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プロローグ 新しい時代の始まり

日本で「西暦」という、ヨーロッパの暦が採用されるようになったのは、もちろん明治以降である。それからは、この西暦における100年単位の節目、1899年から1900年、1999年から2000年というタイミングでは、何か特別な感覚、時代の変化を意識するようになった。


まだ比較的記憶に新しい1999年を振り返れば、地球の滅亡を予言するオカルト的な言辞が人々の話題をさらったりもした。その時点で繁栄を謳歌している者は、この節目にその繁栄が衰退へとシフトチェンジするのではないかと不安を感じ、逆に不遇をかこっている者は、虐げられし者の反逆がこれから始まると気炎を上げる。


もちろん、時計の針が1999年12月31日から2000年1月1日に進んだ時点で、何か急激な変化が起こった訳ではない。だが「この世で唯一変化しないことは、全ては変化するという法則のみ」と言われるように、各人の人生、社会の行方、そして国家の盛衰も時の進行とともに確実に変化していく。


日本人がこのような、西暦における100年の区切り、いわゆる「世紀替わり」というものを経験したのは、19世紀~20世紀と20世紀から21世紀の2度だけである。それ以前は、この国には「西暦」という概念はなく、この国独自の「元号」が時間を統べており、それは現在でも西暦と併用されて用いられており、これからも続いていくであろう。したがって明治以前は、改元による人心の刷新はあっても、西暦の100年区切りは全く無関係の出来事であった。


それに対してヨーロッパでは、キリスト教徒いう宗教がこの地域における圧倒的主流をなす信仰となって以降、100年を単位に世紀が変わる、という暦の運行に慣れている。


ところがそのヨーロッパにおいても、ある世紀の区切りがいつなのか?いつから新しい世紀が始まるのか?ということが、世紀の変わり目が近づく度に議論されてきたようである。


例えば21世紀は2000年1月1日~2099年12月31日なのか、それとも2001年1月1日~2100年12月31日までなのか、ということである。公式な区切りとしては、「西暦0年」という年が存在しないために、西暦1年~100年が「1世紀」となり、以降「01」の年~「00」の年までが一つの世紀、として区切られてきた。


議論が始まったのは、カトリック教会が定めた「聖年」という制度が始まったことによる。一番最初の「聖年」は西暦1300年、時のローマ教皇ボニファティウス8世が定めた。この「聖年」の年にローマを巡礼した者には、神の特別の赦しを与える、というものである。以後、変則的に行われる時もあったが、西暦1400年以降は概ね25年ごとに、「聖年」がその時のローマ教皇によって定められた。


当たり前ではあるが、「00」で終わる年から25年ごとに制定されると、その4回後にはやはりまた、「00」で終わる年が「聖年」に当たる。西暦1500年もまさしくそうで、時のローマ教皇・アレクサンデル6世により、「聖年」とされた。


そこで一部の者が、「この聖年が一つの世紀の始まりとなるべきではないのか?」ということを言い出したのであろう。ちょうど「世紀の区切り」論争は16世紀頃から、つまり西暦1500年の頃から始まったようである。


その「世紀の区切り」論争が行われていたであろう1500年2月24日。現在はベルギー領であるフランドルのガンにおいて、ブルゴーニュ公フィリップとスペイン王家出身のフアナの間に、一人の男子が誕生した。この男子は数日後、聖ヨハネ教会で洗礼を受け、「カール」と名付けられた。後にスペイン国王にして神聖ローマ帝国皇帝となる「カール5世」、スペイン国王としては「カルロス1世」の誕生である。


この物語は、1500年の「聖年」という区切りの論争は別にしても、時代の変わり目を感じさせる年に生を受け、現在のスペインからドイツの間のヨーロッパ大陸の大半を支配し、中世から近代へと移行していこうとするヨーロッパの中で、まさしくそれに符牒を合わせるように激動の人生を送った、一人の男の物語である。この一人の男の人生を通して、ヨーロッパが世界の片隅から、まさしく「世界の覇権」を握っていく最初の過程をも、垣間見ることになろう。

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