がんもどきファミリー
入学式、春の陽気な光りに照らされ、 桜の雨が降りしきる中、胸を高鳴らせながら校門を通過する。
「まあ、普通のやつはこういうおめでたいことを考えるんだろうな。しかし、この俺須田大輝は違う。人生とはいかに省エネで生きていくかであり、その途中経過には何もいらない。 まして、高校生。人生で一番エネルギーを使うと言っても過言ではない。その時間をどれだけ目立たず平凡に暮らせるかが重要なのだ。」
こうして、須田大輝は青春という名の迷宮に迷い込み、体育館へと重い歩みを進めた。
体育館についてしばらくすると、式が始り校長先生の話が始まった。
「新入生の諸君、入学おめでとう。この桜ノ宮高校では生徒の自主性を重んじ、先生方も協力的だ。だから、失敗を恐れずどんどん挑戦していって欲しい。そして、この桜ノ宮高校でかけがえのない思い出を作って欲しい。高校生活楽しい事ばかりではないだろう。しかし、そんな時に、良き友と支え合い、困難に打ち勝ち、人生最初で最後の高校生活を謳歌して欲しい。」
校長先生の話を聞いた時須田はあることを思った。
「結局、人任せかよ。それに、人間という生き物は自分が何よりも大切で、そのため、ピンチなると平気で人を裏切る。だから、支え合いとは単なる偽善である。それなら、一層困難に直面しないためにも、じっとしている方が賢いと言えるだろう。」
そして、入学式は、国家斉唱、祝辞、校歌斉唱、いわゆるいつもと同じパターンを繰り返して長かった入学式は終わった。
体育館を出た後で女子生徒2人の会話が聞こえて来た。
「入学式長かったね。」
「そうだね。校長先生の話が長いんだよ。あと三年間行事ごとにあんなに長い話を聞く事を考えるとゾッとする。」
「そうだね。あの人混みはなんだろう。そうだった、クラス分けは校庭に貼られるってさっき言ってた。私〇〇ちゃんと一緒のクラスになりたい。」
「私も。それじゃあ早く見に行こう。」
須田はふと思った。
「女子の陰口恐ろしい。それに、あの二人本当に同じクラスになりたいのか。話もあまり噛み合っていなかったし。
多分あれは家が近くで高校で離れるはずだったが、まさか同じ高校に進学してしまい、お互い我慢の限界に近づいてきているのだろう。いつ、幼馴染の鎖がちぎれるかが見ものだな。」
そして、須田もクラス掲示を見に行った。
「えーと、俺のクラスは、1年6組か。もちろん知っている人はいない。そりゃ、そうだな。俺はつい最近引っ越して来たからな。引っ越したと言っても隣町から移って来ただけだけど。
担任は新任の女性の先生。これは過去の経過から推測するとババを引いてしまったな。若い先生というのは希望に満ち溢れ何事にも積極である。しかし、それは時として空回りする。中二の時の昼休み、案の定俺は教室の隅でぼっち飯をしていた。その時に現れたのが新任Aだ。そいつは俺がクラスに馴染めず、話しかけたくてもその勇気がないのだと思われたのだろう。そんな時に新任Aはある行動をとった。」
「須田、お前の弁当うまそうだな。それはなんだ。こ、これはがんもどき。もしかしてその弁当にはおでんファミリーが集結しているのか。」
そしてクラスは静まり返った。
「俺はそれ以来、がんもと愉快な仲間たちと呼ばれるようになった。確かに、あだ名は出来たが、あの先生がとった行動は未だに謎だ。そして俺はあの時どのように返したらよかったのか、未だに分からない。」
「しかし、この学校には俺ががんもだということを知る奴はいない、このあだ名を呼ぶ奴もいないだろう。
えーと、1年6組の教室は本館の3階か。」
そして、須田は1年6組に向かい教室のドア前に立ち、新たな世界へと踏み出した。