キラークイーン
わたしはイライザのミニガンや重機関銃などを強化外骨格に装着する。重量過多になってしまったが、構うもんか。
ついにミニガンまでも撃ち尽くしたミシェルは、それを投棄して身軽になると大鉈で“女王蜂”に襲い掛かる。しかし、“女王蜂”も負けてはいない。
発達した顎で大鉈を受け止めると、左右に振ってミシェルを投げ飛ばそうとする。
無防備の腹を、シアンとソフィアが擲弾発射器や対戦車兵器で攻撃する。固い外殻は確実に割れている。紫色の体液すら漏らしている。なのに、それでも“女王蜂”は止まる気配はない。凄まじい生命力に、わたしは感心すらしていた。
<あいつ、全然止まりませんね>
<どうしよう、こっちの攻撃、全然通らないよ>
シアンとソフィアが遮蔽物となるスタジアムの構造体の陰に隠れる。
<だが、大鉈を食い破る威力はない。こいつには絶対、弱点があるはずだ>
ミシェルが宙を舞い、スタジアムの屋根へと降り立つ。そのまま身を隠す。
「未だ撃っていない場所は?」
<命中弾ってことなら、頭部と背中だな>
「二カ所だけか。助かるね」
スタジアムの出入り口からユニットBの面々が駆け出してくる。卵と幼虫の駆除のために最深部に突入していたユニットBの連中だ。
すると、地面が盛り上がり、それから火の柱が上がる。
<“巣”の破壊は完了しました、ファントムペイン・ワン>
「了解。ユニットBはそのままユニットCのいる地点まで後退。そろそろ祭りは終わりだ」
<そちらの援護は?>
「構わない」
わたしは推進器を吹かすと、そのまま宙を舞う。
直線的な動きは控えて、“女王蜂”のもとへと飛ぶ。相手もこちらの意図に気付いたようで、高度を上げてくる。わたしは重機関銃の引き金を引いた。
すぐに火線が、火を噴いたようになる。まずは牽制射撃だ。“女王蜂”はフルオート射撃をものともせず、火線をまたいでくる。命知らずな相手だ。羽にも穴が開いているにも関わらず、そのスピードは衰えを知らない。
弾丸を撃ち尽くした重機関銃を捨てる。このまま持っていたところで、死重になるのがオチだ。後生大事に取っておく必要はない。
どちらが先に高度を取るかの競争となる。
と、そのとき、スタジアムの頭上の屋根に取りついていたミシェルがきっかり二秒後に爆発するようあらかじめタイミングを計っていた破片手榴弾を降らせてくる。硬質鉄線が爆轟と衝撃波とともに“女王蜂”の背中をずたずたに引き裂く。
「……弱点は、背中じゃないッ!?」
わたしは平然と飛ぶ“女王蜂”を見た。
「やはり頭部か」
わたしは屋根に取りつくと、ミニガンを構える。頭上を取ろうとしている“女王蜂”と目が合う一瞬が、攻撃のチャンスだ。わたしは推進器を吹かせて、屋根の上を全速力で走破する。
コンバットグラスが相手の予想位置を教えてくれる。だから、わたしは躊躇うことなく両腕を掲げることができた。
両腕のミニガンが火を噴く。生身の人間が被弾すれば痛みを感じる前に死んでいるという意味で“無痛砲”とも呼ばれる。
はたして“女王蜂”は痛みを感じないのだろうか。
火線が“女王蜂”の頭に突き刺さる。“女王蜂”が初めて悲鳴を上げる。顎をガチガチ鳴らして、こちらを威嚇している。
ミニガンが連続発射で、銃身が赤く熱せられている。それでも銃撃を止めない。そう、こいつが死ぬまでは――。
はたして、“女王蜂”は羽音を轟かせながら、突進してくる。凄まじい自重だ。ただの体当たりでも、こちらはタダでは済まされない。ミニガンの残弾がごっそりと削られていく。持ちこたえられるか。
無理だ。
咄嗟に判断し、炸裂ボルトを起爆させる。残弾がちょうどゼロになる。撃ち尽くしたミニガンを捨てて、かわりに腰にマウントしていた大鉈を構えた。
そして、突っ込んでくる“女王蜂”の、ミニガンの弾痕で醜く歪んだこめかみに大鉈を振り下ろした。
ガキンと、手応えがあった。“女王蜂”の口から体液が迸る。
こうして、“女王蜂”は息絶えた。