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第二話 残念な仲居さんの残念な日常

お待たせしました。m(__)m

  アリニト歴七年 三月 一日



 お客様のご接待をするとき、仲居さんたちはキモノという民族衣装に着替えるわけだが、そのための個室が数か所用意されていたりする。同室の仲居さんたちは着替えを手伝ったり喋ったりそれなりに仲が良い。

 オズと同室の仲居さんに、レコ姉さんがいる。レコ姉さんは個性的すぎて、他のお姉さん方からは、敬遠されていることが多い。しぐさと話し方はお嬢様で、髪型はクレオパトラだ。しかし、声はカラスでお顔は残念だ。残念なお顔でも仲良くする分にはなんの問題もない。

 しかし、


「うっふっふ」


 と、意味ありげに笑いながらチラチラこちらを見て、薄暗い旅館の廊下をヒタヒタと去っていくのが、あまりにも何というか。そう、何というかなのだ。察してください。


 そのお姉さんがとうとう、他のお姉さんとトラブルを起こしてしまった。


 背が高く姿勢もよく、髪型もお顔も某劇団男優のような、アミ姉さんがいる。喋り方も、キビキビしていてカッコイイ。しかし、意外とこのお姉さん、夢見る乙女的な内面をお持ちだ。

 イケメンな金持ちに見初められて結婚退職とか出来ないかな~と、考えていたりする。


 ようやく一日の仕事が片付いた、もう日付が変わるなという時間。あたりには誰もおらず、後はキモノを脱いで寮に帰るだけ。

 そんなうす暗い部屋の中で、一人でいたアミ姉さんに、レコ姉さんは近づいて言った。


「抱いて」


 アミ姉さんは逃げ帰ったらしい。そりゃそうだ。

 次の日、おかみにアミ姉さんは泣きつき、レコ姉さんは実質クビになった。


 オズは同性同士のアレやコレやを否定しないし、話だけなら大好物だったりするが、リアルとなると、ううむ、となるのは現実を見たからかもしれない。


 アプローチは慎重にとは、相手が異性であっても一緒かもしれないが。


 話は変わる。


 唐突だが、今日はオズの彼氏であるキヨくんの誕生日である。プレゼントは買ってある。渡すのは仕事が終わってからだから、遅い時間になるがしょうがない。どうせゲエムをして起きているのは間違いないから大丈夫。夜中に彼氏のお部屋へ。


「もうすぐ日が変わるけど、誕生日のプレゼントだよー」


「え、うれしい。なに?」

「アイロンだよー」


「え」

「アイロンだよー」


「……」

「……」


「……」

「明日も早朝から仕事だから、またねー。おやすみー」


「……」

「ばいばーい」


 おそらくだが、大抵の人は自分自身の残念具合には気が付かないものなのだ。



  アリニト歴七年三月五日



 お客さんは少ない。今までだって満室になるのは夏祭りや年末年始くらいだが、それでも、半分うまるどころか、十部屋くらいのご使用。仲居さんの出勤は余裕の四人。

 少ないから、こちらもゆっくり対応できる。

 地震で困っているから来てやったんだぞと、はっきり言うお客様もいらしたが、こちらはお金になるならどうでもよいのである。いらっしゃいませ、なのである。

 新聞などで、被災地は困っているからできるだけ利用してあげましょうと、呼びかけてくれているらしい。ありがたいことである。


 たまに避難所から、たまには布団で寝たいとわざわざお金を出して泊まりに来てくれるお客様もいた。気の毒だから少しくらい割引してあげたらいいのにと、末端仲居のオズは思うのだが、カツカツ経営者のおかみは知らん顔だ。


 某劇団男優顔のアミ姉さんが、ようやく首がすわったくらいの赤ちゃんを抱いている。赤ちゃんは機嫌よく、アバアバ言っている。


「可愛いでしょう? 私の子よ」


 冗談なのは分かっている。お客さんの子だ。忙しかったらこんなことは出来ない。暇だからこそだ。お客さんは赤ちゃんを任せてのんびりできているのだろう。お客さんが満足ならばそれでよい。


「アミちゃん、子供ほしがってたものねぇ」


 仲居頭なかいがしらのトシ姉さんが、ヒソヒソと言う。

 仲居さんになる人は過去に色々とあった人も多い。


「アミ姉さん、離婚してますよね。お子さん、いないんですか」

「死産だったらしいわよ」


 同じ女性として本当にお気の毒としか言いようがない。そして、ド田舎のしかも閉鎖された女性ばかりの空間には、個人情報保護なんていう言葉はない。すべて、オープン。


「可愛いわぁ」


 アミ姉さんは幸せそうだ。


「次の子が出来なかったんですか」

「できても、駄目だったらしいわ。三人、駄目だったって」


「……」

「……」


 アミ姉さんの様子をこっそりうかがう。


「私の子よ。うふふ」


「アミちゃん。そろそろお子さんをお客さんに返しておいで」

「すいません、アミ姉さん。配膳が混んできましたので、そろそろ」


 ベテラン仲居頭のトシ姉さんと、末端仲居のオズの声がほぼ同時に出た。


 そして、存在感のない四人目の仲居、タラ姉さんは、忙しくなる寸前にしれっと戻って来ていた。


「ご挨拶。時間かかったね」


 トシ姉さんがチクリと嫌味を混ぜて言ったが、ピチピチ若いタラ姉さんは全く堪えていない。あははと笑って


「お客さんに、腰が痛いわぁって言ったら、揉んであげるって言うから。あはは」

「ええっー」


「揉んでもらってたら、怪しい雰囲気になってきたから、支配人に呼ばれてますって逃げてきちゃった。あはは」

「ええっー」


 まさに、ごうの者である。小心者のオズには真似できない。すげぇとは思う。でも、無理。


 いろいろな人がいる。同じ旅館で同じ仕事をしている。まさに、闇鍋やみなべ



  アリニト歴七年 三月 五日



 今日はマジに忙しかった。あの地震の後、これほど旅館が忙しかったのは初めてだったかもしれない。


 だから、少し書き方が雑になるかもしれない。雑でも残しておきたい出来事があった。


 あの有名な、ボードゲエム名人が来たのだ。旅館に。

 朝からみんな、ワクワク・ドキドキ。


 久々の全員出勤。ちょっとボロい旅館を立派に見せようと、みんなの心が一つになった一日だった。


 ボードゲエム名人・その対戦相手の挑戦者。新聞記者いっぱい。映像記者ちょっと。


 末端仲居の仕事は、新聞記者のお部屋もちだ。地味だが大事な仕事だ。


 お布団係の姉さんが泣きそうな顔をしてうろうろしていた。


「オズちゃん、どうしよう。押入れの中にシーツを放り込んでおかなければいけないのを、忘れていたの」

「堂々と入れば大丈夫」


 ドアを大きく開けて、怪しいことをしてませんよ、アピール。失礼します! シーツお持ちしました! と誰もいなくても要件を述べる。姉さんの見ている前で、入室。

 押入れを開けて、シーツを放り込んで素早く退出。


 の、はずが。


 押入れの中に誰かいた。

 誰かいた。


 頭の中がスーパー賢者のように働いた!

 女性だ。

 泥棒ではない。

 新聞記者が女を連れ込んだんだ。ただで泊めた。混乱にまぎれて。


「……押入れではなく。お部屋でお休みください」


 気が付かなかったふりをした。普通のお客さんの奇行として扱うことにした。その後、誰にも言わなかった。だから、ひょっとしたら、見つかってしまったからしょうがないと、お金を払いにいったかもしれないし、そうでないかもしれない。


 普通ならば、支配人や副支配人を呼んで、判断を仰ぐのが正しい対応なのだろう。しかし、これほど皆が楽しく仕事をしているのに水を差したくなかったし、このお祭り騒ぎに一役も二役もかっている記者の機嫌を損ねたくなかった。


 ただ、末端すぎる仲居さんにとってはちょっと重かったのである。

 もちろん、わざわざこの旅館に来てくれたボードゲエム名人には感謝、末永く感謝なのだ。


ジャンル、悩みました。ファンタジーというほど異世界じゃない。恋愛と言うほど恋愛していない。

もし、これじゃない? というのがあったら教えてください。


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