表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

復讐という名の毒

 666タワーの麓の草原には、原色の、テントが建設されている。

「キングサーカス」。空中ブランコ、象使い、二台のバイクが球体の中を走るパフォーマンス、ホワイトタイガーの火の輪くぐり、道化師の玉乗り………スラムの子供達は、三年に一回のイベントを心待ちにしていた。中でも最大のイベントは、人口彗星ショー。テントの天井が開き、スタジアム席から見る彗星は格別。子供だけでなく、男女の客も多くやってくる。最高の席で無くても、たとえ柱の裏のような席でも、会場にいるだけで幸福な気持ちになれる、サーカス。

      *      *      *      *

 ありさはサーカスのチケットを手に、本堂こずえが住む、長屋の引き戸を開けた。


「ねえ、気晴らしにサーカス行こうよ。社長から貰ったんだ」


 そこには、薄暗い部屋で寝転がる、こずえの姿と、貧相な身なりの男が一人。部屋は甘い匂いが満ちている。ありさは子供………エデンの姿を無言で探した。泣きも喚きもしない代わりに、息もしていない子供は、一歳にもならない前に、静かに死んでいた。ありさは、震える己の体を抱きしめ、言った。


「こずえ、エデンが死んでる」


 こずえは、痩せた顔をありさに向け言った。


「糺の恋人って、すごく奇麗な男の子なんだってさ………ジャックっていう………ねえ。あんたの言う”スラムのキリスト”って、うちらと同じじゃん。はは………ははh………」


 こずえは、ばたんとひっくり返って動かない。部屋には男の大きないびきが、耳障りに響く。

      *      *     *      *

 ありさは、エデンの亡骸を川に流した。メンソールの煙草の煙を思いっきり肺に入れ、息を吐き出したら涙と泣き声が出た。自分のお腹の子も昔、冬の川で「流した」っけ。

 ありさの心は冷えていた。ジャック。近頃あの子は、スラムに来ない。それに、噂が本当で、こずえの言う事が本当なら。なぜ、母子を助けなかったのか。デーモン一族の、ジャックが。いや、糺本人が。

少しの金でいいから………赤ん坊と、こずえがしばらく働かなくても生きられるくらいの………なぜ、放っておいたの? あんた達なら、簡単じゃないか。ジャック! ちきしょうめ!


 ありさは、その日仲間の女たちに「相談」を持ちかけた。


「ジャックを見つけて。あいつが………赤ん坊を………エデンを殺したんだ」

      *      *      *      *

 噂というものは、川に流された毒のように広がる。それも、「最悪」なストーリーほど。スラムの住人たちは、飢えていた。文字通り。あらゆるものを分け合い暮らす、ファミリー。誰かに何かあったと聞けば、深く考えもしないで「動く」連中も多い。ありさは、効果的に「毒」を流した。復讐心と無知が、彼女の心を汚した。誰よりも優しい、女の心を。

 そこに折り悪く加藤 糺が、二か月ぶりに帰宅した。サーカスの要員じみた怪人姿で現れた糺を見た群衆の一人が、糺に向かって石を投げた。糺が手にしていた、白い封筒が血に染まった。石が右手の甲を傷つけたから。封筒が一人の少年に奪われた。中身を取り出し、札束を確認するや大騒ぎする人々。


「お前! 嫁と子供を放って、伊達男気どりか! 今頃のこのこ現れやがって!」

「エデンは死んだ! おめえらが乳繰り合ってる間にな!」

「ジャックを連れてこい、可愛がってやる」


 糺は、付き合いの薄かった「ご近所さん」の、様々な色の頭を見渡した。

 こいつらは、俺に何をしてくれた? ただ、バカにしただけじゃないか………そう思ったら、人々はただの煩い蠅のように、糺には思えた。気が付いたら、大人も子供も見境なく張り倒して歩き、呆気に取られる人々を無視してその場を立ち去っていた。

      *      *      *      *

 ジャックに、外には出ないように伝えなければ。そう思いながら焦る糺の背後を、ピッタリついて行く影。

      *      *      *      *

 ジャックは草原の、サーカスのテントを一望できる地点に「ロケット」を置いた。

母の肖像………に見せかけた、自分の写真入りのペンダント。


「母の形見なんだ………か。バレたら許してくれるかな、糺は。僕は父に似ているんだから」


 ジャックは、偽の「アレ」を置き、タワーに戻ろうとして、何者かにかどわかされた。糺が再びジャックに相まみえるのは、全てが終った後の事だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ