6-1 色々あって彼らは結構大きな存在になりました
「…………これが悪の秘密結社のやる事なのかな」
思い悩む総統閣下は、そう言って今までの事を振り返っていた。
<秘密帝国ザルダート>として活動を開始してそれなりの時間が経つ。
実に濃密で、この一年足らずの期間はそれまでの人生以上に忙しかった。
振り返れば充実していたと思えるほどに。
行動している最中は、とてもそれどころではなかったが。
その間に<秘密帝国ザルダート>は、人口八万人ほどのこの市においてかなりの影響力を放つようになった。
それは良いことである。
最終目標であり、達成するべき到達点である世界征服を目指してるのだから。
成果が早めにあがるにこしたことはない。
しかし…………である。
「どう考えても、悪の秘密結社じゃないような気がする…………」
結果はともかく、活動内容を考えると「悪」と付く組織のものなのかと疑問を抱いてしまう。
最初は確かに悪の秘密結社らしい事をしようとした。
そのために幼稚園のバスを襲ったり、近隣の商店などを襲って制圧しようとしていた。
しかしそれらはなぜか、幼稚園の園児相手のお遊戯にかわってしまった。
町の制圧というか掌握は達成された。
なのだが、それは圧倒的な恐怖による支配ではなく、困った皆さんを助けた事による信頼関係になっている。
「おかしい…………」
総統閣下はそこを悩んでしまった。
そんな調子であれよあれよと色々あって、市内の大半を掌握したのだが。
どうにもそれは、「頼れる存在」としての信頼になってしまっている。
悪の秘密結社であるにも関わらず。
「なぜ、恐怖による支配になってないんだ…………?」
そうなったらなったでゆくべき道は非情に困難なものになっていただろう。
今頃、こうしてお天道様の下をあるいていられたか保証はない。
総統閣下も分かってはいる。
(しかし…………)
それでも「これでいいのか?」という疑問には「違う」と答えたいところだった。
悪の秘密結社である。
総統閣下達は、悪党でなくてはならないはずなのだから。
そうこう思い悩んでると、完全にこのアジトに馴染んでる女子中学生が、
「失礼します」
とお茶をもってくる。
「ああ、ありがとう」と受け取った総統閣下は、お茶をすすりながら考えてしまう。
それを見て女子中学生も「どうかしたんですか」と尋ねてくる。
長く入り浸っていたせいか、<秘密帝国ザルダート>の面々がいつもと様子が違うとすぐに分かるようになっている。
総統閣下もそれが当たり前になってしまっていたので、
「いやなあ……」
と感嘆に話しをはじめてしまう。
「俺たち、悪の秘密結社のはずなのに、これでいいのかなって思ってねえ」
「ああ、その事ですか」
ひどくあっさりと言う女子中学生は、
「いいじゃないですか、みんな頼りにしてるんだし」
と言い切ってくる。
「いや、悪の秘密結社としてはまずいだろ。皆に信頼されてるというのは」
「じゃあ、今からみんなを脅したりするんですか?」
「それもなあ…………。さすがにする理由も必要もないし」
「ならこれでいいじゃないですか」
そんな感じで女子中学生は話しを笑顔で締めくくった。
そうかなあ、と思いつつも相手の笑顔によって、悩んでるのがどうでもよくなってもくる。
総統閣下は深く考える事をやめて、女子中学生の言うとおりにした。
求める方向性は大きく間違ってるように思えるが、目的に照らし合わせれば順調すぎるほど進んでいる。
世界征服にはまだまだ遠いが、着実に支配の手はのびている。
「まあ、これはこれでいいんだろうなあ……」
ただ、どうどうしても悪の秘密結社らしくないと思ってしまうだけで。
それでもここ何ヶ月かで色々な事があった。
市内の様々な業者の再編が終わったと思ったら、今度は世の中の裏側の方々とご対面する羽目になった。
様々な利権やしがらみなどのためであったが、おかげで<秘密帝国ザルダート>はその筋の本職の方々との戦いを余儀なくされた。
対するのが本職さん単体であれば問題はなかったのだが、某大手組織の六次だか七次団体だかというのが問題だった。
そこまでいったら関係がないんじゃないかと思ってしまうが。
だが、メンツが大事のその業界、たとえ直接関係が無くても、関連団体に手を出されたら動いてくる。
仕方なく警察やらインターネットへの拡散やら、市役所から始まって県庁・県警本部やらそのほか諸々への根回しと工作をせざるえなかった。
たった一つの集団(人数50人)を相手に実に大げさな事となってしまった。
それもこれも、関連団体が何百どころか何千人という大所帯であったからである。
ただ、それを乗り越えたおかげで、市内どころか付近の地域一帯にも影響力を持つようになった。
周辺市町村をあわせ、県内の3割ほどが<秘密帝国ザルダート>に関わっている。
このあたり一帯の裏業界の方々を一掃し、空白地帯になった場所をおさえるためやむをえなかったのだが。
そうなったらそうなったで警察などがうるさい所であるが。
この一件で明らかになった癒着や汚職の仲良しこよし状態を暴露。
もともとそうだろうという噂は地域住人の間である程度噂になってはいたのだが。
それらが事実だとはっきりした事で、警察への信頼はがた落ち。
では誰を頼ればいいのか、となった時に出てきたのが、その時の功労者である<秘密帝国ザルダート>だった。
住人達からすれば、面倒な反社会勢力や裏と結託してる公務員よりはマシだと思ったのだろう。
映画や小説の中のようなぶつかりあいや、そちら関連の劇画調の出来事の数々、更には漫画のような汚職などがあったので仕方ない事であろうが。
そんなわけで、警察(および何人かの地方議員や役所の要職者など)すら巻き込んだ事件がおさまる頃には、<秘密帝国ザルダート>が周辺の方々の中心となってしまっていた。
<秘密帝国ザルダート>も反社会勢力のはずなのだが。
そんなわけで危ない橋を渡りきった彼らの勢力はかなりのものとなっていた。
ついでに構成員も300人ほどにまで膨れあがっている。
傘下の企業も人材派遣だけでなく様々な会社をおさめていた。
いずれも零細や中小企業の規模であるが、この近隣では大きな会社となっている。
そのせいで最近は実質的にこの市の支配者言えるような状態になってしまっていた。
だからこそと言うべきか。
思いもがけない相談や話が舞い込んでくる。




