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金髪美少年のパンツ

 その日は、夏の足音が少しずつ聞こえだした、よく晴れた日だった。

 私はお弁当を作るため、いつものように朝の六時半に鳴り響く目覚ましを止め、台所に向かった。

 そこに小さな男の子が立っていたんだ。

 まるで本物の金細工のように綺麗な金髪は綺麗に整えられていて、切れ長の目には長い金の睫がぴょこんと生えている。ほっぺたはほんのりと赤みがかかっていて、口はちょっと大きめ。

 服は黒をベースとした上にとても高級感のある刺繍が施されていて、いままでこの街では見たことのないような感じ、一体誰なんだろう? 親戚? なわけないし。

「あなた、お名前は?」

「カオーソ」

「カオーソ? ちゃん? どこから来たの? お母さんは?」

「オフクロは来てないよ。まあ、細かいことは後で説明しようと思うんだけどね」

 まあ、家の中にいるんだし、お母さんの知り合いの子かなんかだろうか。とりあえず早くお弁当を作らないと学校に遅れちゃう、と思ってお弁当の支度を始めることにした。

「これなに?」

「お弁当だよ」

「これは?」

「これは、タコさんウィンナーだよ」

「ふうん」

 パクッ。とカオーソちゃんは素早くウィンナーを口に入れてしまった。

「へえ、結構いけるね」

「だめだよ、食べちゃ。学校で食べるんだから」

 でもまあ、一個くらいいいか。と、卵焼きを入れると。

「へえ、これは?」

 パクッ。とまた食べてしまった。

「卵焼きだよ、食べちゃだめって言ってるのに――ちょっとお母さーん」

 お母さんに引き取ってもらおうと思って、居間で朝のニュースを見ていたお母さんを呼んだ。

「どうしたの? 大きな声を出して」

「お母さん。この子なんだけど」

 と、カオーソの肩を持って、前に差し出しながら言うと。

「この子? 何のこと?」

「だから、ここに立ってるじゃない、金髪の」

「誰もいないじゃないの。変なこと言わないで」

 ひょっとして見えてないとか? そんなことってある? でもお母さんがこんな嘘つくとも思えないし。表情を見ても、私が変なことを言っているという感じに見える。私のほうがおかしいんだろうか?

 不思議な事態に、少しの間ぼんやりと考え込んでしまっていた。

 あ、そうだお弁当、と思い出したので振り返ってお弁当を確認すると。

 空だった。

「ちょっ、ちょっと」

「あらあら、まだ作ってなかったの? おかしな事言ってないで、早く準備しないと遅刻するわよ」

 いや、もうほとんど完成してたのに、あとはふたをして袋に入れるだけって、それなのに。

 周りを見回すと、もうカオーソの姿は見当たらない。仕方ない、今日は学食で食べるしかない、早く行かないと。と急いで朝ごはんを食べ、着替えをして家を飛び出した。

「いってきまーす」

「いってらっしゃい」


 授業中も、ずっとカオーソのことが気になってしまって集中できなかった。

 お昼はいつも教室でお弁当を持ってきてる子達と一緒に食べるんだけど、みんなに悪いから一人で学食に行ったんだ。

 その日は、学食で確かAランチの特製ハンバーグを食べた。急いでいて朝ごはんをあんまり食べられなかったから、お腹が空いちゃってて。

 でも食事中も、一体誰なんだろう、ほんとに他の人には見えないのかな? それとも私の見間違い? でもお弁当なくなったし。とぐるぐる考えていたら、いつの間にか全部食べてしまっていた。


 放課後、すぐに帰って確認したい気持ちもあったけど、やっぱり部活も出ておかなきゃと思って、手芸部に顔を出した。

 席に座ってなんとなくフェルトをいじっていると、いつの間にかカオーソにそっくりな人形を作っていた。

 小学生のときからお裁縫やってたから、他の事を考えていても勝手に手が動いちゃうみたい。

「かわいいね。アニメのキャラかなにか?」

 って聞かれたんだけど、

「あ、ええと、そういうんじゃないんだ」

 なんて、あいまいな返事をしてしまった。だめだよなぁ、もっと友達と会話しないと。相手もそれっきり聞いてこなかったし。

 そんな感じで、たまに一言二言受け答えしながら、結局最後までいたんだ。


 家に帰ったら、私の部屋にカオーソがいた。

「ただいま」

 と言ってみたら、

「おかえり~、遅かったね」

 と返してきた。

 えっと、聞きたいことがたくさんあるはずなんだけど、一体何から聞けばいいんだろう。わからない事だらけで取っ掛かりがつかめないよ。ええと、じゃあそうだまずは歳、そうだ、基本はそれだよね、なんて思っていると。

「ごめんね、勝手に食べちゃってさ。すごいうまかったもんだからつい我慢できなくなって」

 と謝ってきた。ぱっと見は反省している感じでもないけど、内心は反省しているのかもしれないな。

「ううん、別に怒ってないよ」

 と答えたとたん、カオーソは待ってましたとばかりに一気にしゃべり始めた。

「そっか、ならよかった。ここで嫌われてたらいろいろ困るからね。それでさ、ここからが本題なんだけどキミと僕とはパロなんだ。パロっていうのはね、まあ仲間って事かな。僕の姿はパロ以外の人や動物には見えないし触れないんだよ。まあ見えるようになる方法もあるんだけど、それは必要になったときに教えるね。ああ、そうそう、もう教えたけど、改めて言うと僕の名前はカオーソ。キミたちの世界と重なっている違う世界の住人なんだ。まあどう違うのかを説明するのはめんどくさいんだけど、とにかくいろいろと違っててね。たとえば、キミたちのできないような、そうだな、空を飛んだり、すばやく動いたり、ビームを出したりとかね。そんなことができたりもするんだ。といっても、それはあっちの世界での話で、こっちの世界に影響することは滅多にないんだけどね。じゃあなんでお弁当が食べれるのかって? それはね、僕の力で影響を与えられるようにちょっとした細工をすればいいんだ。そうすればこっちのものも食べたり飲んだりできる。別に食べたり飲んだりしなくても死んだりはしないけど、味わうことはできるからさ。楽しみのためってわけだね。それでさ、お願いなんだけど、これからちょっとの間一緒にいてほしいんだ。一緒って言っても四六時中一緒にいる必要はないんだけど。離れると力が弱くなっちゃうからさ、まあ大体同じ町にいれば最低限の力は使えるから問題ないかな。だからキミは普段どおり過ごしてくれて構わないよ。あ、キミキミって言ってるけどちゃんと名前も知ってるんだ。豪徳寺華澄さんでしょ、十六歳で高校一年生だよね。特技は裁縫と料理、家庭的だよね。でも人付き合いが苦手なのが悩みってね。あ、僕には気を使わなくていいから、適当に扱ってよ。気にしないから。そんなところかな。何か質問ある?」

 あまりに一度に知りすぎて、なかなか理解が追いつかない。違う世界から来た……ってどういう事なのかな、やっぱり私にしか見えないんだ。

 でも悪い子じゃないみたいだし、何も世話がいらないって言うなら部屋にいても構わないかな、と思った。ちょっと軽率すぎるかな? でも弟が欲しいな、なんて思ったこともあったし。むしろ嬉しいかも、いろいろお話したりとか楽しそう、って。あ、でも、

「あ、えっと」

「なになに? 何でも聞いてよ」

「なんで、私のところに?」

「ああ、それね。まあ、ちゃんとした理由があるんだよ。でもこれはちょっと難しいかな。そう運命、運命なんだ。そう思ってくれればいいと思う」

「ふうん、運命……か」

「そうそう」

「でも一人で来るなんて、お父さんとお母さんはちゃんと知ってるの?」

「いや、ええと、まあ。大丈夫、かな。ちゃんと言ってあるから。うん……」

「ほんとに?」

「うん、ほんとだよ、ほんと」

 カオーソはキラキラした目で見つめてきた。なんか怪しい気もするけど……。もう信じるしかないか。

「じゃあ、これからよろしくね、カオーソ」

「オッケーってことだね。ありがとう、よろしくね、カスミ」


 その日お風呂に入ってたら、カオーソが壁をすり抜けて入ってきた。

「ちょっと待って、今」

「これから一緒に暮らすわけだからさ、この世界には裸の付き合いっていうのがあるって聞いてね。そっか僕も裸にならなきゃだめだよね、ごめんごめん」

 そう言って右手を振ると、服が全部消えて裸になった。ええっ、いくら子供でも丸出しだよ。恥ずかしくて思わず顔を覆っちゃった。

「恥ずかしがることないって、ちょっと触ってもいいかな? ってもう触ってるけど。はは、プニプニしているね、このへんとか。いやでも悪くないと思うよ、ちょうどいい感じだよ、僕好みだよ。はは、へへへ」

「何言ってんの! もう!」

「へへ、カスミも触ってみる? ここんとことか」

「やだもう、いいよ、触んなくて。いいって、いいってば」

「遠慮することないって、僕ばっかり触ってちゃ悪いでしょ」

「全然悪くないって、いいよ、触んなくていいよ~」

 って言ったけど、結局押し切られて触っちゃったんだよね。なんか柔らかくて、つるつるで、ウィンナーみたいな? って何言ってんだろ、今のは無しにしておいて。

 あ、そう、そういえば次の日のお弁当にウィンナーが入れられなかったんだ、なんか恥ずかしくなってきて。


 とまあそんな感じで、カオーソはその日から家にいるようになった。といっても昼間は結構出歩いていて家にいることはあんまりないみたい、学校から帰ってもいないこともあるし。それでも夜になると私の部屋の空中で寝ている。夜はパンダの着ぐるみを着てるんだけど、自由に服が変えられるのはちょっとうらやましいな。

 でも、いくら言ってもお弁当を勝手に食べちゃうのは困る。おいしいって言ってくれるのはうれしいけど、友達に寝坊したって思われちゃう。今度は、もっときつく言ってみようかな。


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