なんだか退屈ね
三つのユニット、ひとつの二人一組、プラスイライザの一五人は、警戒しながら敵の“巣”のなかを慎重に、だけれども確実に進んでいく。
他のユニットが粘着テープ型爆弾や炸裂ジェルを“巣”の構造体に貼ったり吹きつけたりしながらの行軍となる。
<……なんだか、退屈ね>
イライザは無邪気な子どものようなことを言う。
「縁起でもないこと言わないで。退屈で全然構わないじゃないの」
わたしは釘を差す。すると、シアンが苦笑しながら言ってきた。
<大丈夫ですよ。これから先には無数の“虫達”たちがたくさんいますから>
<そっか。ならよかった>
<何がいいんだよ、何が>ミシェルが突っ込みを入れるのを忘れない。
「ここから先は閉所での戦いになる。みんな、気をつけて」
<了解です、ファントムペイン・ワン>
シアンとソフィアが壁にテープ型混合爆薬を貼りつけていく。
戦術リンクから信管を作動させると、“虫達”が掘削して作った壁がきれいに切り取られていく。ミシェルが怒鳴り声を上げながら、壁を蹴り倒して内部に突入する。
内部にいたのは、全長二メートルを超えるアリ型“虫達”の群れだ。
恐ろしく発達した下顎が脅威となる。ミシェルは重機関銃を掃射して、蠢く黒い塊たちを制するも、多勢に無勢でじりじりと後退を余儀なくされる。
「退くな。前へ進んで」
<……そりゃ難題だッ!!>
他の壁から別のユニットが突入して、ミニガンや重機関銃を放つ。確かに、敵は面白いように撃ち倒されていく。
だが、肝心の数が減らない。奥から次から次へと沸いて出てくる。これではキリがない。
<擲弾で穴を塞ぎますか?>
「そうしたいのはやまやまだけれども、そうすると壁に穴を開けたときに厄介なことになる」
そのとき、奥からカブトムシ型“虫”が姿を現す。
生きている仲間ごと蹴散らしながら、ユニットCの面々へ向けて突進していく。ユニットCの四名の隊員たちがミニガンや重機関銃で必死に応戦する。
「ユニットC、全速後退」
<了解です、ファントムペイン・ワン>
ユニットCの隊員たちが散開する。
わたしは戦術リンクを呼び出して状況を確認する。強化外骨格や兵装に多少の損傷を受けているだけで、致命傷を負った隊員はいない。不幸中の幸い、といったところだ。わたしは少しだけ安堵した。
<あの“虫”をどうにかせにゃ>
<じゃあ、わたしに任せて!>
イライザはわたしの許可をもらうよりも前に、携帯式対戦車無反動砲をぶっ放す。
凄まじい後方噴射だ。光と粉塵で視界が奪われるのを、コンバットグラスが防ぐ。
しかし、それでカブトムシ型“虫”の動きが鈍る。
成型炸薬を二段構えにしたタンデム弾頭を、イライザは撃つ。
装甲戦車のようなカブトムシ型“虫”の動きが一瞬だけ止まった。
その間に接敵したイライザは今し方外殻を砕いた箇所に、大鉈を振り下ろす。
その切っ先が脆弱な内部を食い破り、紫色の体液がどっと傷口から噴出する。
そのまま動かなくなったカブトムシ型“虫”の上で、イライザが両手を振って歓喜の声を上げた。