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バイト先の話。

 深夜のコンビニアルバイトは正直やることがない。ただぼーっとして時間が過ぎるのを待つだけでお金がもらえるといえば聞こえはいいが、実際何もしないとなると人間というのはそれをものすごく苦痛に感じるものである。


 大学に入ってからずっとここで深夜のアルバイトをしているが、そろそろ限界かもしれない。家からも近く通いやすいが、ここまで暇だと頭がおかしくなりそうだ。時々くる大学の友人らが唯一の暇つぶしだろうか。あまり店員と客がべらべら話すのもよくないが、どうせ誰もこないのだから構わないだろう。


 俺がいつものようにぼーっとしていると、自動ドアが開いて客がやってきた。夢の中にでてくるほど聞きなれた入店音が鳴り、その姿を確認する前に挨拶をする。


「いらしゃいまっせっせっせせせせっせっせせ」


「DJか」


 いや、私もDJよく知らないけど、と呟くその声は聞き覚えのある声で、よく見なくとも彩希だった。


「おぉ、彩希か」


「え、今の私と認識せずにやったの?」


 心底驚いたと言ったように目を見開く彩希に頷いておく。この時間にくる客は店員の態度なんて気にしていなかったりするのだ。たまにびっくりしてこちらを見る人がいるが、そういう人には笑顔で「どうかされましたか?」と聞くと大抵気のせいかと店内を回りだす。働いている身としてどうかとは思うが、口が勝手に動くのだ。許してほしい。


「それはそうと、こんな時間にどうした。夜更かしは乙女の敵だろう」


「んー、まぁ私顔はいいから」


「自分で『は』って言っちゃうあたりどうなんだそれ」


「大翔と友だち付き合いできてる時点で中身は諦めてる」


 それ失礼過ぎないか?俺の友だちはみんな頭がおかしいみたいな、そういうことを言っているのか。一理ある。


「何買いに来たんだ?もうすぐ置かれなくなるから今のうちにエロ本?」


「いや、この時間大翔がいるだろうなーって、暇つぶし」


 なるほど、それはありがたい。俺の暇つぶしにもなって一石二鳥だ。この状況に申し訳なさを一切感じないのはどういうことだろうか。こんな風に育てられた覚えはないというのに。


「実際ああいうのって読むの?」


「エロ本?」


 うーん、と頭を悩ませる。


 正直エロ本自体読んだことがないわけではないが、そこまで読まない。性欲に従ってする買い物は月初めにどばどば買うAVだけで、店頭に並ぶエロ本は買ったことがない。友人が持っているものを読む、といったことはしたことがあるが。


「あまり読まないなぁ」


「前家いったときもAVしか見つかんなかったしね。男の部屋からエロ本を見つけるのが夢だったのに」


「夢と語るにしては規模が小さすぎないか?」


 レジカウンターでぶーたれる彩希の額をピン、と弾く。男子大学生の一人暮らしハウスという聖域に足を踏み入れてAVを見つけたのにも関わらず文句を言うとはどういうことだ。まぁ探すまでもなく棚に飾っていたから不満なのかもしれないが。今度は気を遣ってベッドの下に入れておくとしよう。


「そういえばまた友だちにからかわれちゃってさ」


「あぁ、俺と彩希が付き合っているって話か。ちゃんと吊るしておいたか?」


「ちゃんとの意味がわからないけど、やってないよ」


 ふむ、確かに俺と彩希の仲を疑うという不愉快極まりない行為をしているとはいえ一応彩希の友だち。命まで奪うのはかわいそうか。だからこそ彩希もどうにか誤解を解こうとしているのだろう。


「男女間に友情は成立しないみたいなことをずっと言ってくんの。ほら、大翔って顔だけはいいし。他にいいところないのが欠点だけど」


「なるほどな。顔がいい男女が並んでいるとそうとしか見えないと。自分らがモテないからって僻んでんのか」


「そういうところ」


 どういうところだろうか。首を傾げているとため息を吐かれた。


「私としては本当に男女関係には見えないと思ってるんだけどね」


「本人からすればそうなんだろうが、実際に周りから言われてるからなぁ」


 女の子はこういう浮いた話が大好きなのだろうか。あるいはただ単に俺たちで遊んでいるだけで、特に深い理由はないのかもしれない。こちらとしてはいい迷惑である。そういう噂を気にして会わなくなるという繊細な心の持ち主だったらどうしてくれるつもりだったのだろうか。そんなことは一切ないのだが。


「で、考えたんだけど」


「おう、話してみろ」


 レジカウンターでぶーたれていた彩希は突然ふふんと胸を張り、得意気に語りだした。


「私たちが遊びに行ってる姿を見せればどうかと思ってね」


「ほう、遊びに」


 確かに男女特有のそれが表れやすいのは遊びにいった時かもしれない。その流れでふふふなホテルやどちらかの家などに行くという展開もあるかもしれないし、選択肢としては悪くないか。


「ただどうやって見せるんだ?見に来てよと言ってもそれは演技しますよと言っているのと同じことだろ」


「わざとらしく目の前で遊ぶ予定立てれば釣れるんじゃない?」


「彩希、友だちをバカにするのはよくないぞ」


 いくら俺たちの仲を疑うからといって、時間を潰してまで俺たちを追ってくるわけがない。


「もし追ってこなければどうするんだ」


「そのときは普通に遊ぶだけだし、問題なくない?」


 確かに。彩希は天才かもしれない。生きていくのには柔軟な思考が必要だというが、それを持っているのが彩希に違いない。ちなみに俺は確実に持っている。天才だし。


「それじゃあどこに行く?」


「んー、ボウリングとかどう?」


 なるほど、ボウリング。高校のときに何度か行ったことがあるし、普通に遊ぶ程度なら問題ないだろう。


「でもボウリングって安定した成績残せないんだよな」


「別に遊びに行くんだけなんだからよくない?」


「もしその日俺が調子悪くてめちゃくちゃな成績になったら、彩希の友だちに笑われるだろ?それはちょっとなぁ」


 彩希に笑われるのは気にしないが、彩希の友だちに笑われるのは少し。その友だちは俺に対する認識がボウリングが下手なやつになるし、そうなるのは困る。ものすごくダサい。


「うーん、ならゲームセンターとかは?UFOキャッチャーとかあるし、結構遊べると思うけど」


「UFOキャッチャーなんてもんやったらいざ取れなかったとき『あ、女の子の前でカッコつけて取ろうとしたのに失敗してる』って思われるかもしれん」


 彩希が頭を抱えた。


「私と二人のときはそんなこと気にしなくない?」


「まぁ見られてるってなると話は別だろ。俺は顔だけがいい男じゃなくて中身もいい男という噂を流してほしいんだ」


 彩希は腕を組んでうーん、と唸った。それによって形の変わる胸をぼーっと見ながら提案を待っていると、彩希がジトッとした目で俺を見ている。


「なんだ?」


「女として見てないくせにそういうのは見るんだなって」


 どうやら胸を見ていたことがばれていたらしい。しかしこれは男の性のようなものなので仕方がないことだと思う。動くものに反射的に目がいくように、男の目というのはそういう風にできているのだ。


「ま、勃起するわけではないがな」


「女の子の前で勃起とかいうな」


 今のは少々デリカシーに欠ける発言だったか。確かに女の子の前で勃起はない。「お」をつけると上品に聞こえてよかっただろうか。お勃起。あらいやですわ、と返してくれたかもしれない。


「行くならどういうところがいいの?」


 見られていたのを気にしたのか腕を組むのをやめて俺の頬をつつきながら言う彩希に、今度は俺が腕を組んでうーんと悩む。男女間の友情がアピールできてそれでいて俺のプラスな面が表に出るようなところ。


「普通にぶらぶら散歩して気になる店に入るとか」


「あー、それならほとんど何も気にしなくていいしね」


 無理やり金を使うような場所に行く必要はないし、二人とも好奇心が旺盛な方なので街をぶらぶらするのはまったく飽きない。基本的にはこうやって話しているのとほとんど変わらないし、まさに俺たち向けであると言える。


「よし、ならそういうことで。詳しい日にちとかは後でいいでしょ」


「ん?もう帰るのか」


「あんまり長く話しててもいいことないでしょ。一応カメラあるんだし」


 それもそうか、と納得して店を出ていく彩希に手を振った。


 別にいいが、あいつ何も買って行かなかったな。本当に暇つぶしに来たのか。

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