3-2 想定外の事態に彼らは対処せねばならなくなりました
「いやあ、結構多いですな」
悪魔参謀長の驚きながらの声に、総統閣下もさすがに渋い顔になる。
「それなりにいるとは思っていたがなあ」
地獄将軍が不良から聞き出した情報は、結構な衝撃をもたらした。
町中のいたる所に様々なロゴがあるから、不良もそれなりの数がいるだろうとは思っていた。
その数は予想以上で、ご町内の近隣だけで数十人。
見た目でそれと分かる連中から、表だっては活動してない者も含めての人数である。
それも、捕らえた不良達が知ってる範囲でだ。
「こりゃ、この先大変ですよ」
地獄将軍がその数を見て呆然とする。
前線部隊の指揮官であるとはいえ、これだけの数を相手にできるとは思わなかった。
敵に飛びかかっていく勇気は必要だが、無謀な突撃をしかけるほど愚かではない。
「だが、やっていくしかない」
総統閣下は腹を据えて決断した。
ここで逃げては悪の秘密結社などやっていけない。
行く手を阻むものがあれば排除する。
それが悪の秘密結社なのだから。
「とりあえずは情報だ」
総統の指示で<秘密帝国ザルダート>は動き出す。
「ああ、あの連中か」
ご町内でもっとも懇意としてる八百屋さんは、そういって顔をしかめた。
「本当にどうしようもない連中だからなあ」
比較的ご近所という事で色々と思うところもあるらしい。
そんなわけで聞き込み調査はかなりはかどる事となる。
「俺らが知ってるのはこれくらいだけど、他の人にも聞いてみるよ」
協力も自ら申し出てくれた。
おかげで、その日の夜には店を訪れた方々からのご一報が。
更にはその子供達から聞き出したという情報も。
子供同士で迷惑をこうむってる、特にイジメを受けてる者からは貴重な情報も得られた。
「あいつら何とかしてくれるの?」
そう聞いてくる少年少女達に、<秘密帝国ザルダート>の組織員達は力強く頷いていった。
三日四日も経つ頃には、ほぼ全員の住所や名前、家族構成なども割り出された。
ただ、行動パターンだけはなかなか把握できなかった。
まともに学校に出てきてない者や、仕事も普通とは違うものだったりするので、どうしても他の者達と接点が少ない。
そのため、調べようにも調べきれない部分もあった。
それでも、一週間もしないでかなりの数の者達を調べあげる事ができたのはありがたかった。
「さて、こいつらをどうしますかね」
さすがに悪魔参謀長も攻めあぐねていた。
居場所が分かっても行動パターンが分からないから上手い作戦を思いつかない。
また、情報が集まるのはいいが、一人で処理するには量が多すぎる。
精査して色々と考えていくにしても、どこから手をつけるかが悩ましい。
発展途上の<秘密帝国ザルダート>が繰り出せるのは、せいぜい十人から十五人。
それ以上は組織全体への負担が大きい。
その人数で出来る事となると、かなり限られてしまう。
「まあ、小さな所からやっていこう」
一発で片付くような効果的な手段を、総統閣下は諦めた。
その日から、町を歩く不良達の姿が少しずつ消えていく事となった。
遊びの帰り、悪さの帰り、たまに行く学校の帰り。
そのつど、軽ワゴンがそのあたりを行き交っている事もあったが、真相を知る者はほとんどいない。
また、ことさら知ろうとする者もいなかったし、知ってる者はむしろその事をよろこんだ。
「おかげで周りが静かだなあ」
そんな声があがるほどである。
学校は、そもそも出席もしないような連中なので、またいつもの事かとしか思ってない。
さすがに家族くらいは騒ぐだろうと思ったが、そこまで気にしてるような所はいない。
せいぜい、今日も家にはいないのね、としか思ってない。
もちろん中には過保護なほど子供を優先している親もいて、
「うちの子が帰ってこないんです!」
と警察に届け出る事もあった。
しかし、警察も警察でそう簡単には動きはしない。
とりあえず訴えは受け取りはしたが、他にも優先すべき事件はある。
どうしても優先順序は低くなる。
警察に厄介になってるような連中だからなおさらだ。
一週間ほど不良達は姿を消す事になる。
再びあらわれるのは、姿が見えなくなって数日ほど経った頃からになる。
その時にはもう精気のほとんどを失った顔をしていた。
彼らはその後、ほとんどが大人しくなった。
それ以前の姿からは全く想像ができないほどに。
「いやあ、時間がかかったなあ」
ある程度事が進んできたところで、総統閣下は大きく息を吐いた。
とにかく手に付くところから動いていこう、と一人ずつ片付けていったのだが。
予想通りに手間がかかったし、色々と面倒も発生した。
「おかげで、色々と情報も得られましたから、まあ帳尻は大幅な黒字ということで」
「まったくだ。
地獄将軍と怪人・戦闘員達のおかげだ」
「は、恐縮です」
総統閣下のお褒めの言葉に、地獄将軍は感謝をあらわした。
「あとで皆にも伝えておきます」
「ああ、頼む。
俺からも後で声をかけさせてもらうけどな」
「是非、お願いします」
実際の行動した者達へのねぎらいは、組織の円滑な運営に必要不可欠である。
「それで、残りの連中は?」
「捕まえた連中から聞き出した情報で色々分かってきました。
おそらく、二日三日で作戦がたてられるかと」
「うまくやってくれ。
地獄将軍達も、もう少しだけがんばってくれ」
「分かりました」
「了解です」
二人は総統閣下の期待に応えるべく全力をあげていく。
「これでようやく地域制圧になるなあ」
一人になった時、総統閣下はそう呟いた。
ご町内からの指示を得られたのは確かだが、まだまだ完全に制圧してるとはいいがたかった。
地域に元からいる不良────形の違う悪の組織達がいる以上、制圧とは言い切れないものがあった。
だが、それももうすぐ終わる。
<秘密帝国ザルダート>がこの地域における唯一の悪の秘密結社となれば、名実共にご町内の支配者と言えるようになる。




