幕間 両親の教育方針
ゲオルグが子供部屋で寝静まったのを確認したエカテリーナとアドルフが寝室にて声を潜めて話し合っていた。
「さて、貴方。話してくださるかしら、ゲオルグの予言の事」
「勿論だとも。ゲオルグが生まれた日は領内の視察に出ていたが、その夕方、ゲオルグが生まれた報告を受けて屋敷へ駆ける途中だった。ローブを羽織って若い占い師に声を伝えるべき予言があるとかで、声をかけられた。急いでいるというのに、どうしても聞かずにはいられない不思議なオーラがその占い師にはあった」
「それでゲオルグに纏わる予言とは、何でしたの?」
「”今日生まれた其方の子は早くから魔導の才気に溢れ、国難をも救う英雄にもなるだろう。でも、その才能の発露は其方の子の寿命を削り取り、英雄となる代償として30にも満たぬ若さで命を落とす”とな」
「予言はそれだけですか?ゲオルグは30才を前に死んでしまうのですか?それは余りにも…」
「無論、それはワシも気になって尋ねた。息子が天寿を全うできる道はあるのかと。それに対し、”有るにはある。非凡ではなく、平凡な伯爵家の三男という籠の鳥として生きれば天寿を全うできる、但し晩年は天涯孤独となるが。英雄か、籠の鳥、どちらが良いのかは、本人にしか分からぬ。故に自由に生きさせるが親の務めよ”とな」
「そう。それで貴方はどうするおつもりですの?」
「ゲオルグには”健康面での不安要因が有り家は嗣がさん”とハッキリと周囲へ宣言する。さすれば、ゲオルグはワシの後継者争いには巻き込まれる事はない。また、ゾルゲン伯爵を嗣がぬ三男坊には救国の英雄になれるような権力も財力も兵力もない。よって、ゲオルグは天寿を全うできよう」
「そうでしょうか? 〈小精霊〉が主と認めるほどの才気と”運命線”を持って産まれてしまった。だから地位なんてなくても英雄になってしまうわよ、きっと」
楽観視するアドルフに対し悲愴感が漂うエカテリーナ。
「だとしても、ゲオルグが人生を後悔しないよう、ワシらは暖かく見守るしかない。其れこそ、占い師が言ったようにゲオルグのできるだけ自由にさせるさ。其れに希望的観測じゃが、〈小精霊〉殿と契約する事は予言されておらんはず。となれは、予言を打ち破って英雄となっても天寿を全うできるやもしれん」
「なるほど、その可能性もありますわね。どちらにせよ、ゲオルグにも厳しく貴族としての教育を身に付けさせますわ。あの子に教育を受けさせなかったと、後悔したくありませんから」
「そうだな。貴族としての教育が運命を変える事はありえるな。良し、ゲオルグもビシビシと鍛えさせよう」
こうして両親の教育方針からゲオルグは三男ながら貴族としての教育を受ける事となった。