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ある狼人の半生~如何にして最愛の番を見つけた彼が悲恋で終わってしまったのか~

 ……こうしてウルードは愛しき番と自分の壁になる存在を殺した。

 自分の一族、自分の元婚約者一族、自分を捕まえに来る警邏(けいら)隊。全ての障害を自分の腕力で殺し続けた。

 それもこれも全ては愛しき番、赤頭巾の君と結ばれる為に。


 古惚けた赤頭巾で顔を隠しているが、微かに漂うあの芳醇な甘い匂いは間違いなく我が番の証。

 森で出会った時から求婚をしているのだが、何時だってはぐらかされていた。元婚約者の事は元々は政略結婚で、何方か番を見つけた場合解消する手筈。そう話しても中々頷いてはくれなかった。


 ならば先に婚約解消してから求愛しようとしたが、何故か元婚約者とその一族、自分の家族を含めた一族全員がウルードと愛しき番の赤頭巾の君との結婚を反対した。どんなに理由を聞こうとしても頑として理由を話してはくれなかった。

 それ所かその昔ちょっとした()()()をした事がバレていて、その事を全員から責められた挙句警邏隊に引き渡すと言うではないか。


 だから彼は邪魔するモノを消した。

 追っ手から逃れウルードが向かう先は愛しき番の赤頭巾の君がいる花畑。彼女に全ての事情を話し一緒に逃げ様と言うつもりだ。辛く苦しい旅になるが二人ならばきっとこの愛の逃避行も乗り越えていける筈。そして何時か小さな家で彼女との間に出来た子供達と静かに暮らせる筈だ。

 ウルードはこれからの温かく愛おしい未来に高まる鼓動を抑えて、彼は愛しき番の赤頭巾の君がいる花畑へ到着した。


 花畑の中央にウルードのお目当ての相手である愛しき番の赤頭巾の君が立っていた。

 彼は居ても立っても居られず小柄な身体を抱きしめた。抱きしめるままだった赤頭巾の君がオズオズと細い腕を動かし――――







 ()()()()()()()()()()()()()()()()()



「ああ! やりました! やりましたわ旦那様!!!!」

 倒れこむウルードに視線すら交わさず、誰かの元へ走り去る。


 ウルードは痛む身体を堪えて後ろを振り向く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()姿()がそこにはあった。



「これで()()()()()()()()()()()()()()()()()()。全ては旦那様のお陰です!」

「いいや。全部お前の努力と執念によって完遂したものだ。俺はただやり方を教えただけ。……さぁ、後始末は獣人の警邏隊に任せよう」


 感動を分かち合いそのまま去ろうとする二人にウルードは怒鳴り声を上げる。大声を上げたせいで傷が響いて直ぐに大人しくなったが。


 ピタリと歩みを止め、二人はウルードの方へ振り向いた。……その顔は嫌悪一色に染められていた。


「……本当に分からない訳?」

「私の愛おしい人。このまま何も知らないまま死ぬのはお前にとって業腹(ごうはら)だろう。不愉快だろうがお前の口から話してやりなさい」

「はい……」


 そしてウルードの愛しの番の可愛らしい口元から残虐で悍ましい話が繰り広げる事になる。

























「……分かった? 私はお前が(なぶ)りながら食い殺した老婆と女の子は私の祖母と妹。そしてお前が娘と母親の死体の前で強姦し、喉元を食い千切って殺した女は私の母だ!!!!!!」



 ウルードは混乱していた。

 確かに愛しの番である赤頭巾に出会う前は()()()()()はしたつもりだ。だが、自分が食い殺した老婆と子供、強姦した後殺した女()は一体()()()()()分からなかった。


「ああ。此れは分からない顔だね」

「ええ、ええ!! こんな事腹立たしい事に予想出来ましたわ。何せ旦那様の伝手を使って調べた所私のお母様達と同じ様な罪を()()()()()()()()()()()()。本当に自分の種族以外は塵としか思っていないのね!!」

「この男は本家の唯一の男児故に甘やかされたのだろう。でなければ()()()()()姿()嘘とは思えない」


 ウルードは男の言葉で気が付く。ウルードの昔の罪を元婚約者達一族、自分の一族達に暴露したのはこの男と愛しの赤頭巾だと言う事を。


「どうせ死刑になるのだから冥途の土産に教えてあげる。私はアンタと何度も()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……えっ?」


 ――街中だけではなく、アンタの屋敷にも行ったのに本当に気付かなかった訳?



 嘲笑する愛しの番を見て、呆けた声を出すウルード。

「う、嘘だ! そうだったとしたら絶対に気付く筈だ!!!!」

「そうでしょうね~。()()なら」


 愛しき番の赤頭巾は自分が被っている赤色の頭巾を脱ぐ。長い茶色の髪がふわりと脱いだ時に髪が舞い上がった。


「えっ……?」


 ウルードは呆けた声を出す。何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「流石に二十近い娘が形見とは言え古びた頭巾を被るのは可笑しい場面もあるわ。……まさか『番の香り』だけで認識して相手の()()()()()()()()()()なんて……」

 これ以上は話したくなくなったのか、赤頭巾は夫に腕にしな垂れる。彼は妻の頭を優しく撫でるとウルードにトドメを指す為に()()を話す。


「彼女の身に着けていた頭巾は彼女の祖母が幼い頃に、祖母の両親が誕生日プレゼントとして渡した物。それを祖母の娘……つまり彼女の母親が幼い頃に被せ、そして彼女が、彼女が被らなくなったら妹に着せていた物」


 男の突然の説明に戸惑うウルード。男は深く溜息を吐いた。


「お前はこの頭巾を外したこの子を見ても気付かなかった。つまり俺の妻がお前の番ではないと言う事だ。……まだ分からないのか? もしかすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……ウルードは此処でやっと思い出したのだ。

 そうだ。あの森でお腹の空く様な砂糖菓子に蜂蜜を掛けた様な甘ったるい匂いがした。本能のままに匂いの元へ駆け寄ると森の中に家があって、叩き壊す様に扉を開くと。

 一人の老婆がベッドの上で寝ていた。そしてウルードの後ろで『おばあちゃんただいま~』と幼い子供の声が。子供の後で帰ってきた老婆に良く似た女が『何方様?』とウルードに声を掛けた。


 一瞬理解できなかった。


 しかし、理解した瞬間彼の理性が粉々に崩れ落ちた。








 …………お、俺は、俺は何て事を!!!!!!


























 ―――森の中で狼の悲痛な遠吠えが響いたのだった。












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