狡猾王女と魔法の授業
あれから数日が経ち、段々エリザとしての生活にも慣れてきた。
数十人近くいる第一王女付きの侍女が甲斐甲斐しく私の世話を焼かれるのはくすぐったいが、立場が立場なので基本的にされるがままになっている。
最近は習い事にも取り組み始めた。剣術、や魔法、乗馬など、全て兄達が習っている事ばかりだ。
悪徳の魔女に対する対策が全然浮かばない今、私は私のできる事をやるべきだ。それで色々考えた結果がこれ。
最初は王子の習い事を王女がやるという事に色んな人(主に父様)から難色を示されたが、母様やウォーレン卿が味方になってくれたおかげでなんとか許可が降りた。
剣術の講師は新しく選別するらしいが、魔法の方はウォーレン卿が教えてくれるそうだ。
ちょっと講師のレベルが高すぎる、と私は思わず唾を飲み込んだ。
=====
「ではエリザ様、まずは基礎からお教え致します」
「はい!」
そうして迎えた魔法の授業。そこは兄様達も練習に使っている広場だった。
意気込みながら返事をした私に、ウォーレン卿はいつもと変わらず「ほっほっほ、元気でよろしい」と笑う。何か、ウォーレン卿っていつもそれ言うなぁ。
「魔法には様々な種類が存在するのは、エリザ様もご存知でしょう。炎を生み出す魔法、水を操る魔法、他者を癒す魔法など、本当に様々です」
にこやかに話しながら、ウォーレン卿は手のひらに小さな炎の球を作った。
突然の事に目を見開いて球を見つめると、今度はそれが鳥の姿になって私の周囲をぐるりと飛びまわり、空に向かうとそのまま花火のようにぱん、と消え去った。
「今のも魔法なの?」
「さようでございます。あれは炎を生み出し操る魔法を応用したのです」
ウォーレン卿は他にも、雷を手のひらで生み出したり風を吹かせてみたりと、様々な魔法を実演してみせる。
「魔法とは即ち、魔力を軸に経験と叡智によって構築された技術形態なのです。それではエリザ様。魔法の種類、もとい魔法を分類する名称を答えられますかな?」
「えっと……攻撃手段に用いる“攻撃系”、結界とかを張る“防御系”、傷を癒す“回復系”、精神に異常を引き起こしたりする“精神系”、天候や自然などの空間に干渉する“空間系”───だっけ?」
「その通りでございます。まぁ、人には得手不得手というものがあります故、最初はどの種類の魔法がエリザ様に合っているのか、それを確認する為の訓練を行います」
朗らかな笑みでそう話すウォーレン卿に、私は力強く頷いた。
=====
結果だけ言うと、散々だった。
攻撃系は、初歩中の初歩である魔球が、球体にならず失敗。
防御系は、無難な防壁が、そもそもふにゃふにゃで全く壁にならず撃沈。
回復系は、何か魔力を垂れ流すだけで終わった。
空間系は、そもそも高度な技術を求められるので大抵の人は一発目から成功する事はないらしく。
唯一うまくできたのは、精神系魔法の動作予測だけだった。
「お見事です、エリザ様」
ウォーレン卿が拍手をすると、彼の周囲にあった鎖のようなものが瞬時に消えた。
くたくたになった体からぐったり力を抜いて倒れ込むと、ほっほっほ、といつもと同じ笑い声が響く。
「動作予測は自分自身にかける精神系魔法。対象の動きを予測できるよう、魔力で自身を強化する魔法です」
つまりは単純な強化バフ、と。説明を聞く限りだと、バフがかかるのは速さとかそのあたりだろうか。
「エリザ様は精神系魔法に適性があるやもしれませんな。本日はここまでとして、次からは精神系を中心に他の魔法も練習する、という事に致しましょう」
「……はーい」
深呼吸と共に返事をする。
それにしても皮肉だなぁ。
心を壊された王女の得意な魔法が、よりにもよって心を壊せる精神系魔法だなんて。