第六話 神殿とステータス
ガルドsaid
コンコン
「・・・うん?」
何かが、窓を叩く音が聞こえ、辺りを見回す。暗く、まだ夜が明けていない。
(いや、寝たばかりはだったか? こんな時間に、誰だ?)
ベッドの脇にある、剣を抜き周囲の気配を、探りながら窓に近づく。 特には、敵意を感じられない。
(敵は居ないか。)
構えていた、剣を降ろす。だが、何かあっても直ぐ対処出来るように、油断はしない。
(この癖だけは、抜けないな。)
そう心の中で、苦笑いしながら窓を開けると。 大きな月が出ており、今夜はいつもより明るく辺りを照らしている。誰が、窓を叩いたのか、警戒しながら気配を探り外に目を凝らす。
(・・・うん?)
そこは、村の中心に1本だけ立っている木から視線を、感じそこを見る。 すると、一瞬何が光った気がした。よく見ると、枝に1羽だけ鳥が止まって居るのが、見えた。
「・・・鳥か?」
一瞬で気が抜けた。 だが何か、引っかかる感じが無くならない。
(何だ? この感じは、あれは普通の鳥ではない。)
そんな事を、考えていると。いきなり風が吹き、つい手をかざして目を閉じてしまう。
(クッ! しまった!)
一瞬とは言え、視界を奪われ焦る。この時ばかりは、自分が鈍ったと自覚させられた。
風が止み目を開けると、何事も無かった様に静か夜に戻っていた。ただ一つの違いは、あの鳥が居ないことだ。
(何処へ行った? ここに居たのは、単なる気まぐれか?)
少し気になり、辺りを見回す。
「!?」
突然、背後から気配を感じ振り返る。 そこには、先ほどの鳥が、鷹が部屋の机に止まって此方を、じ~ッと見ていた。
冷たい汗が、頬を伝う。体の体温が、奪われ様に下がるのを感じる。
(気配を、感じなかっただと!? 並みのモンスターでは無いな。)
(いや、この感じはモンスターではない。精霊か!)
ピィルルー
一鳴きすると、体から紙が出てきた。よく見ると、それは手紙の様だ。 少し警戒しながら鷹を見ると、こちらに興味が無いのか、毛繕いを始めた。
それを見て、手紙を手に取る。 暗くてよく見えないので明かりをつける。
「ライト」
(ワシが宛先になっている。 一体誰からだ?)
「・・・なぁ!? リーナからだと?」
手紙の贈り主に驚き、書かれた内容にも驚いた。
「まさか急に、こっちに来るとは思わなかった。 それに、(数年ここに住むから、用意を頼む。)と、いきなり言ってくるとはな。」
まだ暗い外を、見ながら頭を抱える。
(ワシから、村長に伝えなければならんか。 そうすると、あの空き家の掃除に修理が必要なるか? 人手は、ウチの弟子共をかり出せばいいか。)
「どちらにせよ、夜が明けてから村長に相談しないとならんか。」
「お前には、悪いがここで待って居てくれ。何、明日には返事を書くからな。」
ピィルル
「ファァ~。 さてと、ワシはそろそろ眠らせて貰うかな。」
手紙をしまい明かりを消して、ベッドに入る。
(こうして合うのは、何十年ぶりだったか? 初めて出会ったあの頃から、きっと姿は変わって無いのだろう。あの、憧れた姿から。)
(それに比べて、ワシは老いたな。仕方の無い事か、ただの人族でしか無いワシは。)
それが、寂しいと思いながら眠りに就いた。
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心一said
顔に、暖かな日差しを感じ目が覚める。
(・・・眩しい)
眩しさに目を細め、辺りを見回す。
(居ない?)
隣のベッドには、もう居なかった。昨日も、朝は居なかった。
(・・・?)
外から、音が聞こえてきた。 窓から外を見ると、リーナが裏庭で剣を振って居るのが見えた。
(ここに居るより、近くに行こう。)
部屋を出て、カギをかける。カギは、昨日の内に預かっていた物だ。 裏庭向かって、階段を駆け下りる。
庭に抜けるとそこには、緊張感のある静かな空間に成っていた。
シンプルな鎧を身に纏い、抜きはなった剣を型をなぞる様にゆっくりと振る。 全身に、意識を巡らせ集中しているのがわかる。
体幹や剣先に一切のブレは無く確認する様に、ゆっくり前を見据える剣を振る。 目には迷いは映ってはいなかった。
俺、そんな彼女の姿を見詰めていた。
次第に振る速度が上がる。 剣が風を切る音、具足が大地を踏みしめ踏み込む音、体を護る鎧の擦れる音がリズムを刻む。
その姿は、美しく舞台の上で舞っている様な剣舞だ。 その鋒は、鋭く仮想相手を追い詰め穿って終わった様だ。
構えを解き、剣を鞘に戻して此方を見る。
「起きたかシン。 明日からは、鍛錬を始めるから早く起きてもらう。」
「今は、鍛錬の途中だ。 少し待って居てくれ。」
そう言い、座り瞑想を始める。さっきまでの、鋭さと違い優しく包み込む様な雰囲気に自然と変わった。
俺は、その姿に惹かれしばらく見詰めていた。
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瞑想と朝食を終え、リーナに連れられ神殿に向かう。
神殿の正面は、広場になっており多くの人々が屋台や露店を見て回りとても賑わっている。
その中を、抜け神殿を目指して進む途中で、冒険者?と思われる人がチラホラ見つけた。よく見ると、ここには若い世代が多い様だ。
(とても目立、装備や色をしている。 特にあいつら、矢鱈とトゲトゲだ。)
まるで、どこぞの世紀末の様な装備だ。 多くの視線を集め、特に目立ている事が分かる。
此方の視線に、気付いたのか彼らの内の一人が、此方を見て固まり直ぐ他の仲間に此方を指さしてながら話し始めた。
(不味い。 面倒事になるかも。)
リーナは、今日は兜をして無いので目立っている。 今も多くの人が、足を止めて此方を見ている。
(リーナは、全然気にしていない。)
足を止めずに、そのまま神殿へ向かう。 幸いか、向こうも此方を見ているが、動く様子は無い。
(帰りは、大丈夫だといいな。)
そう思いながら、神殿へ入って行く。
神殿には、多くの彫刻の石像が立ち並ぶ廊下や部屋がある。
人々は、その静謐な雰囲気の中で祈り捧げたり、話し会いをしている。
「入り口付近の石像は、ここら辺で名を残す位に有名な者達だ。 奥の神々の間に近いほど、世界的有名な偉業を成した者達になっている。 ここに、名を残す事が多くの者達が目標にしている。」
「シンもここに、名を残せるといいな。」
「うん。頑張る。 そして、リーナを、驚かせて見せる!」
「フッ。 そうか、なら期待している。」
そう言い、頭を撫でられながら奥へ向かう。
もう少しで神々の居という所で、フッと何が目に映る。
全身鎧で剣を振りかざす姿は、細部まで彫り込まれ今にも切り掛かって来そうな迫力がある。
実際周りの石像より、その石像の前の方が多くの人が、集まっている。
その石像の、台座には名前が彫られているようだ。 ここからだと、よく見えないが少しは見えた。
名は、『リーナ・・・・・・』
驚きの余り立ち止まる。
(・・・リーナ?)
「どうした?あと少しで着くから、早く行くぞ。」
置いて行かれそうになり、慌てて後を追う。
(でも・・・あの像は、本当にリーナ? それだけ、強い?)
「着いたぞ。ここが、神々の間だ祖神は1番奥だ。」
そこには、何体か石像があるが、今までのと違い神々しい雰囲気を纏っており特別なのだと直ぐに分かった。
今も、何人がそれぞれの石像の前で祈りを捧げている。
そんな、神聖な雰囲気の中を通り、奥へ向かう。
「あれ?」
(石像が無い? 名前は、『祖神』であっている。)
連れて来られた場所には、台座はあるが石像は無く、青白く輝く水晶が台座の上に浮いていた。 不思議に思い、振り返る。
「それに、手をかざすんだ。」
言われた通りに、水晶に手を伸ばす。すると、手が少し暖かくなるのを感じ。 次の瞬間、目の前が真っ白になった。
「・・・? ここは?」
眩しさを感じたし瞬間から、何処か違う場所にいる様だ。
(見渡す限り真っ白の世界か・・・。)
(珍しい・・・異世界・・・訪問者よ。)
「!?」
断片的な、言葉のイメージが頭に直接伝わってくる。 こんなことは、初めてで違和感が凄い。
(貴方は、神と呼ばれる者か?)
(肯定・・・ステータス・・・授ける)
次の瞬間、身体が光に包まれ強い熱を感じる。
(この世界・・・旅・・・幸運を)
「待ってくれ! 俺の記憶喪失は治せるのか?」
(肯定・・・実行・・・否定)
「なぜ。」
(我・・・過度な・・・干渉否定・・・功績・・・大切)
「・・・。」
(・・・功績が、大きければ治せるのか?)
(・・・肯定)
(やっぱり、思考を読まれるか。)
(時間・・・我・・・行く)
「!? 待ってくれ!まだ、聞きたい事が!」
さっきまで、感じていた力の塊が急に薄れて行く。
気が付くと、元の石像の前にいた。 手や体を確かめる。
(??? さっきより力が強くなった?)
「どうやら貰えた様だな。 なら、『ステータス』と念じれば手の中にプレートが出てくる。確認してみてくれ。」
言われた通り、念じると。 手の中に、木の板の様な物が出て来た。
(なんだこれ?)
見た目は木、触った感じは金属の様だが軽くほんのり温かい不思議な物だ。
(まさしく、ファンタジー物質だな。)
この世界の不思議に触ながら、ステータスを確認する。
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ステータス
名前 心一・雨宮
種族 人族
レベル1
筋力 20(15) 体力 13(10) 耐性 15(11)
俊敏 17(12) 魔力 50(35) 対魔 25(17)
スキル
野営 2 収穫 1 観察 3 気配感知 1 算術 3 異世界言語
高速思考 1 並列思考 1 未熟
剣術 1 槍術 1 棒術 1 短剣 1 盾 1 体術 2
魔力制御 1 魔力感知 1 生活魔法 1
ユニークスキル
???
称号
『異世界からの訪問者』『記憶喪失』
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(これが、今の俺? 称号?よく分からないのがある。)
「出て来たな。ステータスプレートは、他人が見ても何も見えないただの板でしかない。」
そう言いながら、自分のプレートを渡された。
それは俺のと違い、青く透き通るクリスタルの様な物だった。
(本当だ。何も見えない。 これも、金属の様な触り心地だな。 でも、なんで俺のとここまで違う?)
不思議に思い、自分のと見比べる。
「プレートの見た目は持ち主の、魂のランクに関係しているそうだ。 最初は、みんなそのプレートから始まる。私も、そうだったからな。」
(そんなランクまであるのか。)
そう思いながら、プレートを返す。
「だが持ち主が許可すると、その相手も見る事が出来る様になる
本当は、他人に見せる物では無いが。これからの、鍛錬の為に悪いが見せてくれないか?」
別に、隠す様な内容も無いので、リーナを渡す。
「フム。 レベル1にしては、なかなか強い方だな。あると良い、スキルもある程度揃っているし。
相手に、見せたく無い物は、そう念じると消せるからそうするいい。『異世界からの訪問者』とかはな。」
プレートを返して貰い、言われた通り表示を変える。
「知らないスキルや称号は、そのスキルを触ると詳細が表示される様になっている。」
『未熟』
身体の成長がまだまだ足りない。 ステータスダウン
『異世界からの訪問者』
成長の促進小
『記憶喪失』
スキルの、一時的な劣化または消失。
記憶の回復で戻る事がある。
(記憶喪失にペナルティーがあるのか。 結構シビアだ。)
「プレートを消すには、『消えろ』と念じるか、持ち主が握り潰すかすると消せるからな。」
(念じるのは、もうやったし。)
右手で、プレートを強く握り締める。 するとプレートは、音も無く砕けまるで、幻の様に薄れて消えた。
(確かに、手の中にあって金属の様だたのに、簡単に砕けて消えた。 不思議な世界だ。)
そう思いながら、プレートを出したり消したりして見る。
「ここの用事も終わったし、そろそろ行くぞ。」
リーナは、そう言い歩き出した。 前を歩くリーナを見ながらある疑問を思い出す。
(そう言えば、リーナのステータスを見せて貰って無い。)
「ねぇ、リーナのステータスは、見せてくれ無いの?」
前を歩くリーナに、思い切って聞くと。
「さっきも言っただろ? 人に、余り見せる物じゃないと。」
リーナは、歩きながら肩越しに振り返り、少しイタズラな表情を浮かべそう言った。
「え?」
あんまりな事に、驚き立ち止まる。
「嘘だ、嘘。その内な。 今は秘密だな。女性は秘密が多いものだ。それに、その方が魅力的らしいからな。」
楽しそうに笑いながら歩いて行く。
(そこまで、笑わなくても・・・。)
あの言葉に、つい驚き呆けた顔がそんな面白かったのか?
それが、恥ずかしくたまらなく『ドキドキ』するし、それに
(あんな表情も、するんだな。)
普段は、無表情に近いのにさっき見せた、肩越しのイタズラな表情や笑顔に別の『ドキドキ』を感じる。
(あんな表情を、されたらどんな奴でも惚れるて。)
思い出すと、また顔が暑くなるのを感じる。
そうしていると、いつの間にか神殿の出入り口まで来ていた。
すると、突然リーナが振り返り。
「そうだな、シンが一人前になったら見せても構わないかもな。」
彼女が、外からの光に被り眩しさでその表情は、判らなかったが。その優しげな声が、辺りに響いた。
(彼女に、惚れた人は一体何人が居るのだろう?)
そんな事を、つい考えてしまう。
(俺も、人の事を言えないけど。)
そう思いながら、彼女を見る。
「さて、次に行くぞ。」
リーナは、そう言い再び歩き出した。
ステータスがなかなか決められなかた。
悩んだ割には、普通な気も・・・。