冒険者と「ライセンス」
――冒険者に「ランク」がない……なら「ライセンス」は?
冒険者をランク付けする制度は、ファンタジー世界に馴染まない、というのは前の項目で書いた通りです。
馴染まない理由は、あまりにもシステムの内容が洗練されすぎているから。そんなシステムを作るのも、維持するのも、大変すぎます。
それなら、洗練されていないシステムなら、存在するのでしょうか?
さてここで、冒険者とは「医者」のようなイメージを持った職業であると考えよう、という話を思い出してもらいたいと思います。
では、医者の場合、どのようなシステムで管理されているでしょう?
「評論家」「モデル」「お笑い芸人」「ライター」……こういった職業は、ほぼ「名乗った者勝ち」です。「私はモデルです」と名乗れば、その瞬間からモデルなのです。たとえ事務所に所属していなくても、たとえ仕事がゼロでも、構いません。自称でなれる職業だからです。
しかし、医者はそうはいきません。
医者になるには、国家試験を受験し、合格しなくてはなりません。合格者にはライセンスが発行され、それをもって医者となります。
こういう、しっかりした制度が作られているのは、医者という職業が、責任を求められる仕事だからです。なにしろ人間の命を扱うのですから、医者に仕事を依頼する人(患者)は、命がけです。
ファンタジー世界の冒険者もまた、責任を求められる仕事です。
たとえば「村を襲うゴブリンの群れを撃退する」という仕事なら、もし冒険者がそれに失敗したら、村が1つ滅びることになります。当然、依頼する人(村の住民)は命がけです。
そういうわけで、ここでも冒険者を医者と同じように考えると良いのではないでしょうか。つまり、冒険者になるには試験があり、それに合格した者が冒険者を名乗れるのです。
では具体的に、誰が、どのような試験を課すのでしょう?
ここで登場するべきは、やはり「冒険者ギルド」でしょう。(ギルドについては、別の項で話します)
◆ 冒険者を志す者は、冒険者ギルドが行うテストを受ける。
↓
◆ テストに合格した者は、その冒険者ギルドが発行するライセンスを得る。
(ライセンスは学生証や免許証のように、目に見えるもの)
↓
◆ そのライセンスを所持している者は、冒険者を名乗って活動できる。
(活動範囲の広い冒険者なら、複数のギルドからライセンスを貰っている)
流れとしては、おおよそ上記のような感じでしょう。
冒険者に仕事を依頼するときは、まずライセンスの提示を求めるわけです。
では、そのライセンスには、いったいどんな情報が書かれているのでしょう?
冒険者の強さでしょうか? Aランクとか、Bランクとか? 職業が騎士とか、技能が火系魔法とか?
いいえ、そんな細かいことは書いてないはずです。ファンタジー世界は、そんな細かい情報を把握して管理できるような世界ではないはずです。
ライセンスに書かれているのは、
1.冒険者の名前
2.ライセンスを発行した冒険者ギルドの名前
・・・以上、という感じでしょう。
もちろん、冒険者の名前というのもの自己申告ですから、ニックネームだろうと、偽名だろうと、構わないのです。
このライセンスが保証するのは、冒険者ギルドが課したテストを突破した、という事実だけです。それで充分なのです。
私たちも、医者に対して、手術の腕前や実績(ランク)を問いただしたりしませんよね? それと同じことです。(もちろん、知れるなら知りたいですが・笑)
せっかくのライセンスなのに、書かれている情報が少ないように感じる人もいるかもしれません。しかし、古代や中世をモデルとしたファンタジー世界は、現代に比べて情報の貴重さ・希少さ・重要さが桁違いな世界ですから、これでも充分すぎるくらいです。
ちなみに、ライセンスは偽造できちゃうでしょう。簡単ではありませんが、自動車の免許証を偽造するくらいのレベルで、可能だと思います。
魔法を使って、偽造も破壊も不可能なプロテクトをかける、なんていうのはあまりにも異常です。
そういう技術が存在するはずがない、ということではなく、そういう技術を開発して実際にライセンスにそれを施すのは、手間と技術とお金と材料の無駄遣いだ、ということです。
(もしも、自動車の免許証を1枚作るのに、1億円かかるとしたら、そんなシステムは却下されるでしょう。それと同じ感じです)
ちなみに、冒険者ギルドが課すテストの内容ですが、それは色々でしょう。
そのギルドに舞い込む依頼による、というべきでしょうか。
モンスター討伐が多いのであれば、戦いの腕前を厳しく見るでしょう。
旅商人の護衛のような依頼が多いギルドなら、人柄やコミュニケーション能力も重要なポイントになるでしょう。
なかには、おざなりに簡単なテストで、誰でも冒険者になれるギルドもあるかもしれません。
しかし、そういうギルドは遠からず潰れるはずです。なにしろ、「あのギルドの発行したライセンスを持つ冒険者は、役に立たない奴ばっかりだ」という噂が立って、だれも仕事を依頼しに来なくなってしまうでしょうから。
(そして、そのギルドが発行したライセンスは紙クズ同然となり、楽して冒険者になった連中は、職を失うことになるわけです)
かといって、1000人に1人も合格できないような厳しいテストを課すギルドというのも、ちょっと考え物です。
冒険者ギルドにとって、所属する冒険者が1人でも多いほうが儲かるのですから、できるだけ多く合格して欲しいはずです。
そういうわけで、合格者の質と量とがちょうど良いバランスになるように、テストを行うギルドの側も、真剣に頭を悩ませながらテストの内容を決めているのです。