はじまりはここから
--------お読みになる方へ------------
作品の中にはイジメ、嫌がらせの表現があります。
苦手な方は不快に感じられるかもしれませんので
お読みになられる場合は予めご了承ください。
おけいこが終わった後、走って公園に行った。
さっきまで使っていた本をいれた手さげバッグを肩にかけて。
「また明日も遊ぼうね」って約束した子はまだいるのかな。
必死になっておうちと教室の間にある公園まで走っていったけど、今日はだれもいなかった。
私の口からはハッハッハッて犬みたいに息がもれてて、それでも公園の中をぐるぐると周りを見たけどだれもいない。
「もう、帰っちゃったかな…」
犬みたいに吐く息と一緒にこぼれおちた言葉。
楽しみにしていたのに、やっと遊んでくれる友達ができたって思ったのに。
ずっとおけいこばっかで、遊んでくれる子がいなかったから。
だれからも返事のないことにちょっと悲しくなって、少しふてくされて、手さげバッグを勢いよく振っても、うでが痛くなるだけでつまんなかった。
──たまたまいないだけかもしれない。
そう思って、私は待つことにした。それにまっすぐ帰りたくなくて、私はドカンの中に入って座って待った。
ときどきカラスの声が鳴いたり、だれかがおしゃべりしながら通る声は聞こえたけれど。
でも、いくら待ってもあの子はこなかった。
やがて暗くなってきて、待ちくたびれた私は気づいたらドカンの中で丸くなって寝ちゃっていたみたい。
というのも、私はお母さんに起こされたから。
帰りが遅くて心配して探していたんだって。
前にもあの子と遊んで帰った時に、この公園のドカンにいたと聞いていたから、だから見つけられたんだとお母さんは言ったけど、すっごく怒られた。
おけいこの帰りに寄り道はしちゃいけませんって怒られた。
でもせっかく遊んでくれる友達ができたんだもん。
あしたも、あさっても、私はあの子を探そうって決めたんだ。
でも、あれから一度も遊べなかった。
そのことがずっと胸に残ったまま、私は育った。
あれから習い事の種類は減ったけど今も変わらず習っている。
帰りが遅くなると、心配性なお母さんが電話をよこす。
日が暮れるのが早い時期は、送り迎えをしてくれる。
私が自由になれるのは、学校でぼんやりと過ごしている時だけ。
あとはずっと習い事に追われて友達ともろくに遊べていない。
好きだからいいんだけど。
でもたまには遊びたいって思ったりもした。
そうやって、ずっと降り積もったそれは一面を埋め尽くしていった。
音もなく、舞い降りてきたそれは── 私の肌に触れて消えた。
触れたことすら気づけずに。
楽しかった事もつらかった事も今までの思い出は、そこに敷き詰められて。
白と黒の世界では、浸みこんだかすら分からないくらい儚く、そして消えゆく様を、ただぼんやり眺めていたそんな私の話。
そうあれから、あの子と出会う事なく育った私、小坂杏梛の15の冬。