大丈夫、問題ない
「ユニットCとユニットDの二人一組はここに残って退路を確保しつつ、遭遇時には後方支援にあたって」
<了解しました、ファントムペイン・ワン>
ユニットAとユニットB、それにイライザの九人が先へ急ぐ。廃墟となったかつての街を強化外骨格が群れをなして行く。
<熱源反応ではこの辺りのはずなんですが……>シアンが首を傾げる。
開けた場所だ。かつてスタジアムだった場所。芝はすでに枯れ、土が剥き出しになっている。観客席だった場所に椅子がなく、空虚な空間が目立つ。まるで虫食いだ。
こんな場所が世界のいたるところで見受けられる。
<おかしい。何もないのにこの熱量……>
<異常よ。警戒して>
すると、地面から巨大な腕がはえてきて、ユニットBの隊員のひとりを宙へ軽々と投げ飛ばす。
<“女王蜂”のお出ましだ>
<アカネ、こっちからも!>
イライザが警告を発する。
地面から現れたのは“女王蜂”だけではなかった。
全長二メートル、人型の“虫”だ。
強固な外殻に覆われた刺々しいフォルム、切れ長の複眼。筋肉質な体つきに、高周波ブレードのような長くて鋭い“針”を手にしている。
「なんなんだよ、こいつはッ!」
わたしはミニガンを掃射する。
はたして、人型“虫”は素早い動きで銃弾と銃弾の間を駆け抜けていく。
まるで戦場に吹く一陣の風だ。
<そいつはわたしに任せて>
イライザが言うが早いか、軽機関銃で相手を弾幕で包み込む。
しかし、人型“虫”は巨大な針で銃弾を綺麗に切り払っていく。
反則だ。あんな動きをする“虫”なんて見たことがない。わたしは思わず歯噛みをする。
<集中しろ、ファントムペイン・ワン。“女王蜂”さえ倒せば、それで作戦目標は達成されるんだろ!>
皆がミニガンや重機関銃で“女王蜂”を撃つ。
しかし、なかなか動きを止めない。銃弾を撃ち尽くして、ミニガンや重機関銃を捨てている兵もいる。
擲弾が生み出す凶悪な破片群で羽がボロボロになろうとも、それでも“女王蜂”は平然と空を舞い、針でユニットBの兵を相手に執拗に攻撃を加えていた。擲弾発射器を壊された兵が乱暴に鉄屑同然になったそれを投げ捨てている。
「ユニットB、“女王蜂”が出てきた穴に侵入して、“巣”の爆破処理に入れ。そいつはこちらが引き受ける」
<正気ですか!?>
「ええ」
<……任せましたよ、ファントムペイン・ワン>
ユニットBの四人は観念して、次から次へと“女王蜂”が出てきた穴のなかへ突入していく。
「幼虫や卵の駆除はユニットBに任せて、わたしたちはキラークイーンと行こうじゃないか」
<薄々感じてはいましたが、やっぱり……>シアンの顔が強張る。
<……貧乏くじだよねえ>ソフィアが嘆く。
<こうなったら仕方ねえ、やるぞ>
ミシェルが軽機関銃を捨てる。かわりにミニガンを構えた。
「イライザ、そっちは大丈夫?」
歌っていた。
イライザは強敵を相手に、高らかに歌い上げていた。
『マイ・フェア・レディ』を。相手に聞かせてやるように。
<アカネ、わたしのミニガンと重機関銃、使っていいよ>
一瞬だけ間合いを取って、近くに寄ってきたイライザはそういうとわたしにミニガンや重機関銃、擲弾発射器を押し付けてきた。
手には大鉈と高周波ブレードの二刀流だけだ。
「ねぇ、イライザ。大丈夫?」
<大丈夫、問題ない>
イライザはにこりと微笑む。