表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三話 一期一会とはいうものの

お待たせしました。m(__)m

  アリニト歴七年 三月 十五日



 ここ数日、結婚式が続いている。災害がおこると、どういうわけか結婚式が増える。偶然なのか。必然なのか。こちらはそのおかげで、仕事にありつけている。


 今日の仕事は小宴会である。魔力乗り物バスンを借り切ってやってきた団体様が、お風呂でくつろぎ宴会で騒いでそのままお布団でぐっすりパターンだ。

 小さな会社の慰労会などが多い。そして、ちょっと年配社員が多い。若い社員と違って、あちこち見て回るより、一か所でゆっくりしたいのかもしれない。

 今回の小宴会は、会社ではなくまるで同窓会のような雰囲気だった。同じ自治会の団体なのかもしれない。


 元気の良いお年を召したご婦人が、音楽発生機器カラオクンで歌ったり踊ったり、盛り上げていた。その旦那様は少しお身体が不自由なのだろう。ご婦人がかいがいしくお世話していた。こういう場合のご接待はひかえめにする。

 運が悪いというか、今日の担当者は、末端仲居のオズと、三十歳を公言しているカナさん。オズより先輩仲居だが、カナ姉さんと呼ばれるのを拒絶している。

 カナさん。絶対に誰にも「姉さん」と呼ばせない。

 三十歳。デリケートなお年頃。

 女性だって、行く道・来た道。皆、わかっていらっしゃる。カナさんだけは「姉さん」呼びは無しで通っている。


 話はそれるが、かつて三十五歳で仲居の道に入った子がいた。(オズより、かなり年上だがそこは『子』呼ばわりであっているのだ) その時に指導をした大先輩お姉さんが、ずばりとその子に、


「結婚する気はないの?」


と、聞いた。その子は


「すごくしたかったけど、もう諦めて一生働ける場所を探して来たの」


と、とても正直に答えた。

 大先輩お姉さんは、二・三日のうちに簡易お見合いを設定し、結果ふたりはうまくいって、勤めた一か月後には結婚退職。はやい。最短記録だ。


 カナさん。その時には面白いくらい動揺していた。しかし、結婚の話をもちかけると「まだ、早い」と逃げるのだ。確かに若い。仲居さんの中では、だけれども。


 でまあ、話は脱線しまくっているが、元に戻す。

 こういう、若干ご年配方の飲んで騒ぐ宴会には、年配のお姉さん方が向いている。歌って踊って、お口もお上手だし、盛り上げ上手だ。その点、若手はなかなかだ。若いというだけで喜ばれるが、それ以上がない。

 今回は陽気でご接待上手な年配のご婦人に救われたかたちだ。


 宴会もおひらきという時間になって、お客様たちは宴会場からお部屋へ移動し始めた。来るときにはご婦人がご主人を支える形で連れてきていたが、帰る時にはご主人の足腰が思うように立たず、支えきれなかった。残念なことに車いすはない。

 カナさん、台車を押してきて、綺麗に拭き上げ座布団を乗せて、ご主人をその上に座らせた。おかみに知られたら怒られるかもしれないが、どうしてもお客様の役に立ちたかったのだ。カナさんが台車を押し、両脇からご婦人とオズで軽く支える形で、無事に部屋まで到着した。


 ご婦人はとても喜んでくれた。


「あなたたちは、姿かたちも綺麗だけれど、心も綺麗だわねぇ」


 カナさんは感激して涙ぐんでいた。



  アリニト歴七年 三月 三十一日



「オズちゃんオズちゃんオズちゃん」


 朝、出勤するなりカナさんに呼び止められた。朝は忙しいのになんなのだ。


「十日くらい前、一緒に小宴会を受け持ったでしょう? あの時のお客様が亡くなったの!」

「え」


 何を言っているのだろう。一瞬、全く意味がわからなかった。


 よく聞くと、あの時のご婦人からお礼状が届いたらしい。


 ご主人は病気でもう後がないことが分かっていた。友達が多い夫婦は知り合いを集め、明るく楽しくお別れ会を催した。

 お礼状には、お陰様でよい思い出になったこと。主人にはいい冥途の土産になっただろうことを書かれていた。


 カナさんはボロボロ泣いた。オズもつられて泣いた。


 フロント受付のお姉さんに、お客さんが待っているから早く行きなさい! と叱られてどうにか動いた。まぶたが腫れているのを濃い目の化粧でごまかして、働いた。


 一期一会いちごいちえという言葉もあるが、いいお客さんにはまた来てほしい。


 またもや話がそれるが、これはもう仕様だと思ってあきらめてほしい。

 天涯孤独な年配仲居ヒサ姉さんがいる。

 毎年、リピーターでヒサ姉さんを指名してくる家族連れのお客様がいる。

 ヒサ姉さんは彼らが来るのを楽しみにしていて、その日は支配人に、給料は安くてかまわん! と豪語し、仕事の量を減らしてもらって、その家族にほぼつきっきりになる。帰る時には自腹でお土産を買って持たせる。他の仲居には「媚を売りすぎだ」などと悪くいう者もいるが、お客さんが帰った後しょんぼりとしているヒサ姉さんを見ると、家族のように思っているのだろうということがわかる。

 所詮は、仲居とお客様。ヒサ姉さんの言わば叶わぬ片思いのようなものだ。

 しかしなのだ。間にお金が挟まっていても、思いはあるのだ。あるのだ。


 一日、仕事を終えると夜十時は軽くこえている。従業員用出口から、静かに外に出る。

 暗い中、誰かに会う。


「おつかれさま」

「おつかれさまでした。あ、キヨくん」


 たまたま、付き合っている男と帰りが一緒になる。そして、帰る時間は皆似たり寄ったりなので、二人で帰るところを、けっこうな人に冷やかされる。


「おう、ヤリすぎて遅刻すんなよ!」

「しません。ヤルのは休みの日にします」

「お、おう」


 慣れっこなのだ。ド田舎。プライバシーなんてない。

 行く店は決まってくる。そして、必ず誰かに会う。

 都会に住んでいる人には想像しにくいだろう。パン屋といえばココ。買い物するならココ。喫茶店ならココ。居酒屋ならココ。田舎に選択肢はほとんどない。だから、何処へ行っても、誰かに会う仕様。仮に不倫なら、離婚は必至である。


「ちょっと、お参りして帰りたい気分なの。真っ暗で怖いから付き合ってもらっていい?」

「あー。まあ、通り道だからいいか」


 旅館から一番近いお社。とても、小さい。海に近い砂浜の、そこだけ地面を固めてお社が建っている。明かりなんかない。真っ暗。


「うおー。見えないねえ」

「年末にも来たな。ここ」


「年末年始はお参りする時間もないもんねー」

「近場で済ますのは、しょうがないよな」


「暗い中来るんだから、ご利益ほしいよねー」

「ご利益あったら、地震こなくねぇ?」


「一月だったねー。この間なのに、昔みたい」

「危ない、ゆっくり、ゆっくり」


 暗すぎてお互いの顔も見えない。

 波の音だけが、やたら大きく聞こえる。ざあああ。ざあああ。引いて返す。


 ポケットから小銭を出して賽銭箱に、かたんっ、と入れる。お金が木に当たる音が、いかにも誰もきていませんという印のようで、寂しい。

 パンパンと手を叩いて、お客様の冥福を祈る。

 隣で同じようにパンパンとキヨくんが手を叩いて祈っている。


「……」

「……」


「……毎年なら忙しさに追われて何も考えずに仕事ばかりだけど。地震のせいで暇が多くて、色々考える時間もあるのな」

「うん」


 キヨくんが手をのばして、オズの小さな体を抱きしめた。

 真っ暗。

 ざあああ、ざあああ。波の音だけ。そして、いつもより、早い、キヨくんの心臓のおと。


「俺たち結婚して、一緒に住もう」

「おー」


「どうよ?」

「そうだねー。結婚しようか」


 もう一度、ポケットから小銭を出して賽銭箱に、かたんっ、と入れる。


「結婚がうまくいきますように」

「ご利益ないと思うぞ」

「かもね」


 ざあああ、ざあああ。

 パンパン、手を叩いて。拝礼。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


ほずみままは、ファンタジーが好きです。

しかし、少々学習いたしました。

頭の中の映像を文章にするには、圧倒的に言葉の引き出しの数が足りていない! 長いあいだ、時給を稼ぐために働いていた人間に、何が書けるんだろう? 

考えた末に、こんなん出ましたけど、どうでしたか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ