第八話 村での日常
久しぶりの投稿です。
シンside
「まだ、寝ているの? そろそろ、起きなさい。」
ユサユサ
肩を揺られ、起こされる。
「・・・おはよう。」
朝日が差し初め、夜の闇が薄らいで行く所だった。
窓の傍に、作業用のローブを着たリーナが窓を開け、少し困った表情で見ている。
「おはよう。さぁ、起きて。今日は、鍛錬を少し私が見て上げるから、早く起きて来なさい。」
そう言い残し、部屋を出て行く。
リーナに連れられ、この村に住み始めて凡そ3ヶ月が経過した。着いた翌日には、村の人々との挨拶を済ませすぐに、鍛錬が始まった。
たまに、リーナが練習相手をしてくれる日がある。今日は、組み手と投擲それに合わせた簡単な魔法だ。
リーナの教え方は結構なスパルタなのでかなりキツい。
着替え終えて、庭に向かうとリーナはいつもの作業用のローブから鎧姿に変え待ち構えていた。
「それじゃあ、初めるぞ。」
そう言われ、慌てて森の方へ走り出す。村を抜け、畑を抜け森を目指す。
(最初の頃より速くなったけど、・・・まだ遅い。)
何個か新しく習得いた魔法の内の『身体能力強化』で、さらに加速する。
必死に走り森入る。ここ最近の特訓で、嗅ぎ慣れてきた木々や土の香り、風に揺れる木の葉や地面を踏みしめる音が辺りを支配する。
初めは慣れない森の中で、枝に引っかかり、背の高い草に視界を遮られ方向を見失ったり、飛び出た根や石、地面の凹凸に足を取られて転び泥だらけなど、散々な目に合っ・・・
「!?」
ドン! ドドン!
咄嗟に回避すると、さっきまで居た場所を土の塊が通過して行った。土魔法の『ストーンバレット』だろう。
(直前まで気づけなかった!)
直前に魔力を感知して何とか間に合ったが。さらに、追撃の魔法が飛んで来るので、回避しつつ当たりそうなのは防御魔法『マジックシールド』で防ぐ。
(相変わらず、リーナの気配がまるで感じられない。)
攻撃が終わった様なので、警戒しながらも素早く足を進め目的地を目指す。
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漸く目的地の目の前まできた。そこは、丘の上で一番上に大きな木が1本あり、森は途中で途切れ開けており見晴らしが良くなっている。途中、まに襲撃に遭いながらも何とかここまで来れた。
俺は、森と草原の境目で姿勢を低くして辺りの様子を覗う。
(まあ。当然、気配が感じられ無いか。)
魔力を感知為れないために、随分前に強化魔法を切りここまで慎重にきた。
(上手く、魔力を操る事が出来れば。こんなに、しなくてもいいだけどな・・・。)
俺の腰位の高さの草原を、慎重に進んで行く。中程まで来た所で、側面からの攻撃に咄嗟に防御魔法を使う。
飛んで来るのは、3つの土の塊を見て慌てずに対処する。これぐらい、今の俺なら大した事はない。
(リーナは、何処に・・・!!)
アースバレットの3つ目が、当たると同時にシールドを消したが、そのすぐ後ろに小さな石が4個目として隠されてていた。
無意識に、バク転で回避する。
(魔法に気を取られた!)
(このために、わざと魔法の攻撃しかしなかったのか!)
つい、魔法以外の攻撃を考えなかった。体勢を立て直しながら周囲を警戒する。
目の端に動く存在に気づく。
(チィ! 早いし近い。)
リーナが、低い姿勢で滑る様に高速で接近するのに気付いた。
気付いた時には、かなり近くまで接近されていた。
(どうして、こんなに接近されるまで気が付けなかったんだ!)
考えるのをやめ。
「ストーンバレット!」
リーナ向けて足止めに放つが、足を止める事もなく。難なく躱され、慌ててさらに3連射する。その間、凡そ約5メートル。
それに対してリーナは、更に踏み込み腰を落とし1発目を、右手で側面に触れて左に受け流す。その勢いを利用して、踏み込んだ右足を軸に体を回転させ体勢を入れ替える事で、そのまま左寄りだった2発目を躱され。回転を利用した、回し蹴りで3発目を蹴り砕かれる。
(?! 嘘だろう?!)
そまま近接戦に持ち込まれ体術で戦う。
(『身体強化』!!)
体に力が漲り、急速に反応速度が上がる。それにより、周りの動きが緩やかになって行く。だが、それでも速く感じる攻撃を、体をひねり回避する。
リーナのパンチが、顔のすぐ横を掠め拳圧に髪を引かれるのを感じる。
(初めから、顔を狙って来た!)
その後も、鋭い拳や蹴りを躱したり受け流したりする。辛うじて、反応出来る位に手を抜いているが、そこに甘さは無く常にギリギリだ。
「そう。余り大きく回避しない。相手の初動で、次の攻撃を予測
して、躱せるようになりなさい。そうすれば、もう少し余裕が出来る。」
「クゥ!」
(無茶を言う!)
そんな、物語の主人公の様に、すぐに出来る訳がない。経験が圧倒的に不足していて、出来るはずがは無いだろ!
意識がそれ、それた隙にリーナの拳が、鳩尾目掛けて来る。咄嗟に柄を掴み、抜いた剣の腹で受けると、体が少し浮き上がる。
これには、リーナも想定して無かったのか、一瞬驚いた表情を浮かべる。最も、これを無意識に行った自分自身が、一番驚いたが、剣は抜いてすぐ、刀身に蹴りをくらい、手からすっぽ抜け少し離れた場所に突き刺さり武器を失う。
こうして、実戦を経験する事で、気付く事がある。
リーナの攻撃にはリズムがあり逆にリズムを外したり、フェイントをかけるのに利用したりと、中々巧妙だ。それに、瞬時に想定外の事態に対応したリーナは、思っていたより更に強いのかも
しれない。
お陰で、この間にも何発か貰ったので、体の至る所が痛みを訴える。少しずつ鈍って行くのが分かる。
(パンチが速くて重い! 受けると、肉が潰れる様だ。)
その時、リーナの拳が顎を擦り視界が揺れる。意識が飛びそうになるのを、歯を食いしばり耐え。
「クソ!」
少し距離を取り、隠し持つ石を複数を掴み投げつける。が、瞬
時に距離を詰め、掴んでいる手をはじかれ石を落としてしまう。
その伸びきった腕を、掴まれて投げ飛ばされる。
「グッ!」
訓練の成果で、反射的に受け身を取る。その隙を突かれて、転がされうつ伏せで後ろ手に抑え込まれ動きを封じられた。
「グググッ!」
魔法で強化し、全身に力を込め逃げようと足掻く。
「ハァ。・・・無駄だ。こうなったら、簡単には抜けられない。それに・・・。」
急に強化魔法が解け、力が抜け抵抗出来なくなり。体が疲れで重く感じ動け無くなる。
(これは・・・。)
「『マナ切れ』やはり来たか。そろそろだと思っていた。」
俺の、拘束を解き立ち上がる。
「ハァハァ・・・。」
マナ切れの疲労で、起き上がるのも億劫だ。地面に寝転がり、荒い呼吸のままリーナを見上げる。
朝日を背に浴びながら、疲れや汗1つ見せずに涼しげな表情で見つめ。
「そろそろ行くか。」
疲れて転がって居る俺を、軽々と担ぎ上げる。
「・・・こんな恰好は、嫌だ!」
リーナに肩に担がれた姿は、かなり恥ずかしいので。抗議するが。
「なら、自分の足で歩いて帰れる様にならないとね。
難なら、お姫様抱っこがいい?」
と、取り合わずに森の足場の悪い中を、結構なスピードで下りて行く。なのに、喋っても舌を噛まない位余り揺れを感じさせずに、進んでいる。
此だけでも、リーナの卓越した能力を感じさせる物だ。さっきの鍛錬を思い出す。
(強いと思っていたけど、予想以上だ。 まさか、あの距離からの攻撃を素手で弾くなんて。)
(あれは、スキル?それとも、純粋な体術?)
格上の相手と、見ると色々と勉強になが。それより・・・
(俺のステイタスにあった、『???』が気になる。)
聞いた話だと、スキルの発現の兆候らしいが。何か切っ掛けが必要らしい。
(下手をすると、一生発現しない事もあるとは。)
考え事をしていると、声を掛けられた。
「まだ、無理に攻める癖があるな。それと、ペース配分をしっかり意識する事だ。」
珍しく、アドバイスをくれた。
「だがまずは、ここで汗を流そう。」
いつの間にか、近くの川まで着いた様だ。そこで漸く、降ろされリーナに回復魔法を掛けて貰う。
体が、淡く温かい光に包まれ痛みが引いて行く。
「私は、少し用事があるから先にいつも通り、汚れと汗を流しておきなさい。」
そう言い残し、また森へ向かった。
元気が少し戻ったので、そのまま川に膝まで浸かり汚れを落とす。装備を外しての破損や服の破れを確認する。
最後に体の状態を見る。打撲などの、傷は癒えたがまだ殴られた感覚がある気がする。
そこを、気にしながら汗を流す。中々、髪の毛の汚れが落とせないで苦戦していると。
「?!」
突然、頭から水を掛けられてビックリする。驚いて、そちらを見ると。いつの間にか居た、同い年の女の子が笑いながら、水を掛けて来る。
「!?ゲホッゲホッ!! ちょ、ちょっと待って!水を掛けるのを、止めてくれませんかネ~?ルナさん。」
彼女は『ルナ』で、ディークさんの子供の1人で同い年の子だ。見ての通り、少々お転婆な所がある。
彼女が、1人で行動しているのは珍しい事のだが?
「お~い!ルナ、何処に居るんだ~?」
「こっちだ。」
ルナを探す声に応えると。 少しして一人の少年がやって来た。
「ルナ、探したんだぞ。って、シンずぶ濡れじゃないか!」
「あぁ。まぁ、さっきね。」
「コラ、ルナ!シン、済まない。」
俺の、状態と視線で察してルナを叱る。
この少年がルナの兄、ライトだ。俺とルナより二つ上で、勉強が出来るし、大人達からも信頼されている。言わば、優等生の様な奴だ。
この2人が、初めて出来た親友だ。
「あっ、兄ちゃん。」
「イタズラが過ぎるぞ。こんなに、びしょ濡れになて。」
ルナを見ると、さっきので服が濡れて肌に貼り付いている。
幸い、これから暑くなるので気持ちいいくらいだ。
「随分、賑やかだな?」
いつの間にか、リーナが戻って来た。俺の他に、ライ達が居ることに少し驚きなら岸に近づいててくる。
「ルナも、びしょ濡れになってどうした?ほら、2人ともこっちに来て。」
ルナと一緒に、岸に上がりリーナ達の側に行く。
「リーナお姉ちゃん、おはよう!」
ルナが、無邪気に挨拶をし。
「2人とも、おはよう。」
「リーナさん、おはようございます。」
ライが挨拶を、返す。
「・・・ルナ、私は『お姉ちゃん』と言われる歳でないのだがな。」
リーナが、ルナに苦笑いで返す。
「そんな事無い!お姉ちゃんは、若くて綺麗だもん!」
確かに歳は兎も角、見た目はそれ位に見えるだろし。余り違和感は感じない。
「・・・ルナ。ありがとう。」
リーナは、少し驚いた後ルナに微笑頭を撫でる。すると、ルナと俺を暖かな風が包み込む。
風が髪と服を揺らし、体に付いた水分が急速に乾き軽さが戻る。
「ありがとう!」
「それじゃあ。村に、戻ろっか。」
ルナの手を引き、歩き出す。
「僕達も、行こうか。」
ライが、俺の肩を叩き歩きだし。
「あぁ。」
俺も、それに付いて行く。
ルナは、好きなリーナに手を引かれ上機嫌で、鼻歌を歌っている。ライも、そんな妹との様子を微笑ましそうに見ている。
リーナ達の様子を、見ながら歩き村を目指す。
今暮らして居る、この村は結構気に入っている。この村は言うなら、『箱庭』と言った所だろう。
石造りの家々に手入れされた庭、麦などを挽く水車、苔むした水路、所々に生えた木々が木陰を作り村人の憩いのばになる。
山からの水が多く村は、水路が張り巡っており魚が泳ぎ。水面は、村ののどかな風景を写す。
まさに、自然と調和した村と言った風景が、俺はとても気に入っている。
「さぁ、村に着いた。後は、家の手伝いとか頑張って。」
「うん!お姉ちゃん、バイバイ!」
「これで、失礼しますリーナさん。シン、また後で。」
そう言うと、ライ兄妹は去って行く。
「あぁ、また後で。」
「私達も、帰って食事にしよう。」
途中で合った村人に挨拶をしなが、家に向かう。家には大きめの庭があり、今は薬などに使う草や木々が生え綺麗に整備されている。
最初は、そんなのは無く少し荒れた庭だった。リーナは、必要なのを残し魔法の『ウインドカッター』をアレンジした『カッターサイクロン』と言えばいいのか?
まずは半球体を作り、中を風の刃でミキサー状態にした物だ。それを使い、下草を刈り揃え、不要な木々を粉砕していく。
仕上げに種を蒔き、何かを呟くと種から芽が出て、すぐに樹齢十数年くらいまで木々が成長し、いつの間にか畑も完成していた。
こんなに事を、一時間くらいで終わらせてしまう。これには、流石に圧巻と言う他ないだろう。
そんな庭を抜け、家に入るといい匂いがここまで漂ってくる。
「今日は、ウサギのシチューとサラダだ。」
リーナが、そう言いながら台所へ向かう。
台所のテーブルには、香ばしい香り漂うパンの入った籠と、彩り豊かなシャキシャキのサラダ、食欲を刺激されるシチューの鍋が置かれ、既に皿が並べられている。
その回りに白い光の玉が、フワフワと漂って居たのが、寄って来る。
「うん。いい匂いだ、流石だな。」
リーナが、光の玉にそう声をかけると、一瞬淡い光が辺りに広がり、そこにはフワッとした優しげな女性(?)が現れる。
「お帰りなさいませマスター、シンくん。もう、食事の準備が出来ているので、手を洗ってから食べて下さいね。」
彼女はティナさん、リーナが連れて居る妖精の一人でシルキーなのだそうだ。付き合いは結構長いらしい。