表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

幼女のおわり


「しかし大きくなりたいアリアが食事の量を減らすのは、年頃の女の子とはいえ感心できないぞ!」

俺は気をとりなおし、保護者としての俺を全面的に出してみた。

「だいじょーぶだよ。もりでどうぶつをつかまえて、たくさんたべてるから!」


 …あぁ、あのとき食ってたのって、木の実とかじゃなくて森の動物かよ…

そこで俺は、あることに思い当たった。


「もしかしてあのやせ細った狼たちって、アリアに動物を食べられてエサが足りなかったんじゃ…」

「う~ん、そういえばこのごろ、どうぶつが少なくなってきたよーな気がする…」

「………」

狼たちよ、ごめんなさい。

しかも餌を全部とられたばかりか、自分たちもが餌にされるなんて…。

俺は、あのとき自分が餌になってやるべきだったのではと悔やんだ。



「アルおにーちゃん、このもりのどうぶつたちがいなくなる前に、おひっこししよう?」

俺はアリアの無邪気な提案に考え込んだ。

確かにこのままじゃ森の生態系を壊してしまう。

…いや、もう壊している。

そしてあの村にはもう行けないとなると、生活をしていくには難しくなるだろう。


「よし! 引っ越すか!」

「うん!」


 アリアは嬉しそうにうなずくと、元気よく外に飛び出していった。

外からアリアの、「みんな、さよ~なら~!」という馬鹿でかい声が聞こえる。

この森や動物たちに別れを告げているのだろうか。

そんなアリアの可愛らしさに、俺は微笑んでお茶に口をつけた。


「アルおにーちゃんはもういなくなるから、あとはすきに、にんげんをおそっても、いいからね~!!」


 俺は口に含んだお茶をふきだした。



 家の入り口の外からアリアが顔をのぞかせた。

「アルおにーちゃんはもう忘れ物はない?」

「あ、荷造りをしないとな…」

俺がそう返事をしたときだった。


「じゃあ、いっくよ~!!」

アリアの姿が消え、いきなり家が激しく揺れだした。


「地震か!? アリア、大丈夫か!!」

俺は慌てて玄関から出ようとするが、扉がいくら押しても開かない。

「くそっ、ゆがんだのか!?」

まだゆれは続いている。

俺は足をとられながらも、窓辺に駆け寄って外のアリアを見た。


 窓から見えたのは、一面真っ青な空だった。

「ア、ア、ア、アリアァァァアア!?」

「アルおにーちゃん~、しっかりおうちにつかまっててね。いまおそらをとんでるから、おうちがグラグラしてあぶないよ?」


 アリアはドラゴンの姿になり、飛びながら家を運んでいるようだった。

「ねぇ、アルおにーちゃん? …ふたりのあいの巣は、どこがいいかなぁ…?」

恥ずかしそうなアリアの声が聞こえる。

愛の巣ってどこでそんな言葉を覚えたんだ…、あぁ、そのまんまの意味か…。


「うみのちかくがいいかな? おしろのちかくがいいかな?」

「俺は木こりだから、人里はなれた森の中がいい!」

放っておくとどこに連れて行かれるかわからなかったので、俺は慌てて窓をあけて叫んだ。


「ひとのいないところで、ふたりきりでくらすんだね。アルおにーちゃんったら、もう…」

アリアの嬉しそうな声が聞こえる。

もう…ってなんだよ!

お前のその発想、赤ん坊の発想じゃねえよ!




 そして俺たちは新天地にたどりつき、元のような生活をはじめた。

たまたまその土地の木こりが年老いて後継者を探していたようで、俺たち拍子抜けするぐらいあっさりとその土地の人たちに受け入れられた。

仕事に対しては真面目だが、常に幼女をはべらせた怪しい木こりとして。


 そしてアリアがその森の動物を食べつくしそうになると、そのたびに家ごと引越しをした。

その先々で受け入れられたり受け入れられなかったりと反応はさまざまだったが、その全てが俺を幼女趣味の危ない人と白い目で見た。

これもあと100年ほどの我慢だと、俺は自分にいいきかせて必死で耐えた。



 極たまにだが、アリアと同じドラゴンにあったこともある。

それは人の姿をしていたり、獣の姿をしているものもいた。

事情を知っているはずのそいつらも、俺のことを幼女好きの変態と白い目でみた。

詳しく訊くと、ドラゴンにとって養い親とつがいになることはありえないのだそうだ。

養い親と同じ姿をするのは成竜するまでで、その後は種族を問わずにつがいになったり、つがいにならぬまま気ままに生きたりするのだそうだ。


 つまり、俺は養い子を自分の妻にしようとする変態だと、ドラゴンたちにも認識されていた。

それはアリアが変態なのであって、俺の意思はそこに無いことを必死に説明したのだが、俺の理解者は人間にもドラゴンにもいなかった…。



 夜にひっそりと一人で涙を流すこともあった。

そのたびにアリアは俺が泣いていることに気付いて、「アルおにーちゃん、またもらしちゃったの?」と

俺のズボンとパンツをむりやり引き剥がした。

お前、絶対わざとだろ!!




 そして200年がたった。



「アル、おはよう。」

すっかり立派な成竜となったアリアが、俺にキスをして起こしてくれる。

エプロンをして大人の余裕すらただよう。


「…あぁ、アリアおはよう。いい匂いだな。」

「ふふっ、もう朝ごはんできてるわよ。早くしないと冷めちゃうわ。」

「あぁ、すぐに行くよ」

そう言う俺に、もう一度キスをしてアリアは台所に向かった。


 その台所には、いまだ踏み台があった。

ひとつ、訂正をしよう。

アリアのエプロン姿は、子どもが精一杯背伸びをしているように見えた。



 アリアは成竜になったが、背は少し伸びただけで、身体も申し訳程度のふくらみが出ただけだった。

幼女から成長して、少女のような姿になった。

つまり…個人差(個竜差?)で、アリアは少女めいた姿のまま成竜になった。

しかもドラゴンは、成竜すると外見の成長がとまるらしい。

そして死ぬ直前にドラゴンの姿にもどり、卵を産んで生まれ変わるのだそうだ。


 更にアリアはたまに昔の癖で俺のことを『おにーちゃん』と呼ぶ。

しかも甘えたい時に限ってそう呼ぶので、まるで俺がいけない人間のように聞こえる。


 俺はそれからも、幼女趣味、いや、少女趣味の変態として、更に妹趣味のド変態として白い目で見続けられた。

事情を知らない人間にも、事情を知っているドラゴンにもだ。


 たまに、俺のことを友と認めてくれる人もいた。

その人たちは全てが幼女、少女趣味の方々で、俺は丁寧にお付き合いをお断りした。



 いっそのこと竜の姿でいたほうが変な目でも見られないのではと、アリアに変身してもらったことがる。

俺がおもわず「竜の姿も可愛いな!」と声をかけると、「いやだ、アルったら~」と照れたアリアがぶっとい尻尾で俺をはたいた。

俺はふっとばされ、全身複雑骨折と内臓破裂をして1週間寝込んだ。



 成竜になったアリアは前の竜だったころの記憶を少し思い出したようで、ベッドの中で寝物語としてたまにぽつりぽつりと話してくれた。

アリアになる前は、爆乳のお色気美女だったらしい。

決まったつがいをつくらずに、さまざまな種族と恋愛をして楽しんでいたようだ。


 …俺もそっちが良かった…。

俺が口には出さず心の中で愚痴を吐き出した瞬間、俺を見つめるアリアの金色の瞳の瞳孔が、縦に縮むのを見てしまった。

俺は片方しかない玉がキュッと縮むのを感じた。



 アリアは話し続ける。

その爆乳竜は死ぬ間際に卵を産みながら、「今度はロリ体型もいいかも…」と思ったそうだ。


「私がこんな感じで成長したのも、それが関係あるのかもね」

そう言ってアリアは締めくくった。

いや、何かを期待するような目で俺を見つめている。

金色の目が闇の中で、俺をただひたすらに見つめている。


「…アルおにーちゃんがたくさん揉んでくれたら、お胸はまだ成長のよちはあると思うの…」


 声は恥じらいを存分に含み愛らしかったが、その目は捕食者の目だった。


 …揉むぐらいの胸もないじゃないか…


 思わず無意識に口から出かけた切実な思いは、アリアの噛み付くようなキスに飲み込まれた。




 そうして、俺とアリアはあいかわらず白い目で見られながら、300年、500年と幸せに暮らしましたとさ。



 最後に、世界の中心でひとことだけ叫ばせていただきたい。



「俺は、変態じゃなぁぁああああああいいいいいいいっつ!!」



                              

                               おしまい!



最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ