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4-3 彼らは当初の問題を解決できたようです

「これで全部だといいが」

 警察から解放された者達のリストを前に、総統閣下達が思案顔となっている。

 それらの大半にはバツがついていた。

 何らかの形で処分が終わったという印だった。

「こちらの監視から漏れてる者もいるでしょうが、まあ、大半は終わりましたな」

 最初に問題を起こした者達だけでなく、関連しそうな者達は可能な限り洗い出して対処した。

 どこで徒党を組んで攻撃してくるか分かったものではない。

『ここまでしておいてやろう』などという甘い態度で対応してはいけない連中だった。

 関係している者は全て関係者として根こそぎ刈り上げねばならない。

 それこそ、袖すりあうだけの間柄であっても。

 おかげで時間も手間もかかってしまった。

 だが、ほとんどが対応を完了している。

「市内に残ってる者はほとんどいないようですし。

 まあ、今はこれでよしとしますか」

「そうだな。次の展開に備えなくてはならないし」

「ええ。あのロクデナシ共が何かをしでかすのもすぐでしょうから」

 捕らえた者達には、悪の秘密結社流のお説教を行い、さっさと市内から出て行くように言い含めていた。

 また、その行く先についても指示は出してあった。

 下手に拡散するよりは、ある程度方向を絞っておいた方が面倒は少ない。

 指定された地域はたまったものではないだろうが。

「ま、現地の問題児共とつぶし合ってくれればありがたいですな」

 縄張り意識の強いのが不良やロクデナシに共通するところ。

 別の連中が張り込めば騒動になるのは火を見るより明らかだった。

 そうなってくれれば、余計な手間も省ける。

「そっちのほうは、しばらく様子見です」

 また、捕らえきれない者達であるが。

 そのうち何人かは、かなり特殊な私立の学校に入ったという。

 学校とは言うが、収容所のような場所で、卒業まで外に出る事はないのだとか。

 そんな学校が本当に存在するのか、したとして問題にならないのか、と思うが。

 話しを持ち込んできた者は、「世の中、表に出ないような事もあるだろうて」と言ってその話しを終わらせた。

 世の中の知られざる一面を見て、総統閣下は少しばかり背筋が寒くなった。

 また、悪の秘密結社があるのだから、そういうのもあって当然かもしれないとも思った。

 何にせよ、これで暫くは平穏であろうと思われた。



「それよりも、今はこっちの問題をどうにかしないとな」

「はい。

 まさか、これだけ希望者が増えるとは」

 駅前での騒動と、そこからはじまる一連の出来事で、<秘密帝国ザルダート>を知る者達は多くなった。

 彼らが悪の秘密結社であるという事を知る者はいないが、協力者や内通者は格段に増えている。

 また、悪党を追放してくれたという事で、そんな悪党に恨み辛みを抱いていた者達は感謝をしてもいた。

 仲間になると思う者が出てきても不思議はない。

 それらを捌くために、総統閣下達は時間をとられるようになった。

「いや、まさか一気に何十人も来るとはな」

「半分が定年退職をした者達ですが。

 まあ、事務仕事を任せるなら問題ないでしょう」

 実際、社会経験がある者達が多いので、その方面での活躍を期待したいところだった。

 単純な作業員としてだけでなく、後進に仕事を教える先輩としても。

 また、そういった者達が身内の若い者達を連れてきたりもした。

 このご時世ゆえに仕事も見つけられずくすぶっていた者達を。

 何もしないで家にいるよりは良いだろうとの事で、<秘密帝国ザルダート>の作業のいくつかを手伝ってもらったりしている。

 おかげで人手不足問題は一気に解決に向かいそうだった。

 余談ではあるが、戦闘員の訓練などでは、町にある武道の道場などを紹介してもらえた。

 剣道、柔道、空手に拳法、合気道と。

 更には古武術の道場まで様々だった。

 個別に習った者はともかく、今までこういった経験のない者達はこれを機会に習い初めていった。



「ただ、仕事はどうにかしないとな」

「ですよね」

 人手が増えたのはありがたかったが、それらを抱えていくとなると金が必要になる。

 今は近所の農家などの手伝いでいくらかまかなっていたが、それだけではとても足りなくなる。

 ただ、今回の一件でそれもどうにかなりそうだった。

 問題を抱えていたり起こしていた者達を排除した会社や工場からの求人が結構あったのだ。

 それらに、<秘密帝国ザルダート>に来た者達を紹介する事で、問題の大半が解決する事となった。

 結社に所属してる者もおり、稼ぎのうちのいくらかを活動費としてもらえる事となる。

 これにより<秘密帝国ザルダート>の財政はかなりの改善を見せた。

 また、人手を紹介するにあたって、人材派遣業としての起業もした。

 <秘密帝国ザルダート>とは別に、今回の協力者で定年退職した者達に創立してもらった。

 表だった人材確保の問題もこれにて大分軽減される。

 ここに来た者達が<秘密帝国ザルダート>に参加するというわけでないにしても、人員選別のための場所ができたのはありがたかった。

 企業としての利益はギリギリであったが、潰れない程度に存続してくれればよかった。

 創立者の大半が定年退職した後の余暇でやっており、食っていくのに困る事はない。

 それこそ代表取締役社長をはじめとした常務専務の取締役などは、暇つぶしでやってるので給料は小遣い程度で済ませている。

 それは労働基準法などにひっかかるのでは、と心配ではあるが。

「まあ、道楽だから」

という経営陣の声に総統閣下は何も言えなくなる。

 その後どうやりくりしたのか分からないが、とりあえず問題にはなってないようだった。

 人手が足りない所に人員を早急に手当する事もできたので、近隣企業からもありがたがられている。

 能力や技術などは全然足りてないのだが、

「いや、真面目に出勤するだけでもありがたい」

と言われて愕然とする。

 では、今までの連中はどうだったんだと思ってしまった。

 ただ、何はともあれ物事は良い方向に落ち着こうとしていた。



 そんなこんなのとある日の事。

「やあ、どおも」

 八百屋に次いで顔なじみとなったご町内の町内会長がやってきた。

「あ、どうも」

「すまんね、急に来たりして」

 定型的な挨拶を交わしながら後ろについてきた者を見返る。

「この娘がね、どうしても直接会いたいってきかないもんだから」

「お久しぶりです」

 そう言って頭を下げるのは、駅前の催しの準備で絡まれていた女性だった。

 その姿を見て、総統閣下と居合わせた悪魔参謀長達は唖然とする。

「え、あ、あれ?」

「どうかしましたか?」

「いや、その格好」

 無粋に指を向ける総統閣下が示すのは、紛れもない学校の制服。

「学生だったのか?」

「はい、尾宇宮中学です」

 この近隣にある中学校だった。

 その場に居合わせた結社員が全員驚いた。

 見た目は二十歳を超えてるように見える女性だったが、実際にはそれより年下だったのだから。

 そんな結社員一同にあらためて少女は頭を下げる。

「おかげで助かりました」

「ああ、それは、その……良かったよ、うん」

 驚きから回復しきれない総統閣下の返事はつっかえがちだった。

「ご迷惑でなければたまに遊びに来てもいいですか?」

などと問われても、「あ、うん、そうだね」と返すのみ。

 言われた事を理解してるのかもあやしかった。

 が、相手の女子中学生は笑顔で、「ありがとうございます」と頭を下げた。



 その次の日から、その女子は頻繁に顔を見せるようになった。

 特に邪魔をするでもなく、中古住宅のアジトの掃除などもしてくれるので結社としては助かっていたが。

 また、そのうちお裾分けで持ち込まれる野菜などを用いて料理などを作りだしたりもした。

 予想に反してちゃんと食べられる物が出てきた事に誰もが驚いた。

 以降、炊事・掃除・洗濯と家の中の作業のほとんどを取り仕切るようになっていく。

 さすがに<秘密帝国ザルダート>の活動などについては関与しないし、他の者達もそちらについては口をつぐんでいたが。

 それも同じ場所で行動していたら自然と何かしら漏れていく。

 ある時、「どういう活動してるんだすか」といった趣旨の質問をされ、疑問を持った事例を次々にあげられていった。

 隠し続けるのも無理か、と諦めた総統閣下他一同は、自分たちが悪の秘密結社を結成してる事を白状。

「ああ、そうなんですか」とあっさりと納得した女子中学生は、

「じゃあ、私も入ります」

と即座に入会を決断。

 断って追い出すのも情報漏洩の危険があるので、やむなく総統閣下はそれを認める事となる。

 家の中の細々とした事を一手に仕切っており、切り捨てる事もできなくなっていたのも大きい。

 見目麗しい事も、一部(というか大半の)結社員達の支持を集めてもいた。

 総統閣下や悪魔参謀長など年配者達は、「野郎共に襲われる可能性が」と危惧してはいたが。

 そこは結社員同士の相互監視と紳士協定などにより事なきを得ていく事になる。

 ともあれ、人員不足気味だった<秘密帝国ザルダート>は、ここにきて構成員百人に及ぶ所帯となった。

 この他にも、派遣業としてこの三倍ほどの人間を抱え、組織としても財政的にも一気に飛躍する事となる。

 だが、この時最大の異形は、後に悪の女幹部となる少女の加入であると結社員のほとんどが口にする。

 反論はほとんど出なかったとか。



「ところで、これは世界征服計画<極秘戦略ε(いぷしろん)>に照らし合わせるとどんなもんなんだ?」

「そうですね。

 人員の確保と財政基盤の確保については、当初の予定よりかなり早く目標達成ですな。

 制圧地域も、住人の支配……というより協力も得られてますし。

 この数ヶ月で数年分の目標に到達しました」

「うーん、悪い事ではないんだろうなあ」

「ええ。急成長にともなう、組織としての構築がまだまだですが」

 悩ましいところだった。

 どんな部署をつくって、どんな仕事をさせて、どこに何人を割り振るのか、というところがまだ模索中だった。

 それに、組織図として組織を構築しても、中にいる人間に指揮系統や命令・指示の出し方とまだまだだ。

 このあたりは、一人一人が自覚や責任をもっておぼえていかねばならない部分でもある。

 それらはまだまだこれからの積み重ねが必要だった。

「まあ、時間をかけてやっていくしかないか」

「そういう事ですな。

 とりあえず、今は創業期と言うことで踏ん張りましょう」

 悪魔参謀長の言葉に、総統閣下は組織の頂点に立つ難しさを感じた。



「しかし、これって悪の秘密結社らしいのか?」

「いえ、まったく。とりあえずそうは思えないですね」

「だよなあ」

 本当にこんなんでいいのか、と思いながら総統閣下は下からあがってくる書類に目を通す。

 報告書やら計画書やら途中経過報告やら進捗表を手に、ため息ばかりが出てくる。

「仕事もあるのに、どうしたもんだか」

 ぼやいてる暇もないが、言わずにはおれなかった。

 というわけで、女幹部登場です。

 これを書いてる時点では、そういうつもりです。

 今後どうなるか分かりませんが。

 構想段階と、実際の執筆段階では話の展開が変わる事はありますし。


 といったところで、ここでまた一区切りです。

 次もよろしく。

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