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その1


 俺の名前はアルバート、きこりだ。

森の木を切っては村の人々に売って生計を立てている。

仕事のためでもあるが、俺は人付き合いが苦手なため森で一人で暮らしていた。

そんないろいろな事情により、30も近いが俺は一人身だった。

私は身体に恵まれていたため人よりも体格がよく、やや伸びかけの髪とヒゲもあいまって村の人からは「熊のようだ」とよく笑われ、子どもたちからは泣かれていた。


 ある日、いつものように木を切っていると、後ろの茂みが音をたてて揺れた。

俺はギョッとして今まで木に振るっていた斧を構えた。

その音はウサギやリスのような小動物ではなく、ちょうど子どもぐらいの大きさにそうとうする獣のようだったからだ。


 しばらくガサガサと葉が揺れ、俺の斧を握る手に汗がにじんできた。

そして茂みから出てきた動物を見て、俺は情けない悲鳴を上げた。


 それは、全裸の幼女だった。

4,5歳くらいで、ここらでは珍しい褐色の肌に腰まである乳白色の髪、俺を見つめる瞳は金色に見えた。

顔は村の子どもたちとは比べようもないくらい、恐ろしく整っていた。


「な、な、な、なんだい、君は?」

俺は幼女に声をかけ、自分がまだ斧を握り締めていることに気付いて、慌てて幼女から見えないように背後の足元にそっとおろした。


 俺が慌てている間も、幼女はじっと俺のほうを見ていた。

その幼女の視線には、俺を怯えるような様子は一切なく、子どもに会えばほぼ全員に泣かれる俺にはとても新鮮だった。

「私が怖くないのかい?」

「…?」

幼女は答えずに首をかしげた。

どうやら言葉がつうじていないようだった。


 しかしこんな森の中に全裸の幼女が一人でいるとは、親とはぐれたにしてもおかしい。

ここらで見かけない容姿からして、なにやら事情のある幼女のようだ。

そして人付き合いを避けて森に一人暮らししている俺が、こんな全裸で無垢な幼女と一緒にいるとなると、かなりの誤解をまねく。

俺の家に子供服なんてないが適当に衣服をみつくろって、早急に村で保護してもらう必要があるだろう。


 そう俺が考えていると、幼女から豪快な腹の音がきこえてきた。


「…腹が減っているのか?」

「…?」

幼女はまた首をかしげるだけだった。


 俺は幼女を驚かさないようにゆっくりと、木の株に置いてあった弁当を取る。

中身はパンに野菜を挟んだだけのサンドウィッチだ。


「これ、食べるか?」

「!!!!!」

幼女は俺のサンドウィッチを見たとたん、獣が獲物に襲い掛かるように弁当に飛び掛ってきた。


「うおぉ!!」

幼女のあまりの剣幕と勢いに、俺は腰を抜かしてしまった。

幼女はちゃっかりと宙にとんだ弁当を確保し、抱え込んで凄い勢いでかっこんでいた。


「おいおい、あまり急いで食べると喉に詰まるぞ…」

「…ぐっ!」

幼女はいきなり喉をおさえて目を白黒しはじめた。


「おぉい! 言わんこっちゃない!」

俺は慌てて水を入れてある木の筒を手に取ると、幼女の口に当ててやった。

幼女の薄くいろづいた唇が水を飲むために軽く開き、飲み込む細い喉がこくこくと動くのを見守って安心した。


 幼女は満足そうにはふぅ、と息をはいた。

見れば弁当は空っぽだった。

「おいしかったか?」

幼女はもちろん返事をすることはなく、しかし首をかしげることもなく、目をキラキラさせて弁当をつき返してくる。

いや、もっとよこせと言っているのか?


「…まだ欲しいのか?」

幼女は何も言わず、ただキラキラした目でじっと俺を見上げてくる。


 …なんだかその無邪気な顔を見ていると、俺が何かいけないことをしているような罪悪感に襲われてくる。

しかも、こんなところを村人に見られれば、いや、俺が自分で見たって犯罪者と幼女の図だ。


「…とりあえず、俺の家に行こうか…」

自分で言いながら、なんて犯罪者くさい言葉なんだ、と頭を抱えたくなった。

いや、この構図ならなにをやっても今の俺は犯罪者だろう。


 幼女は不思議そうに俺を見ていたが、俺が荷物をまとめだしたのを見て移動するとわかったのだろう。

いきなり俺の腕に飛びついてきた。


「ひやぁぁあああああ!!」


 静かな森に悲鳴がとどろいた。

鳥たちが驚いて飛び立っていく。


 悲鳴はもちろん俺のものだ。

全裸の幼女が俺の腕にしがみついてきたため、自然俺の手が幼女のすべらかな素肌に押し付けられる。

俺がパニックになりながら幼女をふりはらおうと必死になったが、幼女はそんな俺にムッとした顔をしながらよけい力をこめて俺の腕にしがみついてくる。

その小さな姿からは思いもつかないほど、幼女の力は強かった。


 やがて俺は力を使い果たし、腕に幼女をくっつけたままその場にへたりこんだ。

動かなくなった俺をみて、幼女は満足げに笑顔を見せた。

それはとても愛らしい笑顔だった。

全裸で俺にくっついてさえいなければ、いつまでも見ていたいと思わせる笑顔だった。


「一緒に行こうか」

俺は幼女の生肌背中を、いやらしくならないように軽くたたいた。

幼女は俺を不思議そうに見上げたが、俺が引き剥がそうとしないことに安心したのか、笑顔で一緒に歩いた。



 俺は誰にも見つからないことを祈りながら、全裸の幼女を腕にくっつけて急いで家路を帰った。

腕や手に伝わる幼女の身体の柔らかくて暖かい感触を精一杯あたまから追い払いながら…。




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