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2-1 彼らは今後の活動について会議を開きます




「では、作戦会議を開く」

 郊外にある中古住宅(ボロ屋とも言う)のアジトで、総統閣下は会議の開始を宣言した。

 悪の秘密結社にあこがれを抱く者達およそ三十人。

 それらが長年の努力の末に結成した秘密結社<秘密帝国ザルダート>。

 名前だけは立派なこの組織は、先日組織として最初の作戦を敢行し成功をおさめた。

 予想とは違った形であったが、彼らが目標とする世界征服に与するものであると判断された。

 だからこそ彼らは次の作戦に移行しようとしていた。

 世界征服計画<極秘戦略ε(いぷしろん)>に沿う形で。



 …………などと言えば格好はいいのだろう。

 実際のところ、彼らの作戦は思いつきや行き当たりばったりなところがあり、計画的と言えるかどうか悩ましい部分があった。

 加えていえば、それらの作戦の基準や方針となる極秘戦略イプシロンであるが。

 これも名前があるだけで、中身は全く存在しない。

 強いていうならば、「世界征服を達成する」という目標、あるいは目的があるだけだ。

 そのためにどんな順序を踏んで、何を手に入れて、という肝心な部分が全く存在しない。

 結成・創立してからまだ日が浅いのだから仕方ないかもしれないが、器だけが存在する形である。

 そもそもが趣味の集まりでしかない秘密結社(自称)だ。

 半分以上本気になって世界征服に向けて行動している事が間違っている。

 それでも彼らは本気になって活動を行っていた。

 経験がないので稚拙な部分はあるが。

 この会議も、本気で彼らの臨んでいた。

 如何にして世界を征服するのかを考えるために。



「とりあえず幼稚園バスジャックは、バスジャックに限定すれば失敗と言えるかもしれません」

 悪魔参謀長という役職を与えられた男が発現する。

「配った資料にも書いてあるが、バスジャックの目的は子供達の誘拐とそれによる要求の強要だった」

「確かにそれは達成されてないわけか」

「うむ。だが、<ε>の観点からすると失敗というわけではない」

 世界征服計画<極秘戦略ε>は、長ったらしいので<ε>の一言に略される事が多くなっていた。

「作戦は戦略を達成するための行動だ。

 それがよりよい形で達成されるならば、作戦そのもの変更も問題ない。

 むしろ、作戦にこだわり過ぎる事で、<ε>から離れてしまっては元も子もない」

「確かに」

「今回、初めての作戦において、図らずもこの事態が浮かび上がってきた。

 作戦は失敗、しかし<ε>としては成功。

 こういった事態は今後も発生すると思われる」

「つまり、作戦を捨ててもいいと?」

「いや、そういうわけでもない」

 質問に悪魔参謀長は首を横に振った。

「作戦は作戦で重要だ。それを達成するための努力を惜しんではいけない。

 よりよい手段があらわれたならともかく、単に難しいからといった理由で作戦を放棄されてはたまらないからな。

 これはこれで今後も重視していきたい」

「では、基本的に作戦はちゃんと達成する必要があると」

「そういう事になる」

 頷く悪魔参謀長の言葉に、参加してる結社の者達がざわめいていく。

 言ってる事は確かにその通りで、何も問題はない。

 しかし実行しようとすれば色々と問題があるのも多くの者には分かっていた。

 若輩の者達はさすがに言わんとしてる事を完全に理解し切れてなかった。

 それでも悪魔参謀長の言わんとしてる事を大雑把に把握はしていた。



「ただ、それも結局は<ε>がどうあるかによってくる」

「つまり?」

「我々が何を求め、何を手に入れるべきなのか。

 そのために何をしていくのか。

 それを定めたものが計画というものだ。

 我々にとって<ε>がそれにあたる」

 全員頷く。

「そして、これがただの飾りなのも確かだ」

 これまた全員頷く。

 少しばかりバツの悪い顔をして。

「確かに大雑把な枠組みはある。

 だが、全体的な大きな方針も、細かな部分の策定もされてない。

 当初はそれで良かったかもしれないが、今はそうも言ってられない」

「そうだな」

「確かに」

「このままじゃあなあ」

 全員が口々に賛同していった。

「何より、このままでは作戦を決めようにも決められない。

 何を達成するために行動するのか、それが定まってないのだからな。

 前回の幼稚園バスジャックも、今考えれば行き当たりばったりだった」

 誰も何も言い返せなかった。

 確かにその通りで、とりあえず一番簡単な事をやろうという事で実行されたのが前回の作戦だった。

 今後もそんな事を繰り返すわけにはいかない。

「わかった」

 総統閣下が口を開く。

「当面、<ε>について検討した方が良さそうだな」

「ええ、それが今は最善かと」

「他の者はどうだ?

 何か意見があれば聞きたいのだが」

 問いかける総統閣下に応える者はない。

 誰もが悪魔参謀長の意見に異を唱える事ができなかった。

「では、これから<ε>の検討に入ろう」

 総統閣下の声に従い、会議はあらたに始まっていった。



 会議はその後も日をまたいで何度も続けられた。

 電話やネットでの話し合いは、情報漏洩の危険があったので禁止。

 秘密結社に関する事は、全てアジトで行う事になっていた。

 なので、この情報化社会において会議の進行速度は予想以上に遅れる事となった。

 その間に、地獄将軍とその配下による幼稚園バスへの訪問は数回に及んだ。

 もはや園児達にとって地獄将軍と怪人・戦闘員は、おもしろい出し物をしてくれる楽しいお兄さん達になっていた。

 悪の秘密結社としては由々しき事態である。

 本人達も総統閣下をはじめとする<秘密帝国ザルダート>の者達も、それを喜んでいたが。

 ただ、時間をかけて行った会議のおかげで、今まで中身がスッカスカだった<ε>がどんどんと形を伴っていった。

 レポート用紙を何冊も何十冊も消費し、必要と思われる情報や資料を何度も幾つもあたり収集した。

 そこから最善と思われる道を見いだすため、様々な考えを出し、それがどれほど使えるかを吟味する。

 そんな事を繰り返して過ぎ去った時間は、世界征服計画<極秘戦略ε>を本当に戦略的な計画に仕上げていった。

 まだまだ世界という巨大なものを支配下に置くための遠大な道を示してるとは言い難いが。

 それでも<秘密帝国ザルダート>に所属する全ての者達にとって、今までで最大の事業であった。

 とりあえずまとめたものだけでも、分厚いファイル数冊分になろうかという物量になっていた。

 それでいて世界征服にはまだほど遠い部分までしかできあがってない。

「世界って大きいんだな」

 作業中に総統閣下が言った言葉が、皆の心に残った。


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