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乙女ゲームのイケメンに憑依してしまった「彼」の悩み事  作者: 遠出八千代
乙女ゲームのモブに転生してしまった「彼女」の懸念事項
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晩餐会にて 後編



全てが記された(アカシック)レコード



 その本には、この世界が誕生した時から宇宙の理、概念、この世界の事象の全てが記されたといわれている。一説にはいまなお白紙のページに自動であらゆる事象が観測され筆記されていると言う噂まで聞いたことがある。


 つまり、封印された魔王を復活させる方法や、この世の全ての魔法。人探しから明日の天気まで、なんでも記されているというわけだ。その書をこの手にすることさえ出来れば、俺の魂を元の場所に戻ることも可能だし、この体を彼に返す方法を知ることも出来る。

 闇雲に図書室で調べ物をするよりも、ずっと近道になりそうだった。


 何せどんな情報でも載っている本だ。


 いや、もしかしたら近道なんてものですらない。最短の道になる可能性すらある。なんだか俺が図書館で調べていた三ヶ月はただの徒労になりそうだ。だけど、それを差し引いても、お釣りが来る。


 ま、今の知識は元いた世界の意味で、こっちの世界の意味合い的にアカシックレコードの意味が同じかは分からない……


 というかなぜアカシックレコードなんて名称が、二つの世界で一致するんだ?偶然の一致なのか?元いた世界とこの世界は関係でもあるのだろうか?


 そういえば、コハナちゃんも日本人の名前みたいだし。それと関係でもあるのかもしれない。

 ……いや、それはさすがに考えすぎに違いない。





「で、どうしてエリザさんがこんなものを持ってるの?」


 俺の問いかけに、目の前のエリザさんはハッとした。

 彼女の目は泳いでて、あからさまに誤魔化す気にさえ見える。何か隠し事でもあるのだろうか。ま、言いたくない事なら、言う必要はないんだけどさ。


「……ちょっとしたツテよ」

「ツテ?」

 若干の間があって、エリザさんは重い口を開いた。



「ええ、私が黒魔術専攻なのは知っているでしょ?子供のころから黒魔術とか秘密結社とかオカルトとかが好きだったの。それで一部の禁忌の魔術に凄い嵌ってたことがあって、その当時のツテでこんなものを教えてもらったの。後は父にお願いして優待券を貰ってきたってわけ。だから別に今それほど嵌っているわけではないわ」

「はぁ」


 エリザさんは早口に言い終わると、こちらも見ずにパンフレットをひったくってきた。先程よりも顔を赤くしているように見えた。


 黒魔術を知っていて、何を恥ずかしがることがあるのだろうか。この世界には色々と魔法があるわけだから、恥ずかしがる理由なんてないと思うけど。


 ……まぁ、エリザさんがオカルト趣味に嵌っていた事はたしかに意外だった。

 彼女の凛々しい性格的に、てっきり非科学的な分野なんてくだらないわ、とにべもなくいいそうなタイプだと思っていたから。


 でもそういえば元の世界の話だけど、丁度中二ぐらいの時に同級生にスピリチュアルに嵌っていた女子が一人いた記憶がある。

 その子は手相占いが得意で、放課後にはいろんな人の手相を占っていた。しかも占うときは、いつもなにかよくわからないベールみたいなのを頭に被り、よく意味の分からないことを話してたっけ。学年が上がってからはやめてたけど。

 もしかしたらエリザさんが恥ずかしがる理由もそれに似たようなものなのかもしれない。


 一時的な病気みたいなもので、例えるなら女の子版の中二病のようなものなのだろうか?


「あぁ!!今凄い失礼なこと考えてたでしょ」

「イエ、ゼンゼン、ソンナコトハ、メッソウモカンガエテイマセンヨ」


 むくれるエリザさんの言葉は俺をしどろもどろさせた……いや嘘は言ってないし、失礼なことも考えてないわけだから、カタコト口調で返事をする必要なんてなかったんだけど。


「……たく、だからいいたくなかったのよ」

「いやぁ、もうしわけないです」


 エリザさんは悪態をつきながらパンフレットを広げはじめたが、すぐに真面目そうな顔に戻っていた。よかった、俺の失言はそんなに怒らせてはいないみたいだ。


「でもこの図書館に入るのに1つ、いえ2、3問題があるの」

「問題ね。簡単ならいいんだけど」

「だったら、こんな真剣そうに話したりしないでしょ?」

 ま、それは言わぬが花って奴かもしれないけどね。

 エリザさんは、広げたパンフレットの中心を指差した。

 図書館の概観図が描かれた絵の下に、こんな注意書きが書かれていた。



********


 図書の閲覧について、以下の注意点について注意されたし。


 1、図書館の入館には、前もって武器や危険物の携帯がないか確認を行われる。

 2、アカシックレコードは禁忌書物であるため観覧はこちらが指定したページで行うこと。

 3、なお、一般の人間にはあまりに危険であるので、最低でも5メートルほど離れた距離から読むこと。

  etc,etc……


********



「成る程。とてもじゃないけど、俺の調べ物を探すことは出来そうにないね」

 パンフレットにはずらっとそんなことが書かれていた。


 要約すると、アカシックレコードは危険物なのでこちらが指定したページ、本より離れた立ち位置から読んでくださいということだろう。


 冷静に考えれば、そうせざるおえない理由は想像はつく。

 これ一冊あれば、世界を支配することも、未来の事を知ることも、何だって出来る。


 具体的にいえば敵国との戦争だ。その本の中には敵国の弱点も、勝ち方も、その未来だって書いてあるわけで……


 世の中のことが全て書かれている本だ。

 これくらい厳重なのは致し方ないといえば、しょうがない。


「でもさ、なんでこんな凄い本が図書館に置いてあるの?自分達で使っちゃえばいいのに」


「貴方、図書館って言葉で勘違いしてると思うけど、この本が置いてあるマゴイ図書館は厳密には教会みたいなところなのよ。国に所属しない魔法使いの集団が取り仕切ってる場所で、おかげでどの国も手は出せないし、うちみたいな悪名高い家柄の投資でも金を払えば多少は融通が利かせてくれるのだけど」


 俺の疑問にすらすら答えたエリザさんは、パンフレットを折りたたんで――


「一説にはその魔法使いの集団は、魔王の復活を目論んでいるって噂もある。正直かなり怪しいわよ。それでも貴方行ってみたい?」

 神妙な顔で、そうエリザさんは念を押してきた。


「そりゃあね」

 俺の答えなんて決まっていた。


 いままで、この世界に来てずっと体を戻すことを第一に、いろいろ図書室で調べてきたんだ。

 そしてエリザさんのおかげで、ようやくその解決方法が見つかりそうなのだ。

 行かない理由がない。ま、その前に図書館の中で、どうやって体の戻し方を調べるかと言う難題があるわけだけどさ。

 

「……私はね、このままでもいいじゃないかなって思ってる」


「それは俺がずっとクラウディンのままでもいいってこと?」

「そういうことになるのかな?」


 エリザさんの言葉にドキりとした。

 彼女の言葉が俺の決心の揺らがせる魅力的な提案だったから、だけではない。


 彼女がこれまで一度も覗かせなかった、やさしさに溢れる、まるで聖母みたいな口調だったからだ。目元だって柔らかで、普段の厳しそうな彼女からは想像も出来ない。


「……うーん、素敵で、魅力的な提案だね。なんとも悩ましい所だ」


「こんなこと言ってはなんだけど……きっとクラウディン以外は貴方がそのままでも困る人はいないんじゃない?ハレー伯爵も夫人も貴方のことを気に入っているでしょ?周りの皆だってそうよ」


 俺はエリザさんの隣に立つ。

 バルコニーからの夕焼けを見ながら、なんて答えるべきなのか考えていた。


「それに何かあれば、私が婚約者としてサポートする。それに今回の件だって成功するかなんて分からないのよ。試してみていざ貴方が危険な目にあったらどうするのよ……」


 当のエリザさんは、手のひらに収まった折りたたんだパンフレットを、手でいじって所在なさげにしていた。俺の答えを待つ彼女は、そわそわしていて、なんかいじらしくて、その感情の奥底に俺を気遣う気持ちを感じ取れた。こちらは感謝半分、申し訳ない気持ち半分ってところかな。


「きっとエリザさんの言ってる通りなんだと思う。でも、それはクラウディンがこの世からいなくなっていい理由にはならない。誰にも必要とされないままそれで終わりなんて、そんなの悲しすぎるでしょ」


 俺も昔、そういう言葉を誰かにかけられて助けられたことがあった。

 それは何時だったか覚えてはいない。それは子供のころだったか、ずっと昔だったのことだったかも定かではない。でも過去の記憶が頭にこびりついて、俺の原動力になっていた。


 まぁ、なんにせよ、俺がクラウディンに体を戻してやる理由なんてそれだけで十分なんだ。

 

「それにクラウディンは一度エリザさんとか、ハレー伯爵とかに、ちゃんと怒られなくちゃダメなんだと思う。そうさせてやるのが人情ってやつさ」


「………やっぱり頑固」


 ぼそっと、エリザさんは何か呟いた。

 ……へ?どういう意味だ。彼女言葉の意味よくわからなくて、頭が少しフリーズしていた。


「貴方頑固よ!凄い頑固!」

「そ、そう?」

「そう!絶対にそうよ!だってこないだの時も~」


 そして世継ぎ早にエリザさんはこないだの夕暮れの教室でのことに触れてから、俺のこれまでのこっちの世界に来てからの事をダメだししてきた。もっと早く誰かに相談すべきだったとか、他人を頼るべきだったとか、確かにその通りではあった。


 多分彼女なりに心配してくれているんだと思う。


 いや、でも頑固さならエリザさんの方が……なんて言ったら百パーセント殺されるからやめておこう。俺はエリザさんに平謝りしながら、彼女の話を素直に聞いていた。



「……あーいちゃついてるとこ悪いんだが、そろそろ君たちのご両親が心配していたぞ」



「ギャー!!だ、だれ?」

 俺とエリザさんは新手の声の主に驚いて、後ろを振り返った。

 気付けば、バルコニーと繋がる扉を少し開けてから、彼が顔を覗かせてた。

 ……そう、エリザさんの叔父のグリズルドさんだ。


 彼は、エリザさんと同じ色の紫の長髪をかき分けて、俺たちの前で気まずそうにしている。


「あ、グリズルドさん、先程振りです」

 いえ、別にいちゃついていたわけではないのですがね。俺は彼の言葉に愛想笑いを浮かべて、エリザさんの手をとって、館内に向かった。


 確かに、夕方の外の風に浴びていたせいで、体も多少冷えてきていた。なにせ中世ヨーロッパ風の館が森の中にポツンとたっているため、風が直接体に当たるのである。これが寒くないわけがない。


「そうそう。君たち、今日は誰かご友人は呼んだかな?」

「いえ、呼んでいませんけど、なぜですか?」

 なぜ、そんな質問をするのだろう?俺が彼にそんなことを尋ねようとしたら、彼はちょっと考え直して、「きっと気のせいだろう」と言い直した。



 一体、なんなんだ?




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