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3-1 悪の秘密結社として、彼らは存在感を出したいようです

「順調だな」

 総統閣下はそう呟いた。

 武装強盗団から救った八百屋を中心に、住宅街にあるご町内の支持をとりつけた。

 当初の予定である、悪の秘密結社らしい武装制圧とは形が違っているが、土台となる場所を手に入れたのは間違いない。

 また、アジトの近くの農家と八百屋を結ぶ流通経路を手に入れたので、資金の安定にもつながっている。

「しかし……」

 それでも悩みは尽きなかった。

 というか、だからこそ悩んでしまった。

「これでいいのか……?」

 総統閣下を含めた彼らは悪の秘密組織である。

 それが、人々に慕われているというのはどうなのだろう、と思ってしまう。

 事が上手くいってるのは良いことだが、何か方向性が違うような気がした。

 とはいえ、悩んでる余裕もない。

 やらねばならない事は多い。



「けど、このままってのもなあ」

 会議で総統閣下はぼやきながら言う。

「そうですよね」

「確かに」

 悪魔参謀長と地獄将軍も頷いた。

「悪の組織なんですから、もっとこう、それっぽい事をしないと」

「このままじゃ、運送業や子供達相手のお兄さんでしかないですから」

 やはり二人も悩んではいたようだ。

 今の自分たちのあり方、ひいては悪の秘密結社という存在意義について考えていたのだろう。

 総統閣下もそんな二人に、

「何かこう、それらしい事ができないもんだろうか」

「うーむ」

「そうですねえ……」

「どこかと戦うとか、勢力の拡大とか」

「出来ればそうしたい所ですが」

「そんな相手がいないですからね」

 これが創作物の中ならば、正義のヒーローでも出てきてくれるのだろうが。

 どういうわけか、そんな兆候がこれっぽちもなかった。

「世の中上手くいかないもんだなあ」

 嘆く総統閣下に、二人の幹部はうんうんと頷いた。

「まあ、何もしないでいるのも辛いですしね。

 ちょっとだけ行動してみましょう」

「何か作戦があるのか、悪魔参謀長」

「ええ。大した事ではありませんが」

 そう言って悪魔参謀長は、穏やかな笑みを浮かべながら考えを口にしていった。



 それから数日。

「かかれ、者ども!」

 深夜になろうかという時間に、悪魔将軍と怪人、戦闘員が四台の軽ワゴンから飛び出ていく。

 その手にペンキを持った彼らは、壁一面の落書きを塗りつぶしていく。

 まずは下地として一色に塗りつぶしていった。

 田舎の地方都市から更に少し外れた地域であるが、それでも不毛な落書きを行う者はいる。

 特に、何かしらのロゴというか、チームや集団と思われるような名前が書かれたものが。

 それらを彼らは塗りつぶしていった。

「ここに我らの跡を残すのだ!」

 地獄将軍の声のもと、戦闘員が作業を開始していく。

 脚立を用意し、高いところからはじめ、結構大きな落書きを消していく。

 慣れない作業でちょっとばかり時間がかかってしまったが、それでもなんとか終えていく。

「うむ、では次にいくぞ」

 事前に見つけていた落書きは結構多い。

 その全てを回りきるのは一晩では難しい。

 だからこそ、時間との勝負になっていく。

 作業道具も含めて軽ワゴンに乗り込んだ一同は、次の目的地へと向かっていった。



 なお、軽ワゴンは事業拡大と資金増大で追加された。

 どちらもかなりの型落ちで、一台十万円余りというべらぼうな値段のものであったが。

 動けばいい、という事でそれらを購入した。



 数日ほどそんな事を繰り返していった。

 その間に潰した落書きはかなりの数になり、塗りつぶした壁はご町内を含めた周辺地域に拡がっていった。

 ただ、これで終わりというわけではない。

 地獄将軍達一同は最初に塗りつぶした壁の前にやってきて、次なる作業にとりかかっていった。

「よし、やれ!」

 指揮の下で戦闘員達が、今度は別のロゴを描いていく。

 この作戦が始まるまでの数日で急遽決まった<秘密帝国ザルダート>のロゴである。

 この地域を誰が支配しているのか示すため。

 彼らは自分達の存在を示す事で、悪の秘密結社としての存在感を出そうとしていた。

 しかし、そうそう簡単に話が進むわけもない。

「ああ、いたぞ!」

 突然の大声に<秘密帝国ザルダート>の一同が驚く。

 何事かと思って振り返ると、一発でそれとわかるほど柄の悪い連中が近づいてきていた。

 全部で五人ほどだろうか。

 いまだに存在していたのかと思えるような不良であった。

 その不良の皆さんが、たいそうご立腹になって地獄将軍達のところへと向かっていきている。

「消したのテメエらかよ」

「ふざけんじゃねえよ」

「分かってんだろうな」

 どうも、落書きが塗りつぶされた事にご立腹のようだった。

 それを察した地獄将軍は、

「構え!」

 号令を出した。

 怪人、戦闘員、そして軽ワゴン運転手あわせて十五人が集まってくる。

 その人数を見て、不良達は自分たちに分が悪い事をさとって青ざめた。

 だからといって地獄将軍も他の者達も容赦はしない。

「かかれ!」

 手にペンキやらはしごやらスタンガンやらを持った彼らは、一斉に不良達に襲いかかった。



 それから数日。

 多少の殴る蹴るはあったものの、不良達はスタンガンなどで無傷でとらえられた。

 地獄将軍はそれらを適当な所に連れていき、数日ほど悪の秘密結社による洗脳────ではなく、お説教を行った。

 言葉よりも過酷な肉体酷使が大半であったが。

 そのついでに様々な情報を聞き出した彼らは、不良達を解放した。

 ただ、解放された不良達も思うところがあったのか、それ以降外で見かける事はほとんどなくなったという。


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