生田緑地徘徊
面白く書いたつもりですが、終始つまらないかもしれません。
けど後半の方がマシだと思うので、どうか最後まで耐えていただけたらと思います。
勉強によるストレスに耐えかねて生田緑地に行った話。
というわけで、やってきた。生田緑地。私は入り口に立っている。
天気は曇り、霧が出始めている。
目の前には木々がうっそうと茂る斜面が広がっており、左右、見渡す限り、延々と続いている。
なんだろう
私の脳を内側から強烈に圧迫するストレス、勉強によって敷き詰められた情報の有害ガスは、この森の深淵さを前にして、落ち着きを取り戻している気がする。
今、目の前に二つの階段が設けられていて、左右別れている。
「では、左。。。」
と無意識に体が動いた。
が、踏みとどまる。
「おっとアブナイ。人間の性の思うつぼじゃないか。」
人間は左に曲がる修正がある。
陸上競技、野球、それらで左周りなのはそれに由来するし、警察が犯人を追うときもこの法則を利用するらしい。
ひねくれ者の私である。警察に追われているわけではないのだが、左に行きかけた足をわざわざ変えた。
そうして右の階段を、何かに勝利した気分で得意気に上がっていく。
緑が水を受けた、湿り気のいい臭いが私を迎える。
入山30秒にして、来てよかったと確信する。
絶えず脳を圧迫していた、勉強によって押し込まれた有毒ガスが「スピ――」と抜けていく気がする。
「嗚呼、嗚呼、嗚呼」と、脳の快楽におぼれる。
「この気持ちをメモに、、」
不細工な笑みを浮かべ、スマホへのメモを開始する。
「絶え間なく気持ちが沸いてくる。解放されている。許されている、勉強という情報の押し込みからの解放を。
この気持ちがこのまま霧と同化して山と一体になれるんじゃないか、そうか俺は山になれる、どんどん高ぶっていく!!!」
刹那、ひらり一閃。なにかが私の腕元に着陸した。
いつも通りだ。私がうまくいくはずない。
残念、蚊君のお出迎えである。
「ウェアア、ウェアア。」
発狂したい気分を、爆破寸前、ギリギリ一杯抑え込んだ。
私が世界一、嫌う生物。。
いや、嫌うなんて生半可な言葉で表現してはいけない。
やつがいてはいけない、なにがなんでも。
仮にヤツを見つけてしまったら、、
「私の血液が奪われているかもしれない」
「デング熱の病原菌が今、今まさに、次から次へと流し込まれているかもしれない」
「いや、マラリア? エボラ出血熱?」
「エボラっておい、それじゃあ俺は血反吐を吐きながら隔離施設で実験モルモットじゃないか」
と狼狽する運命が待ち受けている。
私の平手でもって、奴を卍姿のシカバネに昇華させるまで、
私を取り巻く時間、空間はすなわち、
阿鼻地獄と化すのだ。
圧倒的な殺戮。これをもって返り討ちにし、末代まで後悔させる。
二度と私に近寄らせない。
それが私のモットーであり、これ以外の対策を講じることは全くもって愚考。
論外である。
「この憩いの森と私の対話の邪魔をさせるものか!
一刻も早く、今度は、、お前を阿鼻地獄に導いてやる。俺が死神だ!!」
と脳内の細胞たち、いわば脳議会の議員達が皆、声を張り上げる。
脳平民もやはり乗り気。
不気味な濃い赤色で「蚊、万死に値する」と太く書かれたポスターを高々と掲げ、
デモ行進に勤しんでいる。
脳全体、一致団結し、この蚊を葬り去る死神として一心の集中を見せる。
先ほど腕に着陸した蚊は、今、足元をゆっくりと飛行し、着陸ポイントをうかがっている。
やつが油断を見せたとき、
つまり着陸後、例の栄養補給を開始したタイミング。
その時こそ、私に与えられる襲撃チャンスである。
「ねーらーい、さーだーめーて。。。」
興奮で手が震える。
外せば、恐怖の阿鼻地獄は続く。
私の森憩い計画はさっそく暗礁に乗り上げることになる。
卍へと導けば私は山と対話。勉強によって脳内に埋め込まれた呪いの鎖から解放される。
イチかバチかの大勝負だ。
奴が、静止した。
「今だ!!!」
目をかっぴらいた、
「死ねえええええ」
足元への気合いの一撃が爆音を響かせ、森中へこだまする。
音速の一太刀。
逃れたはずはない。この一太刀が幾人もの蚊を屍へと昇華させてきた。
つまり、私の安息が約束されたも同然ということ。
「フッフッフッ」と収まらない興奮をもってゆっくりと手を開けてみた。
ひりひりと赤く照っている手にはなにも残っていなかった。
絶句。
硬直、すなわち、理解ができない。
否、本能が理解を拒んでいる。
口が開いている。
いや、開いたまま固まっていたらしい。
情けなく半開きになった口元になにやら植物の種子、綿みたいなものが飛来、
侵入し、舌の水分を奪った。
「苦い!」
やっと我に返る。
私はおおいに狼狽しました。
冷静に分析。
信じがたいが、ヤツはまだ生きている。
私の美肌をほふり、そうして生き血を窃盗する算段を巡らせ、未だ私の周囲をさまよっているに違いないのだ。
事態は段々と森林浴どころではなくなってきた。
すねのあたりをぶらつくヤツの姿が視界に入る。
「キえええええ、もう一丁!」と鉄槌を打ち込む。
しかし、
まるで捕まらない。
どうやら、都会育ちの軟弱ものとは、次元が違うらしい。
ここは百戦錬磨の兵士たちの狩り場であった。
動きが、まるで違う。
「このありさまもメモせねば」
しかし
戸惑いが、
「エボラ、エボラ・・」
と呟いてくる。
必死に黙殺して文字を打つ。
しかし変換が違う。
焦る。
エボラの合唱がここぞとばかりに高ぶってくる。
カタカタを指が震える。
唇がワナワナと落ち着かない。
あせあせたらたらで文字を打つ。
(そういえば、蚊にとって汗とは
つまり、私の居場所を教えてくれる、「灯台」のような役割をするらしい)
(今、体全体から噴出しているこの脂汗は、それはそれは、立派な灯台になっているんじゃないでしょうか・・・)
(私の汗はヤツを呼び、ヤツが増えたら私は狼狽し、狼狽したら汗が増えて、汗が増えたら…)
開いた口がふさがらない。
紋々とヤツへの恐怖が募ってくる。
これが野生。都会育ちのおぼっちゃまとは、まぎれもない、
この私だったのだ。
いよいよ懸念は極地に達した。
「よし、わかった、私の血液はくれてやる。エボラ熱上等」
と空虚に向けて情けない宣言をする。
正直、蚊に殺られた時のための保険みたいなものだ。
だからもちろん、嘘。
あげたくないから、休憩用ベンチの回りをしきりに歩き回る。ときおり首筋に威嚇の手回しをする。
メモを終えて・・・
一人で自然を楽しむのを大いに好む。しかし残念、今日は土日である。
覚悟はしていたが
「チッ」やはり、人に出くわした。
心で舌打ちを打ちつつ、観察を試みると、どうやらスマホで写真撮影をしている。
この手の輩はたいてい撮るのに満足している、
そうして闇雲にスマホの要領を圧迫しているだけの人間だと断案を下す。
しかし、こいつ、何より気がかりなのは、半袖半ズボンであること。
ここはそんな武装で入るところじゃないだろう。
無論、私は長袖長ズボンのフル装備だ。
この万全の重装備ですら、先ほどのような手痛い洗礼を受ける。
この馬鹿、献血気分で来ていやがるのか、
完全に野生をなめていやがる。
いや、それともエボラ熱体験でもしに来ているのか。
いずれにしても正常じゃないことは確かだ。
「ドラえもん」にでてきた、(看護師に合うために裸でうろつく変人)をまるで体現したような、
そんな男なのでした。
小さな展望台についた。
木々の狭間から町並みを眺められる。
一興。
このまま景色を楽しむ予定を組んだ。
組んだが、先程から巨大な蜂らしき飛行物体がこの辺を徘徊しており、全く楽しむ余裕がない。
神は、やはり私には上手くいってほしくないらしい。
しかし、悔しい。
「ただではすまさん、見てろよ神め。絶対気分よくなってやる。」
そういうわけで、脂汗びっしょりの、断固たる鑑賞会を敢行した。
するとこれを待っていたと言わんばかり、
四方八方からご馳走目掛けて飛来してくるのがお馴染み、
蚊君である。
もう、お手上げでだ。
この山の戦略は私を不幸にするため、実に良く練られている。
さながら天下の秀吉さまと言ったところか。
足軽の私は結局、蚊のバイキングに協力したにすぎなかった。
ふと、足元をみてゾッとした。
とてつもなく巨大な蚊が腹をパンパンに膨らませて私のすねにしがみついている。
「こ、これはでかすぎるだろう。」
誇張抜き、親指の幅分の大きさである。
ぶち殺すのも躊躇われる大きさだ。なんたって気持ち悪い。
が、本日の私はいくぶん殺気だっている。
「積年の恨み、、お前が全て背負え!!!!
死ねええええええ」
思い切りひっぱたいてやったが、成る程、ここまで成長するのには然るべき理由がある。
彼はいわば、エースパイロットという部類にぞくするらしい。
私のすねには一滴の血すら残らず、
ただ、迫力の一撃による余韻が波打っている。
またしても上手い具合にやられた。
もう、この展望台にいる理由はない。
歩みを進めよう。