また戦場でね
端的にいうと、これはわたしたち人類と“虫達”たちとの戦いだ。
“虫達”たちとの戦いはまだ続いている。むしろ、人型“虫”の登場で、その戦いはより熾烈になっている。
だけれども、わたしにとって、これはわたしとイライザの物語だ。
ステルス型に改良された二機のタンデムローター式大型輸送用ヘリコプターは、それぞれ深い闇夜にまるで溶け込みつつ、巡航速度時速二四〇キロの速さで飛んでいく。
ヘリの一機に乗り込んでいた、体の線が浮き出たスマートスキン姿の少女。彼女は自身が着用する強化外骨格の装備を念入りに確認している。
今宵口ずさんでいるのは、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』だ。
「よりにもよって、今回もあいつと一緒かよ」
ミシェルが毒づく。
「でも、彼女のお陰でミッションは成功した。だから、いいじゃない。腕利きの助っ人なんだから」
「確かに、ファントムペイン・ワンのいう通りですね……おっと、今は“キラークイーン”でしたっけ」
わたしは“女王蜂”対峙と人型“虫”の退治で名を上げていた。無論、それはイライザのおかげだけれども。
「いいや、ファントムペイン・ワンで構わないわよ。ふたつ名なんて、わたしには似合わないから」
<降下一八〇秒前だ。当リモにご搭乗されている全ての淑女の皆さんは高飛び込みに備えてくれ>
機上輸送管理担当が言う。
すると、イライザがわたしのもとへとやって来て、ほんわりとする笑みを浮かべながら呟く。
「それじゃあ、また戦場でね」
わたしも固い表情を弛緩させて、イライザに向き直ると、明瞭な口調で言った。
「ええ、戦場で」