冒険者と「ランク」
――冒険者には「ランク」があるの?
ファンタジー世界で活躍する冒険者たち。
彼らは、しばしば、ランク付けされています。
「お前の冒険者ランクは?」
「俺たちはCランクだよ。そっちは?」
「こっちは先月、Bランクになったところさ」
「へえ、すごいじゃないか。じゃあ先輩、ここは一杯おごってくれよ」
「チェッ、しょうがねえなあ、一杯だけだぜ」
……なんていう会話が、冒険者の間で交わされている感じですね。
冒険者をランク付けする。それは、とても便利です。小説でいえば、読者に「主人公がどれくらい強いのか?」とか「主人公は世間からどう評価されているのか?」ということを、とても簡単に伝えることが出来ます
しかし、ぶっちゃけて言ってしまいますが、これはダサくてカッコ悪いことです。(小説家の方、ごめんなさい。決して誹謗中傷が目的ではないのです。どうかお目こぼし下さいませ)
なぜダサくてカッコ悪いか?
それは、ランク付けという仕組みが、あまりにも現代的すぎて、ファンタジー世界に似合わないからです。
ファンタジーの世界は、古代や中世を基本としつつ、どこか近代や現代の雰囲気もある、というような世界です。
(そうじゃない世界もありますが、それは横に置いておいて・笑)
そういう世界で「冒険者のランク付け」などという、ものすごく現代的でシステマチックなものを導入するのは、かなりの違和感を覚えます。
(まったく違和感を覚えない人もいますが、それは横に置いておいて・笑)
そもそも、よくある冒険者のランク付けって、ちょっと凄すぎます。
10段階くらいに細かく区切られたり、自分の冒険者ランクが魔法的に記録された身分証を所持していたりします。(しかもそのランクの名称がS>A>B>C>D・・・って、そこ英語圏なの!?)
私たちの生きる現代でさえ、あそこまで細かくランク付けされ、しかもそれが誰の目にも見える形で発表されている職業なんて、ほとんどありません。
そう、逆に言えば、実際に細かくランク付けされ、それが発表されている職業もあります。
最たる例は「軍隊」です。
軍隊には階級という、分かりやすいランク付けがあります。しかもそのランクは、階級章という形で本人が常に身に着けており、誰の目にも見えるように発表されています。
("赤い彗星"のシャアが「ジオン軍の少佐」であることは、誰でも一目で分かるのです)
このように、軍隊の例があるんだから、冒険者にランク付けがあってもいいじゃないか、となるでしょうか?
いいえ、なりません。
冒険者は軍人ではないからです。
ところで、ここまでの間に、何か感じなかったでしょうか?
現代人ならば、ほとんど条件反射的に感じるはずです。「人間をランク付けして、しかもそれを世間に発表するなんて、良くないことだ」と。
「人権」というものが曖昧だった古代や中世と違い、現代は人間の自由・権利・尊厳といったものに対して敏感です。
ですから、人間をランク付けするなんてとんでもない、という発想になりがりです。実際、ランク付けされる立場の人間も、気分が悪いですし。
(年齢を訊くだけでも気を遣いますし、年収を訊くなんてタブー視されますよね)
それでもなお軍隊などが公然とランク付けを行うのは、それが組織の中で人材を効率良く運用するために、とても都合が良いからです。人権を尊重しすぎて軍隊が弱くなると困るので、多少のことには目をつぶって、ランク付けを実施しているわけです。
しかし、さきほど言った通り、冒険者は軍人ではありません。
軍隊のような厳格な組織を作るような職業ではない、つまり、個人の自由・権利・尊厳を犠牲にしてまで組織の歯車となって尽くす、という職業ではないのです。
もっと自由な、別の言い方をするなら「個人的な」職業なのです。
前のページで、ファンタジーな冒険者のを「消防士」に例えましたが、その意味では的外れですね。消防士はとても組織的な職業です。
なので冒険者は「医者(しかも個人でやっている開業医)」のほうが、よりイメージに近いかもしれません。もちろん、実際の医者に、ああいうランク付け制度はありませんしね。
そういうわけで、冒険者をランク付けする制度は、ファンタジー世界に馴染まないのです。
ではいったい何故、冒険者に「ランク」などという、ダサい制度が存在するという設定が生まれたのでしょう?
それはおそらくゲームに由来します。
『ドラゴンクエスト』などに代表されるゲームに登場する冒険者たち(勇者たち)は、レベル、ヒットポイント、腕力、器量さ、敏捷性、などなど、あらゆる要素が数字で構成されています。
そして、プレイヤーにその数字を公開しています。そのおかげでプレイヤーは、自分の分身であるキャラクターの状態を把握できます。
いま元気なのか? それともケガをしているのか?
パワータイプなのか? スピードタイプなのか?
ドラゴンと戦って勝てそうか? 負けそうか?
……などなど。
さらに、キャラクターの成長が、とても分かりやすく目に見えます。レベルの数字が上がり、ヒットポイントの数字が上がれば、嬉しくて楽しいわけです。(この快感をウリにしているゲームは多いです)
この感覚を、小説の世界にそのままダイレクトに持ち込むにあたって、冒険者ランクという制度が生まれたのでしょう。でもやっぱり、そこには違和感があるわけです。
逆に言えば、この違和感のあるダサい設定「冒険者ランク」を、まったく違和感を感じさせないように小説の世界に導入できたら、それはとても素晴らしいことですよね。ぜひ読みたいなぁと思います。