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狡猾王女と決意

 『ファンタルシア=ブラッドハーツ』は、呪いと因果の物語だった。



 アルトメリア王国の港町で育った主人公が、追われていたメインヒロインを助けた事で物語は幕を開ける。

 メインヒロインと一緒に逃げ回る事になった主人公は、立ち塞がる敵と戦い、仲間を増やし、成長し。

 ついにはメインヒロインが持つ秘密と、ヒロインを狙っているのがラスボス───この国の王太子、ヴィンセントである事を知る。


 その時、アルトメリアの王族達は暴虐の限りを以て民の上に君臨していた。

 王は王太子の傀儡となり、王太子とその弟妹達は民を虐げた。

 唯一、第三王子アーノルドだけが民の為に主人公に味方をして、国と民の為に最愛の家族と敵対。主人公はアーノルドや仲間に支えられ、王族達を討ち果たす───の、だが。



 私は。そして、主人公の敵だったアルトメリア王国側の人達は、知っていた。

 この物語が、単純な真実だけではできていないという事を。





======





「落ち着いたか、エリザ」

「ぐずっ……はい……」

 鼻をすすりながら、ヴィンセント兄様の問いに頷いて涙を止める。

 途中で私につられてまた泣き出したアーノルド兄様はラインハルト兄様に慰められていて、ウォーレン卿はあからさまほっとした様子でアーノルド兄様と同じように私の涙を拭ってくれた。

「それにしてもホントにビビったよ。急に泣き出すんだから」

 ラインハルト兄様の言葉に、思わず肩が跳ねてしまう。前世の記憶の影響で、なんて言ったら、ホントに頭がおかしくなったと思われかねない。

「エリザ、ほ、本当に平気なの?」

 涙声のまま確認してくるアーノルド兄様に、頷きながら微笑む。

「本当に大丈夫ですよ、兄様」

「本当に……?」

「本当、です」

 力強く言ってみせれば、アーノルド兄様は渋々だけれど身を引いてくれた。

 他の三人の視線を感じる気はしないでもないが、それはスルーだ。


「……む?」

 そんな時、ウォーレン卿がぴくりと眉をしかめて扉の方に目をやった。真っ先にそれに気付いたヴィンセント兄様も同じように扉を見やるが、首を傾げてウォーレン卿を確認する。

 ウォーレン卿は数秒だけ扉を見つめると、無言で私達を壁の方に寄せて扉から離れさせ、自分もピッタリと壁の方に張り付いた。

「エリザ!!!!!!」

 次の瞬間、勢いよく音を立てて扉が開き、一人の男性が部屋に飛び込んできた。

 燃えるように真っ赤な髪をヴィンセントと同じく後ろに流し、漆黒色の上等なサーコートをばさりと翻してこちらを振り返った男性は、私と目を合わせるとキツい表情をあからさまに綻ばせた。

「あぁ、エリザ!本当に起きていたのか!」

「……父様」


  ───アルトメリア王国国王、ギルバート・ワールスマン・アルトメリア。


 ゲームで傀儡となってしまっていた頃は痩せこけて髭や髪もべらぼうに伸びきっていたけれど、こうして整った姿は立派な王の姿に見える。

 父様は私の前に膝をついて視線を合わせると、耳に髪を一房かけて薄く微笑んだ。

「無事に目覚めてくれて良かった。父は今、心から安心しているよ」

「……ご心配をおかけしました、父様」

 ……ゲームではほとんどわからなかったけれど、この人、こんなに良いお父さんなんだな。何か裏話というか裏設定を見ているみたいでドキドキする。

 そう思うと同時に、この人もまたブラッドハーツの呪いと因果に巻き込まれて悲惨な結末を送ったのだと思うと、純粋に悲しくなってしまった。

「後で母やルパードの所にも行ってやると良い。二人も心配していた」

 私の母、つまりはこの国の王妃。ルパードは私達の末弟である第四王子の名前だ。

「わかりました、すぐに行きます」

 そういえば、私は前世でこの国の王妃を設定資料集だけでしか見た事がない。兄弟達の回想でも名前だけだったりワンシーンだけだったりで、ほとんど出てこなかったし。

 ……そもそも原作の時点でエリザ達の母は、既に亡くなっていた。今生きていても、このまま原作通りに行けば遠からず彼女は亡くなるだろう。

 そう、原作通りに行ってしまえば、家族はアーノルド兄様を除いて完全崩壊し、国は主人公達が現れるまでずっとボロボロのままになってしまう。

 それは、間違いなく地獄だ。

「……そんなの、絶対やだ」

 敵役ルートなんて許さない。

 よく考えろ。

 どうして今、私はエリザなのか。どうして今、前世の記憶を取り戻したのか。

 この記憶を持っているという事は、私は───私だけは、敵役ルートを回避できる筈なんだから。


「……エリザ?」

「はい、兄様」

 呼びかけに答えてにっこりと微笑むと、ヴィンセント兄様は特に何も言う事はなく部屋を出た。ラインハルト兄様もそれに続き、アーノルド兄様も更に後を追う。ここ、アーノルド兄様のお部屋なのに。

 私は胸の前で自分の手を握り締めると、私自身である“エリザ”に心の中で語りかけ、兄様達を追いかけた。



(───きっと、私が守るからね。エリザ)



 狡猾王女と呼ばれた貴方が、誰よりも愛した家族の事を。

父ギルバートだけミドルネームが違うのは、王族のミドルネームは実母の旧姓を当てている、という設定だからです。

エリザ達の母親はダイヤモンド家の娘の子、父親はワールスマン家の娘の子、としてわかるようにしているのです。

なお私が独自に作った設定なので、リアルの王族が本当にそうであるかは知りません。

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