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その5

 それから1年がたった。

アリアは出会った頃とあまりかわりないように思えた。

今は家事全般をアリアがしてくれる。

調理も掃除も洗濯も、とても上手になった。

だがあいかわらず台所には踏み台があり、机の前には子供用の椅子があった。


 今まで俺の2倍だったアリアの食べる量は、今では俺と同じぐらいに減った。

どこか体の具合が悪いんじゃないか聞いたが、

「おんなのこだから、そんなにたべなくてもいいの!」

としか言わなかった。

お年頃ってやつなのだろうか、俺は娘をもつ父親のような寛容な思いでアリアの好きなようにさせておいた。

ある日たまたま森の中で何かを食べているアリアを見つけたので、俺に隠れて木の実や果実を食べているのだろう。

年頃の女の子ってのは大変なもんだ。


 アリアは幼女のままだった。

風呂はまだ一緒に入っていた。

あいかわらず凹凸のない身体で、村長に栄養が足りないのか相談したが、変な目でみられただけで解決策はくれなかった。


 ちなみに村長にあの日のことを聞いたが、真っ青な顔をして首を振るだけで何も教えてくれなかった。




 それからまた2年がたった。

アリアはあいかわらず凹凸のない身体をしていた。

しょうじき男なのかと疑ったが、下になにもついていないのは風呂場で毎日確認済みなので、たんに個人差なのかとあまり気にするのをやめた。

背もほとんど伸びていない。


 そしてもうひとつ、俺もなんだか髭や髪の伸びが遅くなったような気がした。

いつもボサボサになるまで放っておくのだが、前に切ったのはいつだっただろうか?

アリアに「俺の髪と髭、伸びるの遅くないか?」と訊くと、アリアはにっこり笑って、

「アリアはどんなアルおにーちゃんもすきだよ。」

と答えたので、俺も気にしないことにした。




 それからどのくらい経ったか、アリアの背はほんの、ほんのごくわずかだけ伸びていた。

凹凸は…うん、個人差だから触れてはいけない。

まだ少女というよりは、断然、幼女というほうが当てはまった。


 アリアを拾ってからだいぶ経つと思うが、俺は村長のところに、アリアを探している人はいないかを聞きに行くのが習慣になっていた。

もちろんアリアと離れるのは寂しいが、アリアに本当の家族がいるのなら返してやりたいのも本音だ。

そして、俺がアリアに邪なことはなにもしていないという、身の潔白証明のためにも通っていた。



「しばらく村長のところに行ってないな。今日あたり、行ってみるか。」

アリアは俺の言葉にきょとんとしていたが、

「村にでーとにいくの? とってもひさしぶりだね!」

とニコニコして喜んでいた。


 アリアにとって村長のところに行くのは、俺とのデート感覚でしかないようだ。

おめかしをしに奥の部屋にいくアリアを見て、俺もなんだかうきうきしてきた。

俺もおめかししようと、仕事用ではなく外行き用のベストに着替える。

おめかしとは言っても、俺の髭はあいかわらず伸ばしっぱなしのもしゃもしゃだ。

アリアが髭をもしゃもしゃと触るのが好きなため、切らないでいた。


「じゃ、行こうか。」

「うん、ねぇアルおにーちゃん?」

「なんだい、アリア」

「アリア、かわいい?」

「あぁ、この世で一番かわいいよ!」


俺は本気でそう思っている。


「アルおにーちゃん、だいすき!」

アリアは組んでいた俺の腕を勢いよく引っ張り、俺は肩の関節が外れその衝撃により後頭部を地面に激しくぶつけて倒された。

アリアは倒れている俺にまたがり、俺の顔に両手を添えいたるところにキスをした。


 最近、アリアのスキンシップが激しくなっている。

これも俺にすっかり馴れた証だろうから嬉しいのだが、子ども特有の手加減のなさで俺の身体は

そのたびに結構なダメージを受けていた。


「こら、アリア、どきなさい。」

俺は慣れた手つきで肩の関節をもどし、いまだに短い丸太よりも軽いアリアを持ち上げて腹の上からどかし、起き上がった。

痛む後頭部に手を当てると思ったとおり結構な量の血が出ており、倒れていた地面には血の水溜りができていた。


「アリア、もうちょっとおしとやかにならないといけないよ?」

俺は優しく叱った。

俺を好きなゆえの行為なので、どうしてもきつくは言えない。


「…はい、ごめんなさい…」

優しく言ったつもりだったが、アリアは花がしおれるようにうなだれてしょげている。

小さなつむじが見え、愛おしさがこみ上げる。

俺はそっとアリアのつむじにキスをおとした。

アリアは驚いて俺の顔を見上げた。

あぁ、そんな仕草のひとつひとつが可愛いな。


「反省してるならもういいさ。アリアが俺のことを好きでいてくれている証拠なんだからな。」

「ありがとう! アルおにーちゃん、だいすき!」

アリアは学習したようで、先ほどよりも勢いを殺して俺に飛び掛ってきた。

俺も慣れたもので、アリアが飛びつく瞬間、腰をおとして足を開いて踏ん張り、衝撃に耐えた。


「ははっ、アリアはおりこうさんだな! 今度はちゃんとできたぞ!」

俺はアリアのわきをかかえ、高い高いをしてやった。

アリアは無邪気に声をあげて喜んだ。

だが、アリアは俺の後頭部を見て悲しげな顔をした。


「アル…血で髪と服が汚れちゃったね…」

頭の傷はいつの間にかふさがり血も止まっていたが、ずいぶん流れたために髪も服もひどいありさまだった。

「だいじょうぶ、頭をさっとあらって着替えればいいさ。」


 アリアと一緒になってから、流血沙汰は日常茶飯事だ。

傷だって一見ひどいように見えるが、気付いたときにはいつも治っている。


 俺ももう手馴れたものでささっと身支度をしなおすと、村長宅をめざしてアリアと歩いていった。




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