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銀髪美少女のパンツ

 では俺の今までで最も不思議な出来事の話をしよう。

 それはつまり、ロロがはじめて現れたときの話だ。

 その日、俺が学校から帰宅して部屋の電気をつけると、何かがパソコンの前に置かれていた。

「こっこれはっ」

 その謎の物体、それは紛れもなく俺のパンツであった。脱ぎ散らかして出ていったのである。いつものことだ。

 まあとにかく俺は飯を済ませ、パソコンでパンチラ画像を検索しはじめた。

 ここまではいつも通りだ、何の不思議さも無い。

 だがふと背後に気配を感じた俺は、振り返ろうか振り返るまいか悩み始めた。誰もいるはずがないのだから振り返る必要は無い、だがもし何かいたら怖いじゃないか、その意味でも振り返らない方が、でもやっぱり気になる。と一分ほど苦悩した後、どうとでもなれ、という思いで振り返った。

 だがそこには何も無かった。いつも通りのつまらない玄関があるだけだ。

 やっぱり気のせいか。そうだよな、とパソコンに視線を戻そうとしたとき。

 隣に誰かいた。

 黒いドレスを身に纏った、銀髪の少女がいたのだ。とても険しい表情をして。

 俺は固まった。だっておかしいだろう、今までいなかったし、誰かが入ってくるような状況は一切無かったのだから。その証拠にドアも窓も閉まったままだ。

 俺はなんとか気を取り直そうと、パンチラサイトを閉じ、検索サイトを開いた。なぜならもし隣に少女がいた場合、パンチラサイトを開いていることは教育上良くないのではないかと思ったからだ。それくらいのことは俺も心得ている。

 しかしだとすると、俺は少女の存在を認めたということになるのだろうか? そう、認めざるを得なかった、だってやはり何度見てもいたからだ。パソコンの画面を鋭い眼差しでじっと見つめている。

 そして十分ほど、なんとなく何の興味も無いページをだらだらと見ていた。なかなか勇気が出なかったのだ、相手が少女とはいえ、通常の状況ではないのは確かだと感じていたからだ。幽霊? 宇宙人? それとも幻覚なのか?

「え、だ、誰? なんでここに?」

 俺は勇気を振り絞って少女に声をかけた。妹以外の少女に声をかけることは今までの人生で初めてである。ちょっと声が震えていたかもしれない。

「黙れ! 貴様のようなクズと話すことなど何も無い。足の裏にかいた汗で、滑って転んで死ぬがいい」

 そして俺は、いきなり罵倒された。

 一体何なんだ、初対面でこの仕打ち。ご両親はどんな教育をなさったのだろうか、親の顔が見たい。きっとお前達の娘に対する扱いがよくない、もっとお姫様のように崇め奉れと学校に怒鳴りこんでくるような、モンスターペアレントに違いないよ。

 でもこのまま放っておくというわけにもいかない。やはり気になってしまう。パンチラサイトも見れないし。

「え、ええと。名前はなんていうの?」

「は!? わらわの名前を知ろうなど千年早いわ。たわけが」

「じゃ、じゃあ、い、家はどこなのかな? お母さんは?」

「わらわはこの家に住んでやることにしたのだ。光栄に思え、下等生物が。だが親のことは聞くな! 絶対だ!」

 ここに? いやそれはまずいんじゃ。幼女を連れ込んだとなったら、高校生といえども逮捕は免れないよ。少年院行きだ。『十六歳少年六歳女児を監禁』『ちょっといたずらしようと思って。軽い気持ちで』っていや、思ってないです、やりませんから。それに生活費だって一人分しかもらえないし、学校だってあるんだから面倒なんて見れないよ。

「ここにって、無理だよ~。帰っておくれよ~」

「案ずるな、貴様の考えなどお見通しだ。わらわは貴様にしか見えぬ。怪しまれる心配は無い。それに食事や生活用品などの出費も不要だ。それなら問題なかろう」

「ええっ、見えないって。そんなわけないでしょ。それに食べなきゃ死んじゃうんだよ」

「まったくバカの相手は面倒だ。ではこれを見るがよい」

 少女はすっと立ち上がり、パソコンに向かって歩きだした。するとなんと、パソコンをすり抜けて向こう側に行ってしまったのだ。

「どうだ、これで信じるか? わらわの言うことを」

 そう言って、手を壁に突っ込んだり抜いたりしながら、こちらを睨み付けている。

「こ、これはどういうこと」

 と彼女に手を触れようとしたら、

「無礼者、触るなっ!」

 手をはたかれた。なんで? 俺だけは触れるって事? わけがわからなくなってきた。

「まあ、貴様の許しなど無くても問題はないがな。わらわはここに住む。これは決定事項なのだから」

 とこちらに戻って来る途中、

「ぬおっ」

 パターン。

 少女は派手にすっころんだ。俺の伸ばしていた足に引っかかったのだ。いやわざとではない、事故である。不幸な事故なのだ。

 だがそれによって、もう一つ驚愕の事実が明らかになってしまった。

 なんと彼女はノーパンだったのである。転んだ勢いでスカートがめくれ上がり、プリッとした弾力のあるすべすべのお尻が露になってしまったのだ。

「き、貴様! このような恥辱!」

「いや待って! そんなことより、パンツははかないの?」

「パンツだと? 不要だ。保温も保湿も遮蔽も不要。邪魔なだけだ、あんなものは」

 その言葉に、パンツの中身よりパンツが好きなパンツマスターである俺のハートに火がついた。

「だめだよ! パンツは大事だよ! いいかい、パンツの役割には確かに大事なところが見えないように隠したり、保温・保湿、ウィルスや細菌から守ったり、汗や尿なんかを吸収したり、ものによっては体型を矯正したりいろいろあるだろう。だけどそれだけじゃあないんだよ、一番大事なのは心なんだよ。そう心、それはつまりそれを見た時に感じられるはいている人の心なんだ。見せるためにパンツをはいているんじゃあないって? そう、だからこそだよ。見せるためにはいているのではないからこそ、その人の真の姿を示しているんだよ。まあ見せるためのパンツもある、見られてもいいパンツも。それはそれでありがたく拝見するが、しかし本道はやはり見せるためではないパンツであり、パンツにこめられたその女性の気持ちがひしひしと感じられるからこそ素晴らしいんだよ。パンツにはいろんな形がある。ノーマル・ビキニ・Tバック・ボクサータイプ・ローライズ・紐パン。そしていろんな素材がある。綿・絹・ナイロン・ウール・ポリエステル・ポリウレタン。そしていろんな色柄がある。白・黒・赤・緑・青・黄色・グレー・ベージュ、さらにボーダーや水玉、チェックや花柄、文字や動植物なんかのプリントもあるだろう。あとはリボンやフリル、レースやシースルーなんかの装飾もある。そんな多種多様な中から選択されたその女性のパンツ、それこそがその女性の内に秘めた思いを代弁するものであり、それを垣間見ることが喜びなんだ。パンツなくして女性は語れないんだよ。今日はどんなパンツなんだろう? 常にそう思っていても滅多に見ることはできない。しかしもし万一奇跡が起きて俺の目にパンツが映し出されたとき、パンツを通してその人を思いを知ることができるんだ。そう、まさにパンツこそが真の女の子の姿なんだよ。だからノーパンなんていけません。ノーパンも一つの自己主張、確かにそうともいえる。だが俺は認めるわけにはいかないんだ。ノーパンはパンツへの冒涜であり、邪道だ。あくまでもパンツあってのものなんだよ。わかったかい?」

「貴様……そこまでの……パンツバカとは……」

 少女は呆然とそこに座っていた。完全にあっけにとられている。だが俺の熱い思いはまだ収まりはしなかった。

「パンツをはいてくれるかい?」

「断る」

「どうしても?」

「断る」

「仕方がない、俺のパンツをはいてもらうか。男のパンツを無理にはかされている。そんな状況もなかなかいいじゃないか。違和感がたまらない」

「ふざけるな、貴様」

 さっき片付けた俺のパンツを取り出し、少女に迫る俺。今警察に踏み込まれたら完全にアウトだろう。

「わかった! わかった! これでいいだろう」

 少女がドレスの裾をたくし上げると、黒いフリルのついたはき込みの深い、いわゆるズロースが現れた。ドロワーズともいう。

 なるほど、どうやら服も自由に変えられるってわけか。

 確かにそれが、見た目とも服とも合っているよな。

「オッケー。ありがとう、はいてくれて」

「礼などいるか、クズ虫が。鼻毛で息が詰まって死ぬがいい」

 といったようなことで、彼女は家に住み始めた。


「そんなことより貴様、これは何なんだ?」

 そういえばずっとパソコンを見ていたな、そんなに興味があるのだろうか。

「パソコンだよ。ほらこうやるとメールとか、ネット見れたりとか」

「ほう、ネットとは何だ」

「なんていうか、世界中のいろんな情報が書いてあったり。あと動画もあるし、とにかくやってみればわかるよ」

 といろいろとやってみせたりして、使い方を教えるとどんどん覚えていった。

 そして、その晩から昼も夜もずっとネットをするようになったのだ。いやだからって、そうなったのは俺のせいとかじゃあないはず。もともと持っていた素質のせいだと思うよ。絶対。たぶん。いや絶対。

 普通の少女であればかなり問題だけど、まあ普通の少女じゃあないし、注意すると逆切れするからね。仕方ない。

 それになんと電源を入れてなくてもいいと言うので、電気代もかからないから、まあいいかって。パンチラサイトは見れないけど。

 仕方ないので、俺は先に寝てしまった。朝起きると、彼女は座ったまま寝ているので、睡眠は必要なようだ。でも結局、一体何者なんだろう。それはわからずじまいだった。


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