さがしものさがし
「さがしものはありませんか?」
ゆきちゃんは、きょうも町でさがしものをしています。ニコニコとかわいらしいえがおをうかべて、ちいさな足をせかせかと動かし、道をゆく人たちに話しかけています。
「さがしものはありませんか?」
その中から、ひとりのおとこの人がやってきました。ふとっちょの体をのっしのっしとゆらして、あせをかきながらゆきちゃんに話しかけました。
「ちょうどよかった。妻にもらったハンカチを家の中でなくしてしまってね。こまっているんだ。たのめるだろうか」
「わかりました!」
ゆきちゃんがおとこの人についていくと、レンガでできた大きな家につきました。はしらどけいが立派な、大きな家です。
きょろきょろしながら、ゆきちゃんはさっそくさがしはじめます。
「どこかなどこかな。いったいどこにあるのかな」
ちいさなからだをいっしょうけんめいに動かして、ゆきちゃんは家の中をさがしました。すると、ベッドのしたにハンカチがおちているのをみつけました。
「みーつけた!」
「やあやあ、これはありがとう。おれいにこれをもっていっておくれ」
おとこの人はゆきちゃんからハンカチをうけとると、かわりにあめだまをみっつ、手のひらのうえにのせました。コロンとまあるく、ちいさくてかわいらしい、まるでゆきちゃんのようなあめだまです。それをみたゆきちゃんは、さらにえがおになりました。
「ありがとう、おじさん!」
「食べすぎないようにね。それじゃあ気をつけていくんだよ」
ゆきちゃんとおとこの人は、どちらもえがおで別れました。そうしてゆきちゃんは、もういちどさがしものをはじめました。
「さがしものはありませんか?」
まっかなほっぺをぷくぷくとふくらませて、えがおで道ゆく人に話しかけます。するとその中から、エプロンをつけたおんなの人がやってきました。
「おなべがなくなってしまったの。これではこどもたちのごはんが作れないわ。とてもこまっているの、おねがいできるかしら」
「わかりました!」
ゆきちゃんがおんなの人についていくと、とても大きな木のよこにたっているすてきな家につきました。にわさきに白いブランコがある、すてきな家です。
きょろきょろしながら、ゆきちゃんはさっそくさがしはじめます。
「どこかなどこかな。いったいどこにあるのかな」
ちいさなからだをめいっぱいに動かして、ゆきちゃんは家の中をさがしました。すると、こどもべやのおもちゃばこの中におなべが入っているのをみつけました。
「みーつけた!」
「まあ、ありがとう。おれいにおひるごはんでも食べていってちょうだいな」
おんなの人はゆきちゃんからおなべをうけとると、ごはんを作りはじめました。しばらくすると、おいしそうなごはんがテーブルにならびました。
ふかふかのやわらかいパンと、お肉とおやさいのたくさん入ったシチュー。そしてゆきちゃんの大すきなイチゴでした。それを食べたゆきちゃんは、おなかいっぱい。さらにえがおになりました。
「ありがとう、おばさん!」
「おいしそうに食べてくれてうれしいわ。それじゃあ気をつけていくんだよ」
ゆきちゃんとおんなの人は、どちらもえがおで別れました。そうしてゆきちゃんは、もういちどさがしものをはじめました。
「さがしものはありませんか?」
まんまるおめめをくりくりと動かして、えがおで道ゆく人に話しかけます。するとその中から、つえをついたおばあさんがやってきました。かおはしわくちゃで、こしがまがっています。
「かわいらしいこだね。でもあんたに何ができるんだい」
「さがしものをさがせます!」
「ほんとうかね。なら、わたしがさがしているものをさがしてごらん」
おばあさんがいじわるそうにいいました。ゆきちゃんはそれでもえがおで答えます。
「わかりました!」
ゆきちゃんは町じゅうをさがしはじめました。
「どこかなどこかな。いったいどこにあるのかな」
きょろきょろあたりをみまわして、ちいさなからだをちからづよく動かして、ゆきちゃんはいろんなところをさがしました。
道のはしっこにはありませんでした。
草むらのかげにはありませんでした。
お花ばたけのいりぐちにはありませんでした。
森の木のうろの中にもありませんでした。
ゆきちゃんは、まだまださがします。
町のどうぞうの足もとにはありませんでした。
きょうかいのさくの内がわにはありませんでした。
とりごやのニワトリの口の中にはありませんでした。
ふるびたさかやさんの木ばこの中にもありませんでした。
「どこかなどこかな。いったいどこにあるのかな」
たくさんさがしても、どれだけさがしても、おばあさんのさがしものはちっともみつかりません。けれど、ゆきちゃんはあきらめませんでした。
へとへとのちいさなからだに、えいやっ! とちからをこめて、ふたたび町じゅうをさがしました。それでも、おばあさんのさがしものはみつかりませんでした。
おひさまはすっかりかたむいて、町はオレンジいろにそまっています。さがしものがみつかるけはいはありませんでした。このままではあっというまに夜になってしまいます。ゆきちゃんのひょうじょうも、だんだんとくもりはじめました。
そうしてゆきちゃんがこまっていると、あるいている人が声をかけてきました。
「おや。どうしたんだい、ゆきちゃん」
「じつはさがしものをしているのだけれど、みつからないの」
「なんだそんなことか。すこしまってておくれ」
その人はそういうと、どこかへいってしまいました。そして、しばらくするとたくさんの人をつれてもどってきました。
「この人たちは、今までゆきちゃんにたすけてもらった人たちばかりだ。今度はわたしたちがゆきちゃんをたすけるばんさ」
その人はわらいながらそういいます。それをみて、ゆきちゃんもまたえがおになりました。
ゆきちゃんのえがおをみて、まわりの人たちにもえがおがどんどんと広がっていきました。そこにはふとっちょのおとこの人も、エプロンすがたのおんなの人もいました。
ゆきちゃんのまわりにいるほとんどの人たちのかおには、花がさいたようなえがおがうかんでいました。けれど、おばあさんのかおだけはわらってはいません。おばあさんだけは、泣きそうなくしゃくしゃのかおになっていました。
「あんたはわたしがほんとうにほしかったものをもっているんだね」
「おばあさん、どういうこと?」
「わたしのさがしていたものは、ここにあったということさ」
おばあさんはゆきちゃんのあたまをやさしくポンとなでると、かおをくしゃくしゃにしたまま人ごみの中にきえていきました。
ゆきちゃんはきょとんとしたかおで、おばあさんのきえていったほうをながめています。そしてすぐに、今まででいちばんのえがおで、あたりにひびく大きな声をだしていいました。
「みーつけた!」
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