 

「起…て…、起き…さい。」

 

 ン誰だよ…俺の眠りを妨げてんのは…

 

「起きなさい、風樹。」

 

 頭の上から透き通るような声が俺、国崎くにさき 風樹ふうきに降りかかる。

 それにたいして俺は、

 

「ん…、あと5分…」

 

 全国の学生のみなさんが朝に必ず言うセリフ、TOP3に入るであろうセリフで応える。

 

「300、299、298…」

 

「………やっぱりあと13分47秒…」

 

「827、826、825、824…」

 

 むっ…

 

「…27分38秒」

 

「1658、1657…」

 

 …そりゃ、分×60秒+秒数で小学生でも出来るけど、ノータイムで暗算かよ…

 

「1648、1647…」

 

「…わぁーったよ、起きるよ、起きます、起きさせていただきます。」

 

 三段活用

 

「全く…最初からすぐに起きなさい。いつまでも春休み気分でいるのをやめなさいよ。」

 

「へいへい、ちゃんとわかってますよ。春華さん。」

 

 俺が起き上がり、ベッドの縁に腰掛けて背伸びして目の前の少女、四月一日わたぬき 春華はるかを見上げる。

 

「なら早く学校に行く準備して下に降りてらっしゃい。朝食が冷めるわ。」

 

「んー、おっけ…すぐ行く。」

 

 頭をボリボリ掻きながら春華の言葉に応える。

 

「それと、風樹。」

 

「ん?」

 

 声に反応して顔を上げると目の前に整った顔が…

 

 ちゅっ

 

「おはよう。」

 

 今どきおはようのチューかよ!? とは思わない。

 なにしろ瑞々しく薄い桜色の唇は何度キスをしても飽きないからだ。

 そして、誰もが見惚れる綺麗な微笑みで俺に朝の挨拶をする。

 

「あぁ、おはよう。春華。」

 

 こうして俺たちの1日が始まる。

 

 †

 

「なんだ、父さん帰ってたのか…」

 

「なんだ、とはご挨拶だな…風樹?」

 

「…おはよ、父さん。」

 

 国崎 一樹いつき39才、バツイチ、研究所の所長をしているらしいけど、何の研究をしているかは知らない。

 6人用のテーブルの真ん中、父さんの斜向かいに座る。

 誰が好き好んで父親の前に座るか…というか俺の定位置に座っただけだけど…

 目の前にはトースト、目玉焼き、サラダ、スープ…見事に朝食してる朝食だ。

 ただ日本人はお米族だろ…俺、朝は米食わないとやる気出ないんだよなぁ…

 

「おはよう。なに、荷物を取りにきただけだ。また風呂入って一眠りしたらすぐ研究所の方に戻るさ。お、ありがと。春華ちゃん。」

 

春華がキッチンから珈琲を2つ持ってきて俺と父さんの前に置く。

 

「いえ、小父さんも大変ですね。毎日研究所に籠もりっきりで…風樹、ゴメンね。」

 

 春華も俺の横、親父の前に座って(普段は俺の正面)朝食を取り始める。

 ちなみに紅茶党。

 

「いや、たまにはパンもいいだろ。いただきます。」

 

「作ってもらって文句を言う奴には食べる資格はないさ。それと、私は好きなことを研究しているだけだから大して大変とは思わないよ。」

 

 別に俺は文句言ってないンですけど…コイツが察しが良すぎるだけだし。

 

「それなら良いですけど…無理は禁物ですよ?」

 

「ありがとう、こうして春華ちゃんの笑顔が見れるだけで心も体も癒されるよ。」

 

 なんだ? この茶番は?

 

「あ、小父さんの着替えならいつも通りにタンスの中にしまっておきました。新しい洗い物は篭にお願いしますね。」

 

「いつもいつも悪いね…春華ちゃん、きっと良いお嫁さんになるよ。」

 

 と、なにやら言いたげな視線を俺に送る。

 おい、クソ親父。その目はなんだよ? 確かに家事完璧、容姿端麗の優良物件だけどさ…まァついでに床上手だし。

 

「風樹、最後のはいらない。」

 

「だから心を読むな。」

 

「アナタは顔に考えてんていることが出やすいのよ。」

 

 この女は何を抜かしてんだ? これでも俺、ポーカーとか負けなしなんだけどな…

 そんな俺らのやり取りを父さんが楽しそうに眺める。

 こうして朝の時間は流れていく。

 

 †

 

「ごっそさん。上手かった。」

 

「お粗末様。ん、そろそろ家を出る時間ね。」

 

 時計を見ると8時前だった、ここから学校まで徒歩30分だから結構な時間だ。

 

「だな。」

 

 食器をシンクに運び洗い物を始める。(後片付けは基本的に俺)

 

 †

 

「それにしても」

 

「ん?」

 

「お前、家はいいのかよ?」

 

 現在、我が家に五連泊中のこの娘さんは生まれた時からの幼馴染み。

 

「良いんじゃない? 別に風樹の家に行くって言ったらウチの親共は二つ返事よ。」

 

「そりゃ、あの人達はな…」

 

 孫はまだかしら? と、ことあるごと訊いてくる二人だからな…

 ちなみにあの二人はすでに孫につける名前を男の子用と女の子用の二つを考えているらしい。

 

「俺らまだ高校生なのにな…」

 

「できちゃった結婚はちょっとね…」

 

 こちらのお嬢さんはしっかりと俺の考えを見透かすし…

 

「そーですね…」

 

「そうだ、11月7日に籍を入れるから。」

 

 籍を入れるって…結婚? というかその日は…

 

「って俺の誕生日かよっ!?」

 

「何? 不満や文句でも?」

 

 確かに法律上、女は16才からで男は18才から結婚出来るけどさ…

 

「いや…あと半年ちょいで人生の墓場行きか…」

 

「それ、不満じゃない。」

 

 春華がジト目で俺の顔を見やる。

 

「ジョークだ。」

 

「まったく…」

 

「そういえばもう少ししたらお前の誕生日じゃん。なんか欲しい物とかある?」

 

「子ども。」

 

 即答

 

「オイ…」

 

「…ジョークよ。」

 

 ホントに良い性格してるよ…まったく…でも目を逸らすな、落胆すんな…ハァ、けど、コイツって子ども大好きだしなぁ…

 

「なら、エンゲージリング。」

 

「・・・」

 

「何? その目は?」

 

「いや、もういいや…」

 

「期待してるから。」

 

「あい…」

 

 振るんじゃなかった…それにしてもこの幼馴染みのどこを好きになったんだか…ん〜、家事完璧、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、人望が厚い、器量よし、床上手…。

 むしろ何で俺と付き合ってるんだ? この完璧超人は?

 

「私より全部スペック高いくせに良く言うわね…それに…風樹の隣立つために頑張ってきたらそうなっただけ…」

 

「知ってるよ。そんな頑張り屋の春華だから愛おしいんだ。」

 

「風樹…」

 

「春華…」

 

「あのさ、二人とも道の真ん中で何やってんの?」

 

 邪魔が入る。

 

「何よ、あら久しぶり、夏樹。」

 

 春華が少しウザったそうに目を向けるその先に春華の弟の夏樹なつき14才、がいた。

 それにしても、家族に対して久しぶりって…


 

「そうだね、久しぶり。で、姉ちゃん。ただでさえ美男美女な二人で目立つのに、その二人が道の真ん中で見つめ合ってたら余計目立つって…」

 

 姉の視線にめげずに夏樹は現状を説明してくれた。

 

「おはよ、夏樹。今日は朝練ないのか?」

 

「おはよう、兄ちゃん。今日はお休みだよ。それと、姉ちゃん。」

 

「何かしら?」

 

「あんまり兄ちゃん家に入り浸るのやめなよ。春休みも終わったんだからさ。」

 

「わかってるわよ。今日はちゃんと家に帰るわ。」

 

「それじゃ今度は俺が四月一日家に行くかな…」

 

 という適当発言が面倒くさい展開の引き金に…

 

「ホント!? あ、それは良いけど、お泊まりは禁止だから。」

 

「えぇ〜母さんは家でしても良いって言ってるじゃない。」

 

 ナニを? 家での後ろに入るのはお泊まりだよね?

 

「姉ちゃんは声が大きいんだよ。それと、ガタガタ五月蝿いんだよっ!」

 

 確かに…だけどこの姉弟は朝からナニを言ってるのだろうか…

 

「だって声出さないと気持ちよくないじゃない。」

 

 そしてコイツは何を口走ってるんだろうか…

 

「思春期の弟が隣の部屋に寝てんの考えてよっ!!」

 

 確かに…やっべ、夏樹がグレたらどうしよっかな…

 

「何? アンタ…実の姉に欲情してんの?」

 

 春華は自分の体を抱きしめ、身震いしながらそう言い捨てる。

 

「ハァ…兄ちゃん、姉ちゃんをどうにかしてよ…」

 

 夏樹じゃコイツの相手は手に余るか…


「言い過ぎだ、春華。そんなことばっか言ってると今日は夏樹の部屋に泊まらせてもらうぞ。」

 

 すると信じられないといった目で俺を見る春華。

 

「何? 風樹、私だけじゃ飽きたらず夏樹にまで手を出すつも『パリーン、ガッ』ふぎゃっ」

 

 どこからか窓を突き破って飛んできたリモコンが春華の頭を直撃した。

 

「「・・・」」

 

「神様っているんだな…」

 

 それにしても夏樹までって…俺はBLかよ…

 

「兄ちゃんっ!! 空を仰いでないで姉ちゃんを介抱しないと!!」

 

「あぁ…」

 

 罰が当たった春華は頭にタンコブを作って気を失っている。

 

「見事に気絶してるね…」

 

 その時遠くからチャイムの音が聞こえてきた。

 

「夏樹、時間ヤバいみたいだから先に学校行ってろ。春華は俺が責任持って学校に連れてくから。」

 

「えっ、もうそんな時間? ……ホントだ、じゃぁ兄ちゃん、またあとで? で良いんだよね?」

 

「あぁ、あとで顔出しに行く。」

 

「じゃ、またね。兄ちゃんも急いで高校行きなよ。」

 

 タッ、タッ、タッ、と小気味良いリズムで夏樹が駆けていくのを見届け、俺はリモコンが飛んできた方を見る。

 

「俺って結構事なかれ主義だけど…彼女を怪我させられて黙ってるほど人間出来てないんだよね。」

 

 というかそんな人間になりたくもない。

 

「よっと」

 

春華の体を持ち上げ背中におぶり、窓が割れているアパートの一室を目指して歩き始める。

 

 †

 

「ココ、か…」

 

 203 月島つきしま

 

「この月島さんが私の頭にリモコンをぶつけたのね。」

 

「なんだ、起きてたのか…」

 

「えぇ…『俺って結構事なかれ主義だけど…彼女を怪我させられて黙ってるほど人間出来てないんだよね。』ってとこから。」

 

 ンだよ…随分前から起きてたんじゃねぇかよ…

 

「まァいいや。頭はまだ痛いか?」

 

「少しズキズキするけど、そんなに気にするほどでもないわ。」

 

「なら良かった…」

 

「それより…」

 

「あぁ…」

 

 俺と春華は目の前のドアの奥から聞こえる罵声と破壊音に耳を傾ける。

 

「何かが割れる音がするわね。」

 

「男の怒鳴り声が聞こえるし、さっきのリモコンも癇癪起こして投げられたんだろうな。」

 

「夫婦喧嘩かしらね?」

 

「だろうな。」

 

 俺がインターホンに人差し指を持っていく…

 

 ガチャ、バンッ

 

「チャイムぐらい押させろよ…」

 

「うっさいわね、ちょっと外歩いてたらアンタん家のリモコンが私の頭に直撃したんだけど、夫婦喧嘩は犬も喰わないって言うけどウザったいからさっさとやめてくれない…かし、ら…」

 

 春華はドアを勢い良く開けると早口で文句をまくし立てながらズカズカと奥へ侵入していく。

 そして、俺たちが部屋の奥に入って見た光景は片手に一升瓶の男、乱雑な部屋、卓袱台の上には空の缶ビール、コンビニ弁当のゴミ、煙草の吸い殻が大量にある灰皿…そして小学校中学年ぐらいの男の子と男の子に庇うように抱きかかえられている年端もゆかぬ女の子だった…

 

「あぁ〜、…夫婦喧嘩じゃなくて、もしかしなくても、虐待?」

 

 春華が珍しく戸惑った表情を見せる。

 

「みたいだな…」

 

 こうして俺たちと月島兄妹は邂逅した。

 とまァこんな感じです。

 龍のアザを左胸に宿す少年の主人公・ヴィオとヒロイン・リルの名前の由来を由来にしてます。

 性格が全然違いますが…

 龍のアザの方は…最後までの大まかな展開はもうあるんですが、どうしても筆が進まず…もし、楽しみにしている方がまだいらしたら申し訳ないです。

 とっとっ、次に龍のアザでいうメーヒが出てきます。

 感想お待ちしております。作者が狂喜乱舞します。

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