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友だちの話。

「聞いたよ。千佳を家に呼んだらしいね」


 講義中。そこそこ真面目に教授の話を聞いていると、隣に座っている彩希がこそっと話しかけてきた。


「おう。遊ぼうって言ってきたからな」


 別に隠すことでもないので正直に答える。というより、隠したところで彩希がこうして聞いてきたということは既に千佳が伝えているのだろう。ここで隠すと何かやましいことがありましたと言っているようなものである。ちなみに何一つやましいことはなかった。


 俺の返答に「ふーん」とペンで自分の頬をつつきながらどうでもよさそうに言って、ちら、と俺を見る。なぜ見られたかわからないので首を傾げてみるとすぐに目をそらされた。なんのこっちゃ。


「千佳いい子でしょ。大翔とも気が合いそうだし」


「そうだな。いいやつで面白いやつだった。ちゃんと友だち選んでるんだな」


「大翔こそ。四条くんいい人じゃん」


「だろ」


 ただ、彩希がヒロの名前を出した瞬間にその本人が振り向いてきたからそのあたりはマイナスだな。らしいと言えばらしいが……というか聞こえてるのか?三列ぐらい席離れてるんだぞ?


「んで、なんでまたそんなことを?」


 聞くと、彩希は髪をくるくると指で巻いたり毛先をいじったりしながら、「うー」と唸った。


 もしかして彩希の着替えをいじられたりしていないか気になっているのだろうか。俺の家には彩希の私物がそこそこあるし、変にいじられても嫌だろうからな。千佳はそこらへんの常識はあったみたいだから一切いじらなかったけど。


「や、何話したのかなー、とか」


 なぜ何を話したかが気になるのだろうか。彩希の個人情報が喋られていないかどうかの確認?確かに共通の話題として彩希の話があがることはあったが、言われた恥ずかしいような秘密を話した覚えはない。というか、そんな秘密すらないような気もするし。


「別に、特に気になるような話はしてないぞ?単純にお互いのこととかだな」


 趣味とか、休日の過ごし方とか。と続けると、彩希が「お見合いみたい」とボソッと呟く。


「いきなり家に招くお見合いってすげぇやる気だな」


「え、やったの?」


「やってねぇよ」


 喋っているのがバレるくらいに凄い勢いで体ごと俺を見た彩希にすぐ否定を返す。まぁ俺はヒロじゃないし、そんなに手が早いわけではない。もっと余裕を感じさせる態度を持っていた方がモテるのさ。多分。


「よかった。やってたら家に行きづらくなってたし」


「だろ。気にしない方が無理だもんな」


 へー、ここであの二人がやったのかー。と素のメンタルでいられるのであればそいつはものすごい異常者だ。誰だってそんなことを感じさせる空間にはいたくないだろう。おまけに彩希は女で俺は男で、更に居づらくなるに決まっている。


「それで、その」


 まだ聞きたいことがあるのか、彩希は気まずそうに目をあちこちに動かしながらもじもじする。俺講義中なのに彩希のこと見すぎじゃね?


「千佳と、どうするの?」


「ん?」


「だから、千佳と付き合うの?」


 付き合う。付き合う?


「それはお買い物とか遊びとかじゃなくて?」


「男と女の」


 左手の指でわっかをつくってそこに右手の指を出し入れしながら言う彩希をとりあえず軽く殴ってやめさせる。見た目はすごい女の子らしいのになぜそんな下品なことをするのか。こういうところが俺の好きなところだ。


 しかし、男と女の。確かに千佳は俺にアタックするとかなんとか言っていた。ただ、一日そこらで付き合うまで行くものなのか?大学生ってそういうもの?俺にはわからん。何せ自分、初めてなもので。


「わからん。まだそこまで仲良いわけじゃないしな」


「ふーん。仲良くなると付き合ったりしちゃうってこと?」


「んーどうだろうな」


「どうだろうって、自分のことじゃん」


 いや、まぁ自分のことなんだけども。まだめちゃくちゃ先のことかもすぐのことかわからない未来の話なんか想像がつくわけない。大学に入ってすぐ付き合いだしたやつらがいるが、俺はそいつの気が知れん。先が分からない相手に金を使うくらいなら、先がわかっている相手と遊ぶために金を使った方が有意義なのに。


 つまり、千佳はいいやつだがこの先ずっと一緒にいるかと言われればまだ首を傾げざるを得ない相手で、そんな千佳と比べると。


「?」


 俺の視線の先で首を傾げている彩希と遊ぶために金を使った方がよっぽど有意義。それもあって、あまり付き合うとかそういうのは想像できない。


「なに?」


「いやな。彩希と他のやつを天秤にかけて、彩希より重いやつを想像できなくてな」


「……ならいいや」


 満足そうに頷いて視線を前に戻す彩希を見て、ピンときた。


「もしかして遊ぶ時間減るかもって心配してたか?」


「ん。流石に気遣うし」


「気にすんなよ。今んとこはお前が一番だ」


「わかってる」


「わかってなかったろ」


 うっさい、と俺のノートにぐちゃぐちゃと乱雑に線を描き、むすっとして完全にこっちを向かなくなってしまった。どうやら、この講義中はもう話さないということらしい。


 暇になったのでスマホを見ると、メッセージの通知がきていた。開いてみると、千佳から。


『本当に付き合ってないの?』


「ねぇよ」


 思わず声に出すと、すぐさま『???』と送られてきた。そこまで不思議がることかね。


 教授にバレて課題を積まれても困るので、俺も講義に集中することにした。といってももうすぐ終わるのだが。うん、今日もあまり話をちゃんと聞けなかったから彩希に教えてもらうことにしよう。どうせ一緒にいる時間は山ほどあることだし。


 そんなことを考えているとやがて教授が講義終了を告げ、その瞬間に学生たちががちゃがちゃと無遠慮に音をたてながら筆記用具を直し始めた。このタイミングで筆記用具を直すやつは大抵話を聞いてなかったやつだと思う。俺とか。


 やかましい音を聞きつつあくびをしていると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、美人可愛い千佳。


「しゃべりすぎじゃない?」


「そんなことはないぞ。小声で話してたし」


「聞こうと思えば聞こえるぐらいには聞こえてた」


「教授の話を聞け」


 どうやら千佳も教授の話を聞かない種類の学生らしい。最後列の席から俺と千佳が座っている真ん中の方の席までに辿り着く時間が早すぎる。恐らく教授が講義終了と言う前に片づけていたに違いない。


 千佳は舌をぺろっと出して「ごめーん」と言うと、俺が座っている席の机に腰かけた。行儀悪いぞ。


「大翔が喋ってるとどうしても気になっちゃって。ね、彩希?」


「大体私が大翔と喋ってるから、その感覚はあんまりわかんないかな」


 確かに。俺が彩希以外と喋ってるときって大体彩希と一緒にいない時だし。俺が誰かと喋ってるときも彩希を見かけたら必ず呼ぶから、そういう感覚は理解できないだろう。


「うーん、付き合ってないんだろうけど、本当に付き合ってないのか気になる。もしかしてもう結婚してるから付き合ってないって言ってるだけ?」


「結婚してないし付き合ってもいない」


「親友だって。もう、何回も言ってるのに」


「何回も言わせないでよ」


 知らんがな。俺たちは普通にしてるだけで、周りが勝手に勘違いしてるだけだ。まぁ常日頃一緒にいるから、やらしいことのない夫婦みたいなもんではあるが。


「じゃじゃ、彩希。私が今目の前で大翔とべろちゅーしたらどう思う?」


「頭おかしいんじゃないかなって思う」


「間違えた。ごめん。違うの。ただ嫉妬するかどうか確かめたかっただけで、そりゃこんなとこでいきなりべろちゅーしたら頭おかしいって思うわよね」


「あまりべろちゅーべろちゅー言うな。ヒロが興奮したらどうすんだ」


「するよ!」


 遠くからヒロの声が聞こえた。するのかよ。


「何話してんのー?まぜてー!」


「よっ、星野」


 わちゃわちゃしていると、彩希が後ろから背の小さい愛らしい女の子に抱きつかれ、カッコよく手をあげて挨拶してくれるカッコいい美人さんがいた。確か、小さい子が東条千紗で美人さんが中川愛だったか。


「よう。中川、東条ちゃん」


「なんで私はちゃんづけ?」


「身長じゃない?あと胸」


「言ったな!?」


 何から何まで小さいとバカにされた東条ちゃんが中川に突進する。それを柔らかく受け止めて反転させ、後ろから抱くような形に持っていて東条ちゃんをなでなでしていた。鮮やかすぎる。


「や、悪い。嫌だったか?」


「別にやじゃないけど、年下扱いっぽくてやだ」


「嫌なんじゃねぇか」


 即座に突っ込むと楽し気にけらけら笑う。なるほど、千佳とはまた違うベクトルで明るい子だ。千佳が年相応に明るいなら、東条ちゃんは子どもっぽい明るさ。ヒロが好きそうな子だ。まぁヒロは可愛い子なら大体好きなんだけど。


「話もいいけど、ご飯食べようよ。今日車できてるから、星野も弁当じゃなかったら一緒にくる?」


「お、いいのか?」


「もちろん!あ、隣に座ろうねー」


 千佳のお誘いを受けて、ちらっと彩希を見る。


 物凄く寂しそうな目をしていたので、静かに首を横に振った。


「彩希が俺の隣がいいってよ」


「それ付き合ってんじゃん!付き合ってるなら言ってよ?スパッと諦めるから」


「付き合ってねぇって。なぁ?」


「なー?」


「いいから行くよバカップルとバカ」


「バカて!」


 呆れた様子の中川と、その後ろに引っ付く東条の後に三人でついていく。ただのバカ呼ばわりされた千佳は怒り心頭なようでずっとぷんぷんしているが、バカと言った中川はそれを完全に無視していた。かわいそう。


 それからすぐに怒りを鎮め、だらだらと喋りながら学内の駐車場に向かっていると、門に背中を預けてカッコつけている、見覚えのある男が待っていた。


「待ってたぜ、マイベストフレンド」


「ヒロって地味にキザなやつが似合うよな」


「似合うついでに、俺もついていっていいですかね?」


 こいつの地獄耳は俺たちが一緒に飯を食いに行くということまで拾っていたのか。俺は構わないが今は俺以外に四人女の子がいるため「いいか?」と振り向いて聞いてみる。


「五人乗りなんだけど」


 中川の言葉にヒロは「ふっ」とキザに笑うと、ポケットから何かを取り出して指に引っ掛けて回しだした。


 どうやら、車のキーらしい。


「どうだい?子猫ちゃんたち。俺と一緒にドライブってのは」


「じゃあ俺ヒロに乗せてもらうから、行先だけ決めとこう」


「えー。私もそっち乗っていい?」


「女の子はやめとけ。精液臭いのが移る」


「おい。せめて伏せて言え」


 ヒロの車に女の子は乗せられん。きっとその残り香でろくでもないことをする気だ。ボトルに詰めて売り出すとか、自分用に使うとか。それは友人としてなんとしても俺が阻止せねば。


 固い決意を胸に、俺はヒロの車に乗り込んだ。まだぶつくさ言っていたので一発軽く殴っておいた。

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