プロローグ
連載小説を書かせて頂きました。
至らない点が多いと思いますが、それでも楽しんで頂けるとありがたいです。
「小夏ーお前さ、本当にそれでいいのかよ」
「何が?」
「あの子の事、本当に諦めるわけ?」
「諦めるしかないと思うけど……」
真夏の太陽が僕と水川くんの肌を焼いていく。水川くんは足を止め、僕にこんなことを聞いて来たんだ。でも、水川くんの言うあの子はもう此処にはいない。また会えるかなんて誰も知らない。会えなくたって僕は構わない。彼女の事を諦めた僕は、傷つけてしまった僕は、彼女に会う資格など無いのだから。
夏木桜という人間は本当に人当たりのいい優しい人間だった。僕は、彼女のそこが好きだった。誰にでも向けるあの笑顔が、クラスで孤立する僕に話しかけてくれた、励ましてくれた優しさが。僕は、彼女を救う言葉の一つさえ持っては居なかった。
「小夏くーん!」
教室の窓際の席。一人本を読む僕の名前を呼んだ声。声の聞こえた窓の外を見ると、大きく手を振る夏木さんが居た。夏木さんは毎朝、昇降口前から見える窓際の席に座って本を読む僕に向かって手を振る。
「おはよー!!」
こんな僕に毎朝大声でそう叫ぶものだから休み時間に僕や夏木さんに関係を聞いてくる人も少なくない。
正直、面倒くさいから大声で挨拶するのはやめてほしいと思う。
「小夏ー課題写させてー」
彼は水川涼。幼馴染で、僕の数少ない友達の一人だ。
「またやってないんだ・・・・・・」
「悪いか!」
「そんな胸張って言われてもなあ」
僕の日常。それは夏木さんと水川くんの二人で出来ている。