表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第1章 運命の胎動  1.生まれついての強運

カール(Karl)の名は、曾祖父に当たるブルゴーニュ公シャルル(Charles)勇胆公に因んで付けられた。ヨーロッパの人の名は、その国の言語ごとに呼び名が変わる。このカールの名前一つ取っても、ドイツ語ではKarl、フランス語では曾祖父の名前の通りCharlesシャルル、これが英語ではフランス語と同じ綴りでチャールズ、後にその地の国王となるスペイン語ではCarlosカルロス、フランス王と争うことになるイタリアではCarloカルロである。


この男はその人生の中で、ほぼ全ヨーロッパが活動の舞台となったから、行く先々でその地の言葉で名前を呼ばれたのであろう。この物語では、滞在期間はさほどでもなかったが、その人生の中では最も重要な地位となった、神聖ローマ帝国皇帝としての名前、ドイツ語の「カール」で通し、必要に応じて、スペイン語の「カルロス」で呼んでいくことにする。


カールの両親は歴史上、さほど大きな事績を残していないが、父方の祖父には神聖ローマ帝国皇帝・マクシミリアン1世、母方の祖父がアラゴン国王・フェルナンド2世、祖母がカスティーリャ女王・イサベル1世、カトリック両王である。


この出自だけを見ても、この男は生まれながらにして「何かを持っている男」であったのだろう。


フィリップとフアナは6人の子をなした。カールはその2番目の子であるが、上は姉のエレオノーラ、下は妹のイサベラ、マリア、次男のフェルディナント、末っ子はまた妹のカタリーナ。つまり長男である。


ヨーロッパに限らずどこの国の王室でも、その存続のカギとなるのが、


●後継者となる男子が生まれるか

●その男子が健康で、一定の寿命を保つか

●その男子が有能であるか否か


である。


生まれてくるのが男子か女子かは、人力では左右できない「神の領域」である。仮に男子が生まれたとしても、医学の未発達や栄養状態などにより、その男子は本格的に人生を歩む前に神の下に召されてしまうことが、現代よりもはるかに多い。


そしてこれらの難関を幸運にも突破して、一定の年齢にまで成長したとしても、その者が一家を統御して、その領地の住民を手なづけて収益を上げ、更には複雑な利害が絡み合う国際政治の舞台を渡り切って行くだけの力量があるかとなると、これまた未知数である。


つまりこの時代の各王室・諸侯は、生まれてくるのが男子か女子か、ある個人の寿命の長短、能力の有無など、極めて個人的な属性に頼っていた、と言えるだろう。


逆に考えれば、これらの難関を突破して君主となり得た者は、非常な強運の持ち主、と言えるのであろう。そしてある面では組織の長、特に国家の君主の座に就く者は、強運の持ち主でなければならない。その長が不運な人間であると、その一家はもちろん、その所領の住民たちもとばっちりを喰うのである。


官僚制という組織が整備された時代であれば、君主個人の力量と運に左右される要素は、だいぶ減るのであろう。だがこの時代の君主は、統治者としての力量はもちろんのこと、その個人的な事柄に属する部分に置いても、「強運」であることが求められた。


父方はハプスブルク家、母方がスペイン王室に連なる血筋に生まれ、結果としてこの時代においては比較的長命な58歳まで生きたカールは、この「強運」の部分はかなりの程度で持ち合わせていたと言えよう。


だがその人物がその時代、その社会の中でどの程度まで上昇するかは、個人的な力量や運以外にも社会情勢、時代の趨勢にもよる。「もし別の時代に生まれていれば…」などという表現が、そのことを表しているかもしれない。もっとも、どのような社会・時代に生を受けるかも、「強運」ということになるのかもしれないが。


そこでまずは、後にカールが君臨することになる、15世紀末から16世紀初頭のヨーロッパ大陸の情勢を見ておくことにする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ